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王子と聖女と悪役令嬢ときどき僕~王子には僕が溺愛している妹に見えるようです~  作者: 藤井めぐむ
3章

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47/80

47:王子に頼まれていた報告を行いました2

アイナ・クロンバリー(双子の従姉/ルドの妹/シグの侍女)

「準備は……間に合うんでしょうか?」

 前回のスタンピードからまだ二十年しかったてない。魔物の群れに襲われた傷跡はまだ癒えていない。シーデーン領は幸い被害が少なかったが、立て直しもまだ終わりきっていない町や村もある。国から援助が出るとはいえ全額というわけではない。資源も無限にあるわけではないの。特に聖晶石の不足が顕著だ。

 でもその聖晶石も聖上殿の官吏が横流ししているのだとしたら。




「ムリだろうな。脳天気な中央の連中を動かして、早急に狂い咲きに向けて準備をするのは……。やれるところまでやったら、あとは出たとこ勝負か」

「嫌になったりしないんですか?」

 貴族からは生まれのせいで蔑まれ、なのにこの過酷な地で戦うことだけは押しつけられている。シグヴァルドの置かれている状況は、腐ってもおかしくない。




「考えたこともない」

 さらりと答えて、シグヴァルドはベルトルドを見た。

「昔の自分だったら、こんな面倒ごと引き受けなかったかもしれないが、おまえはなんの準備もなくスタンピードが起こった日には、真っ先に死にそうだしな」

 ベルトルドが貧弱であることは全くその通りである。それが一体、シグヴァルドの判断にどう左右したのだろうか。まあ、ほとんどの国民はベルトルドと似たような状況だろうし、国を継ぐものとしてと言うことだろうか。




「とりあえずイングには一報を入れたから、近いうちにやってくるだろう」

 う、とベルトルドは固まった。この状況を見られたら祖父には確実に怒られるだろう。やはり将来は、どこかの連隊に所属させられて魔物退治の毎日になるのだろうか。着々とドロ沼の未来が近づいてきていて暗い気持ちになった。

「なんだ? イングに叱られるのか?」

 しょんぼりと肩を落としたベルトルドを、シグヴァルドは不思議そうに見やる。




「お祖父さまにはアーシャと殿下のことに首をつっこんだら、将来はどこかの師団に放り込んで魔物退治させるって言われてるんです。僕どうも荒事には向いてなくて、いまだに銃は的に当たらないし……」

「気にするな。俺が一緒に抗議してやる。俺も、ジジイには一言ならず言いたいことがあるからな」

「お祖父さまに――ですか?」

「ああ、そしたらお前のその件はうやむやになる。だから気にしないで気楽にしてろ」

 シグヴァルドが一緒に抗議してくれるなら、さすがの祖父やルードヴィクも強くは言えないだろう。気持ちが楽になって、ベルトルドは次は何を食べようかと皿の上を見回す。




「どう、ベル? おいしい?」

「うん、姉さま、ありがとう」

 ティーポットを二つ持って戻ってきたアイナは、ふふと笑う。ラグの上に銀盆を置くと、ベルトルドとシグヴァルド、二人にそれぞれ別の飲み物を提供する。それから膝を突いて改まったアイナは、シグヴァルドに向き直った。




「シグヴァルドさま、ベルトルドの傷を治してくださってありがとうございます」

「いい、気にするな」

 ベルもきちんとお礼を言ってと促され、ベルトルドはおずおずと頭を下げる。

「不本意って顔に書いてあるぞ」

「ぅええ?」

 頬を抑えたベルトルドと、笑っているシグヴァルドを等分に見やり、アイナはほうと息をついた。




「あんなに顔が腫れるほど殴られるだなんて、心配だわ。シグヴァルドさま、なんとかならないのですか」

「ア……アイナ姉さま、あれは僕も悪かったから」

「殴られた方が悪いなんてあるわけないでしょ。どんな理由だって殴ちゃだめなの。相手は魔物ではないのよ」

「う……ん、でも」




 殴られたときのことざっと説明する。実際、もう少しうまく立ち回るべきだった。警邏隊の主任が言うように、もめる理由はなんでもいいように思える。それに、フレデリクが助けてくれるとは言うが、ならばどうして貴族の訓練兵たちにもめないように言ってくれないのだろうか。その場その場に現れて場を収めてくれはするが、それこそが目的のまるで示威行動のようだ。

「体を張る必要はない。ケンカさせたいヤツにはさせておけ」




「平民が貴族を殴ったとなれば、まずいことになりませんか」

 平民や辺境民たちに実害が及ばないように配慮しろと言ったのは、シグヴァルドだ。

「なるだろうな。だがそれはそれで仕方がない。アイナの言うことは間違いじゃない。手を出したなら責任は負うべきだ」

 それに、とシグヴァルドは立てた膝を戻して、飲み物に手を伸ばす。




「おまえが思うほど一方的な状況にもならないから安心しろ。聖女が現れた今となっては、兵士は一人でも多い方がいい。貴族を殴ったくらいで程度で厳罰を科していては、兵士のなり手がいなくなる」

「組織だった行動なんでしょうか?」

「近頃の馬鹿騒ぎはそうとしか考えられないな。俺を陥れたいのだろうが、状況が変わった今、古ギツネも手を変えてくるだろう。聖女の登場でこちらも予定が狂ったが、向こうも狂ったってことだ。俺を殺すより働かせた方が有益だ」




 自分のことを話しているとは思えない、客観的な会話に、ベルトルドは困惑してシグヴァルドを見つめる。そんな視線に気がついたシグヴァルドがふっと口角を上げた。

「俺がカワイソウになったか?」

「ぅえ?」

 また笑い始めたシグヴァルドに困って横を見ると、アイナがにこにこと微笑んでいて、ベルトルドはまあいいかと、ぬるくなり始めたお茶をすすった。

明日もまだシグです。


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