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王子と聖女と悪役令嬢ときどき僕~王子には僕が溺愛している妹に見えるようです~  作者: 藤井めぐむ
3章

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41/80

41:聖女と英雄は真実の愛で結ばれます

シモン・ネルダール(聖女殿付官吏長官補)

ヘンリク・アベニウス(聖女殿付官吏長官)

アグネータ(聖女)

ゴットフリッド(前国王/アグネータの英雄)


本日2本目です

 坂を下りながら聖木を見上げ、シモンはぼそりとつぶやいた。ベルトルドもまた聖木を見上げる。これからのことを考えると目の前が真っ暗になるような想いがする。後に二十年はかけて準備する予定だったものを、あと5年でと言うのはあまりにも無謀だ。

 希望があるとすれば、聖女が二人いるということだろうか。




 そういえば、とベルトルドは、先日アロルドやルードヴィクとした会話を思いだし、シモンを見上げた。

「同時に聖女が二人もいるなんて今までなかったと聞きました」

「そうですね、今までは多少前後するとはいえ、狂い咲きの間合いは50年ぐらいありましたから」

 前のときに聖女が20くらいだったとしても、50年後は存命かどうかアヤシイ時間だ。




「でも前回なんかは、間40年しかなかったんですよね。それに今まで長生きなさった聖女さまがいらっしゃらなかった訳じゃないだろうし」

「前々回の聖女ブリギッタさまは、流行病で若くして亡くなられています。まあ、でも聖女さま方は狂い咲きのあと、聖女殿に残ることは稀なんです」

「そうなんですか? アグネータさまがまだ聖女殿にいらっしゃるので、そんなものかと思ってました」




「まあ、何年かは聖女殿で暮らされる方もおられますが、物語でも良く書かれるのでご存じだと思いますが、聖女さまは英雄と恋仲になって、その後結婚されることも多いのです。アグネータさまが選ばれた英雄は、ゴットフリッド王だったので関係ありませんでしたが、英雄にしても聖女にしても国からたいそうな報奨金が支払われます。そのお金で市井で暮らされますね。残られる聖女さまの理由で一番多いのは、狂い咲きで負ったケガが癒えず、官吏がその後のお世話をさせていただくような場合です」

 聖女だって戦場に身を置くのだから、守られてはいるのだろうが、それでも無傷ではいられない。ケガを負う聖女だっているのだ。




「あの、お話の中に聖女と英雄の恋というのはよく聞くんですが、実際結ばれている方は多いのですか?」

「まあ物語はだいぶん盛っているとは思いますし、そのあと続くかどうかは置いておいて、結ばれた方は多いですね。聖女さまは若い女性であることが多いので、どうしても色恋は発生するようです。英雄を選ぶ判断基準もよくわかってませんし、聖女さまの気持ち一つかもしれません。ただ、初期のころはわかりません。あまり資料が残っていなくて、言い換えれば聖女と英雄の恋物語を民衆が求めていて、遡ってつくられた可能性は高いと思っています。実際、ゴットフリッド王とアグネータさまも、現役時代には多くのウワサがあったようです」




「前王さまは結婚なさっていたのにですか? 20年前といえば、その頃はまだ王后さまもご健在でしたよね」

「既婚の英雄は、実は少なくないのですよ。その、実際泥沼……なんてことも多いようです」

 むぅっとベルは眉根を寄せる。

「君のように若い人には気分の良くない話でしょうか?」

「あ、いえ、そういうのとはちょっと違って」




 えと、その、とベルトルドが言葉を探していると、シモンが察して謝った。

「申し訳ない、次の英雄はシグヴァルド殿下ではといわれていたんでしたね。婚約者のお身内として複雑でしょう」

 確かにニーナとシグヴァルドが恋仲になるなら、アストリッドは逃げられて万々歳なはずだ。どう考えたって四方丸く収まりそうなのに、そこで断罪なんて言葉が出てくるのか本当に不思議な話である。アストリッドの考えすぎってことはないのかなぁと、ベルトルドは聖木を見上げてぼんやりと思った。




「――でも、アストリッド嬢のことは殿下の一方通行だと思っていましたが……」

「ちょっとその……いろいろ複雑でして」

「貴族はなにかと大変ですね」

 アストリッドの不思議な話はそのまま口に出すのは憚られて、ベルトルドは言葉を濁した。それでもシモンはいい具合に濁した部分を解釈してくれたらしい。




 二人並んで坂を降りながら、長い沈黙が落ちた。聖女殿はもうすぐそこだ。別れたあとは馬車で帰ろうか、それとも天気がいいので歩くのもいいかもと頭の中で算段していると、シモンが口を開く。

「姫君のこと、気をつけた方がよいでしょう」

 驚いてベルトルドはシモンを見上げた。シモンは前を向いたまま硬い横顔を晒していた。淡々とした口調で、シモンは言葉を続ける。




「聖女殿の官吏はもともと中央憎しみたいなところはあったのですが、今はそれがすべて殿下に向かっています。司令官閣下が着任して真っ先に手をつけたのは金策だったのはご存じですか? 聖女殿も資金を減らされました」

「あの、状況を考えるとそれもしかないことかと」

「ええ。それはわかっているとは思うんですが、感情はまた別なのかもしれません。そして減った資金を、貴族への聖晶石の横流しで得ようとしました。閣下はそれに気づいておられる。そう考えてアベニウス官吏長官は懐に蛇を招きました」

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