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王子と聖女と悪役令嬢ときどき僕~王子には僕が溺愛している妹に見えるようです~  作者: 藤井めぐむ
2章

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32/80

32:王子と聖女と妹が一堂に会しました1

イェルハルド(シグの義弟/第二王子)

フレデリク・エクヴァル(アスタに惚れてる先輩)

 聖木とその周辺は国の管理になるため、許可なく近づくことはできない。そのために第三連隊駐屯所から崖下へ降りるための道は封がしてある。前の二人は障害物の要領で、人馬一体になってひらりと飛んでいってしまう。

 下に降りてなにをしようというのだろうか。追いかけるフレデリクがしきりに止まるように叫んではいるが、先頭を走るイェルハルドには聞くつもりはないようだ。

 緩やかにカーブしながら木立の中の道を下っていくと、ドン! と腹に響く音が立て続けに聞こえてくる。もう、攻撃が始まっているのだ。




 ふっと急に視界が開ける。目の前には大きな湖が広がっていた。キラキラと光を弾く湖の中心には聖木が天を突き、その左岸には、今自分たちが降りてきた崖が張り出している。その上にあるのがトゥーラの街だ。

 その前に白い鳥が何十羽と旋回していた。胴回りだけで裕福な民家ほどもある大きな鳥だった。白花の魔鳥と呼ばれるその鳥に向け、街の壁の上から矢継ぎ早に攻撃が放たれる。弓の攻撃も大砲での攻撃も、着弾した瞬間魔法陣が展開し、魔法攻撃が炸裂する。魔物には魔力を帯びた攻撃しか通じない。だが多少姿勢が崩れる程度で、見ている限りあまり有効な攻撃には見えなかった。




 湖の中心、聖木へと目をやれば、遠目にも蠢く影が見える。今上空にいるのだけでもおそろしいのに、あれまできたらと思うと恐怖を覚える。だがベルトルドの影からは、にゃーが狩猟本能を刺激されているのか、うずうずしている感覚が伝わってくる。勝手に出てきちゃダメだよと伝えると拗ねてしまったが、今はそれどころではない。

「殿下! イェルハルド殿下、止まってください。それ以上は危険です!!」

 フレデリクが声を張り上げる。だがイェルハルドは耳を貸すそぶりさえない。まっすぐ浜辺へと向かっていくが、魔鳥の気配に怯えて、馬のが進む速度が落ちた。ベルトルドがほっとしたのも束の間、頭上から流れ弾がイェルハルドに迫る。だが前しか見ていない彼は気がついていなかった。




「殿下!」

 フレデリクは叫んで、とっさにイェルハルドの頭上に障壁を展開した。うしろを追いかけていたベルトルドは目の端に引っかかったものに、にゃーちゃんと呼びをかける。にゃッと短く答えが返って、ベルトルドは馬の腹に拍車を入れた。

 フレデリクの意識を反らすべく、ぎりぎりフレデリクに並ぶ。だが一瞬遅く、気を引けないまま魔弾が障壁に当たった。

 瞬間、魔法陣を展開、光を放って火魔法が炸裂する。ゴォッと音を立てて炎がふくれあがった。

 同時に、黒い巨影がベルトルドの足下から跳び出し、また横の斜面を降りてきた()()()が馬上のイェルハルドに突っ込んだ。




 馬が(いなな)いて竿立ちする。ベルトルドは振り落とされないように馬にしがみつくので精一杯だった。

 暴れる馬が落ち着くのを待って、ベルトルドはイェルハルドの元へと駆け寄る。

「アーシャ! 殿下は!?」

 草地に、イェルハルドの頭を胸に抱えこむようにしてアストリッドが転がっていた。いててとつぶやいてアストリッドが上半身を起こす。抱えられたイェルハルドが小さく呻き声をあげ、双子はほっと息をついた。




「え? お、おま……っ、一体どこから!」

 ベルトルドよりもいち早く駆けつけたものの、二人の横で目を白黒させていたフレデリクが、口をははくはくさせながら叫ぶ。

「聖女さまに付きあって聖女殿の塔から見てんだ。そしたらイェルハルド殿下が走ってるのが見えて、追いかけてきた」

 アストリッドが指さす方を見れば、幕壁の上にのぞく塔に人影が見える。だがそれが誰かなんて判別のつく距離じゃない。




「だからって崖を飛び降りるか!?」

 フレデリクの言葉はもっともである。だが、落ちてくるといった表現が似あう勢いで、間一髪で馬上のイェルハルドの体を抱き込んで転がった当の本人は、切り立った崖を見上げて小首を傾げる。

「これくらいなら平気だって。ベルが追いかけてるのも見えたし」

「は? ベルトルド?」

 意味がわからんと首を傾げたフレデリクに、ベルトルドは曖昧な笑みを浮かべた。フレデリクはにゃーの存在には気がつかなかったようで、ほっとする。

 



 身体強化しているアストリッドはいいものの、あの勢いではいくら彼女がかばったとしてもイェルハルドは無事に済まない。だからにゃーに彼女のクッションになってもらったのだ。

 ただにゃーを見られるわけにはいかなかったから、気を反らそうとしたのだ。けど追いつくので精一杯で、なにもできなかった。吹き上がった火の勢いが強かったおかげで、目くらましになったのは幸運だった。今はもうベルトルドの影の中に戻っているにゃーに、ありがとうね、と声をかけると、猫は満足そうに喉を鳴らした。




「なんて非常識な! そんなだから……」

 興奮冷めやらぬ調子で文句を言おうとしたフレデリクを、アストリッドは手を上げて制止する。彼女の目は湖の方へと据えられていた。ベルトルドも、そしてフレデリクもまた湖を見る。

「誰だ、あれは?」




 砲撃はいつのまにかやんでいた。時折バサバサと白花の魔鳥の羽ばたきが聞こえる。その中を一人の少女が、水の中へと足を踏み入れた。

 光の加減でピンクにも見える色の髪の少女――その髪に今は若草色のリボンはない。

続きます

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