31:魔鳥が襲来し、王子の指示で兵たちが動きます
アロルド・セーデルルンド(副司令官)
ヴェイセル・ウルマン(第三連隊長)
ウルリカ・ラウリ(第二連隊長)
エンゲルズレクト・オーバリ(第一連隊長)
トピアス・ユーホルト(ベルたちの代の訓練兵の副主席)
フレデリク・エクヴァル(アスタに惚れてる先輩)
イェルハルド(シグの義弟/第二王子)
いち早く動いたのは窓へと駆けつけたエンゲルズレクトと、扉を開けたルードヴィクだ。
「な……なにごとだ!?」
ガンガンガンガンと叩きつけるような警鐘に、辺りを見回してディンケラ子爵が悲鳴に似た声をあげた。一番動揺していたのは彼だったが、騎士たちも動揺して辺りを見回している。ベルトルドたち訓練兵も含め、現在トゥーラで暮らしているものたちは慣れたもので、一報が入ってくるのをじっと待つ。
だがさすがに、開けた扉から飛び込んできた兵士の報告には、士官たちの間にも動揺が走った。
「申しあげます。魔鳥が街に向かってきます。その数五八。木の周りで旋回する魔鳥の数は現在確認中」
視線が、壇上の司令官へと集中する。
「ルド、俺の剣を持ってこい」
静かな声が告げる指示に、ルードヴィクが短く答えて扉から消えていく。それを見送って、シグヴァルドは向けられる視線をぐるりと見渡した。
「第一第二連隊はすぐに状況確認と戦闘準備。岸に近づく魔鳥は殲滅せよ。第3連隊は幕壁に兵を展開、大砲の準備急げ。それ以外は市街地の守りを固め、市街戦に備えよ。偵察隊は引き続き状況確認と情報を収集だ。緊急時により市内上空の騎鳥の飛行を許可する。急ぎ命のごとく行動せよ!」
バッと一斉に敬礼して、すぐに軍人たちは広間を飛び出していく。
「ひとりで出られるのですか」
「ひとりの方が動きやすい。今はまだ結界が未整備だ。街に損害が出ないようにそちらに力をいれろ」
近づいてきた連隊長たちに、シグヴァルドが答える。顔をしかめたヴェイセルに、手をあげたエンゲルズレクトがはいはーいと明るい声を聞かせた。
「オレも一緒に出撃しま~す。どうせェ第一連隊は戦闘以外のこと、副隊長が全部やってるからー」
「そんな威張れないことを恥ずかしげもなく言うのはやめてくださいっていつも言ってるじゃないですかー!」
自信を持って言っていいようなことではないことを自慢気に話す上官に、第1連隊の若い副隊長がムキーッと抗議の声をあげる。
「えー? うちの副隊長は優秀なんだぞーって自慢してるのに」
同僚を冷たい目で見ていた三〇がらみの黒髪の女が、すっと前に進みでた。北の辺境地の特徴である透き通るような白い肌に長身の女は、第2連隊長のウルリカ・ラウリである。
「第一連隊は私がフォローします。司令官閣下、どうぞ戦闘バカをお連れください」
ヒャッホー久しぶりの本気の実戦と浮かれてるエンゲルズレクトに、閣下のジャマしちゃダメなんですからねと、副隊長がすかさず釘を刺す。
連隊長たちのやりとりを眺めていたシグヴァルド、彼らの意見がまとまったのを見て、騎士の方へと目を向けた。
「騎士はユスティーナさまとイェルハルドを退避させよ。一年目組は新人の安全確保後に後方支援、二年目組は第三連隊のサポートだ、急げ」
ユスティーナはなにか言いたげな目をシグヴァルドに向けていたが、騎士たちに促され肩を落とし、イェルハルド共に退出した。そのあとをディンケラ子爵が慌てて追いかけていく。
「閣下、剣をお持ちしました」
彼らと入れ違いに戻ってきたルードヴィクが、飾り気のない剣を渡す。シグヴァルドは式典用の細身の剣を渡し、受け取った剣を腰に下げる。
「ルド、おまえは二妃さまと共に行け。状況次第で王都へ送り届けろ。判断はおまえに任せる」
「かしこまりました。閣下、ご武運を」
頷いたシグヴァルドに、ルードヴィクは騎士を追って出ていく。
「アロルド、おまえは聖女殿の方を頼む」
「心得て。聖女さまが手を貸してくれればよいですが」
「期待はしてない」
「ベルトルド、急げ!」
最後までシグヴァルドたちから目を離せなかったベルトルドは、トピアスに促され、あわてて出口へと向かう。ホールを出る前に振り返ったとき、こちらを見ていたシグヴァルドと目があった。厳しかった表情がふっと緩んで笑みを見せたシグヴァルドに、ベルトルドは頭を下げるとトピアスを追いかけた。
兵士たちは騎鳥の許可が出たが、従魔の数は軍人全部に行き渡るほどの数がいない。従魔とは使役されている魔物のことで、空を飛ぶ騎獣として、鳥の中でも頭のよい烏が主に使われていた。
また騎鳥は乗りこなしにも技術がいるため、訓令兵は騎馬だ。本部玄関を出ると車寄せにはすでに騎馬が準備されていた。
「ベルは寮担だろ? 俺たち⦅二期目⦆は市街を回るから、一期目は寮を頼む」
「俺はベルトルドと行くからな!」
一年目同士簡単に打ちあわせるとそれぞれ馬に飛び乗った。なぜか一緒についてきた二年目のフレデリクが宣言する。
どうせ行く先は同じ第三連隊の駐屯地だ。反論せずベルトルドはトピアスとフレデリクと共に、先に出た二年組を追って馬を走らせる。
警鐘の音に不安そうにはしているが、街に混乱はないようだった。基本結界があるので、スタンピードが近くならなければ、街での戦闘などほとんどない。また普段から避難訓練は行われているので、警邏隊や兵士の誘導で人々は粛々と避難している。
街の中の様子を見ながら、三人は一気に門へと駆け抜ける。既に警邏隊がでて、大通りは市民の通行規制が行われているのだ。だが一気に戻ってきた門のあたりは、人で混雑していた。
警鐘の音を聞き慌てて戻ってきた、畑仕事や牧畜炭焼きなど街の外で働くものたちや、物資を持って街に出入りする第三連隊所属の兵士たちなどだ。その中に寮生を見つけ、ベルトルドは馬を降りて駆け寄った。
「よかった、ベル! 人数が足りなくてどうしようかと思ってたんだ」
「新人たち?」
「寮生で手分けして探してるんだけど、どうしたらいい? 一応時間を決めて、一回門に集まることにしてるけど」
「わかった。なら見つかった新人だけ、街の避難所に連れて行ってくれる? そのあとは後方支援って言われてるから、しながら探そう」
兵役が始まったらすぐに警鐘がなった場合の対処法を習うのだが、なにしろまだ始まってさえいない。警鐘に怯えてどこかに隠れているのかもしれない。街中にいてくれれば周りの人が避難所に連れて行ってくれるだろうが、駐屯地にいるなら敷地が広くて探しきれない。
情報を共有しておこうと、士官に話を聞きに行ったトピアスを探して振り返った時、急に悲鳴が上がった。
驚いて悲鳴がした方へと振り向くと、一頭の馬が速度を緩めず人ごみの中に突っ込んでくるところだった。避けろ、危ない、跳ねられるぞと、口々に叫ぶ人にも構うことなく、馬は全速力で門を駆け抜けていった。
「イェルハルド殿下!?」
叫んだフレデリクが間髪入れずそのあとを追う。
「ベルトルド、お前も行け!」
「え、僕?」
「俺ではあの二人を止められない」
僕だって止められないと思うけどなぁと、トピアスに追いかけろと言われて思ったが、そんなことで口論している場合ではない。寮生に今の話、もう一度トピアスにしてあげてとお願いすると、ベルトルドは騎乗して二人の後を追いかけた。
キャラ多過ぎんだろ……
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