29:聖女の事情と真実の愛の話を聞きました3
アロルド・セーデルルンド(副司令官)
ルードヴィク・クロンバリー(双子の従兄・司令官補)
ヴェイセル・ウルマン(第3連隊長)
フレデリク・エクヴァル(訓練兵の先輩)
デニス・アルデバリ(食堂前で騒いでいた後輩)
もの思いに耽っていたところ、額をつつかれハッと顔を上げた。アロルドがまた心配げな顔をしていたので、ベルトルは慌てて頭を振った。
「あ、いえ、新しい聖女って現れるのかなって考えてて……」
否定してもまだ心配げな様子を見せていたアロルドは、気持ちを切り替えるように小さく息をついて、それから小首を傾げた。
「どうだろう。聖木の状況を見てると、もうそろそろ現れてもおかしくない状況なんだけど。なにしろ前の代がまだご存命だからねぇ」
「聖女は前代がいると現れないんですか?」
「どうかな? わからないっていうのが本当のところかな」
「今まで二人の聖女が重なって存在したことがなくてな。年齢的に考えれば重なってる時期もあるにはあるが、少なくとも先代が存命時に、次代が名乗りでた例がない」
へぇとベルトルドは相槌を打つ。少なくとも今回はその初めての例になるのだろうか。次代の聖女であるニーナはもうそこに存在するし、彼女にその自覚もあるようだった。
ニーナの話を聞いていた時にはわかっていなかった。でも今考えれば、彼女の言うやらなければならないこととは、聖女としての務めのことなのだろう。
そのために何か大切なものを失ってしまうと泣いていたニーナ。そのうえ名乗りでたら、権力闘争に巻き込まれるのが待ったなしとは、華奢な彼女の肩にのしかかるにはあまりにも重すぎる気がする。
シグヴァルドにしてもそうだが、人とは違う特別な力というものは、本人の意思とか関係なくいろんな重荷を持たされてしまう――そういうものなのかもしれない。
「今日はもう出歩かないようにって閣下に言われてるし、早く寝るんだよ、ベルくん」
素直に頷いて馬車から降りると、ベル坊ー! と呼ばれてベルトルドは振り返った。街の門のところで屯している集団の中から一人、小走りにかけてくる見知った顔を見つけ、ベルトルドは手を振った。
「主任さん!」
「寝込んだって聞いたぞ、体の調子はもういいのか?」
「あ、はい、もうすっかり元気です。ご心配おかけしました」
「よかったよ。俺たちがこき使っちゃたせいかと、反省してたんだ」
「いえいえ違いますから」
しゅんと、大きな体を小さくした中年の男に、ベルトルドはあわてて否定する。王子と妹のせいなんですとも言えなくて口ごもっていると、馬車の中から声がかかった。
「ベルくん?」
「アロルドおじさま、こちらは警邏隊の主任さんです。主任さんこちらは……」
「ふふふふふ副司令官閣下!」
馬車から降りてきたアロルドを見上げ、男はガチガチにシャチホコ張って敬礼した。
訓練兵は訓練を終了すると、それぞれ各地へと散っていく。以降予備兵となり住み着いた土地でスタンピードに備えるのだが、そのままトゥーラに住み着く者のもいる。警邏隊はそんな訓練兵上がりの者たちで組織されている。
「いつも訓練兵が迷惑をかけてすまないね。なにかあればいくらでもこちらに苦情を言ってくれればいいよ。街に迷惑をかけるのは本意ではないからね。司令官閣下も非常に気にかけておいででね」
いつものにこにこ顔でアロルドは対面する。司令官閣下がですかとジーンと感動に打ち震えている主任に、続いて降りてきたルードヴィクが声をかける。
「今はどうだ? 何か困ったことなどないか?」
「本部から兵を回していただいてから、だいぶん楽になりました。が、最近ちょっとまた様相が変わってきて……その、ベル坊には迷惑をかけすぎたとは思ってるんだが、また相談させてもらいたくて」
申し訳なさそうに、また大きな体を小さくしてしまった主任に、ベルトルドは首を傾げた。
「どうかしたんですか?」
「それが、その、前は貴族の方が犯罪に巻き込まれて、そのときの対応が拙いって怒ってくる方に困ってベル坊――ベルトルド訓練兵に手助けしてもらってたんですが、最近はなんて言うか……街中の至るところで難癖をつけて回っているというか」
「なんだそれは」
意味がわからんとルードヴィクが呆れた声を上げる。ルードヴィクは腕を組んで、まあでも、と言葉を続けた。
「今までそんなこと言うヤツがいなかったわけでもないだろう?」
「そうですね、前からそういう感じの貴族の方もいたんですが、最近は頓に数が増えてるというか」
「ふむ。イェルハルド殿下が旧都入りされて、多少おいたが増えるだろうとは思っていたが……」
ふむとアロルドが顎に手を当てて首をひねる。
「気が大きくなって尊大に出ているだけですかね?」
「だったらもっと行動がバラバラでもおかしくなさそうなものだが」
「なんか、皆さん、真面目そうと言うか、身なりがきちんとしているというか……」
う~ん? と全員で首をひねっていたが、アロルドが息をついた。
「すまないが、しばらく待ってもらえるかな。こちらの方でも手を打とう」
「あ、はい。ご迷惑をおかけします」
「迷惑をかけているのはこちらの方だ。なにかあれば私を呼んでもらっても構わないし、彼――クロンバリー司令官補でもいい、ヴェイセル連隊長にも話を通しておこう」
ありがとうございますと頭を下げ、主任は仲間の元へと戻っていた。
そういえば、初めてフレデリクに助けてもらったとき、おとり巻きを連れたデニスもきちんとしている感じがした。そのあとの何件かで呼ばれたときの相手もそうだったなあとぼんやりと思いかえす。変な共通点だなとベルトルドは思った。
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