23:王子が迎えに来ましたが、妹の周りにいる男たちは距離感がおかしすぎます
ユスティーナ(シグの義母/現国王妃)
イェルハルド(シグの腹違いの弟/第二王子)
本日2本目
お迎えと聞かされて咄嗟に浮かんだのはルードヴィクだ。しかし誘導されるままに振り返って、ベルトルドはびくっと竦んだ。少し距離があるところで礼をとっていたのはシグヴァルドだった。
「二妃さまにご挨拶に来られたのでは?」
小首を傾げるベルトルドに、ユスティーナはころころと笑って立ちあがる。そのとても楽しそうな笑みを不思議に思いながらも、ベルトルドも倣った。主催者が前置きなく席を立ったということは、お茶会はここまでということだ。
「先ほどのお願い、忘れないでね? その代わりと言ってはなんだけど」
ベルトルドのそばへとやってくると、ユスティーナは両手でベルトルドの手をとった。そしていたずらっぽい笑みをその口の端に浮かべる。
「ベルトルドさんに困ったことがあれば、ぜひ私に相談してちょうだい。なんでも相談にのるわ」
「あ……えと、ありがとうございます」
ベルトルドはぱちくりと瞬く。社交辞令だろうとは思うが、えらく熱がこもっている。謝意を伝えると、だが彼女は握った手にきゅっと力を込め、念押ししてきた。
「絶対よ」
そのあと上目遣いに、でも有無を言わせない勢いで手紙を書くことを約束させられ、ベルトルドは背中を押された。遠目に見ても不機嫌そうなシグヴァルドの元へと行くのは遠慮したかったが、いやだと言えるほどの勇気もない。促されてベルトルドは彼の元へと向かう。
「二妃さまに無理は言われなかったか?」
己の前にたどり着いたベルトルドを見て、それからシグヴァルドはユスティーナの方へと顔を向ける。
「あ、えと、これといって」
ベルトルドへと目を戻すと、二の腕を掴んで建物へと歩き出す。その少し乱暴な仕草に、怒ってたって話だっけと、ルードヴィクの言葉を思い返す。
一昨日、別れた時点ではそんなふうには感じなかったのに、そんな話を聞かされても対処のしようがない。困ったなぁとへにょりと眉を垂らしていると、前を見たままのシグヴァルドが硬質な声を聞かせた。
「どんな話を?」
「え……と、子どものころの話……とかですかね」
アストリッドのことを正直に話すのはばかられて、一番当たり障りのなかった話を口にする。
「子どものころ?」
「イェルハルド殿下の七歳のパーティの時に、えと……その、僕がお菓子を握りしめて泣いてたとか」
興味をひいたのか、振り返ったシグヴァルドの声や表情に色がついた。少しばかりほっとしながら、ただ話の内容に眉が垂れる。
シグヴァルドにはこんな恥ずかしい話ばかり聞かれてるような気がする。でも聞かれてることに話したくないというわけにもいかず、ユスティーナに聞いた話を伝えた。黙って聞いていたシグヴァルドは、唐突に天を仰いで大笑いし始めた。
あんまりにも大笑いしているので、さすがにひどくないだろうかとベルトルドはむっとする。口を尖らせたベルトルドを見て、笑いをかみ殺すと、シグヴァルドは掴んだままの二の腕を引き寄せた。ベルトルドの肩に顔を伏せたシグヴァルドの肩は、こらえきれずにまだ小刻みに揺れていた。
「なにが……悲しかったか覚えてるか?」
「……覚えてません」
「七つか、まあ、そうだな。よっぽど印象的なことでもなければ、そうそう覚えてはいないか――それにしても、まさか彼女が……」
独り言を呟きながら、殺しきれない笑いの発作で、時折ひくつくように体が痙攣している。それをじとっとした目で見ているベルトルドに気づいたのか、悪い、悪かったと、謝りながら体を起こす。
髪をかき上げるシグヴァルドの目元は、濡れて光っていた。涙を流すほど大笑いしていたのかと思うと、思わずジト目にもなる。
いやまあ、笑い話だとは思う。だからといってそこまで爆笑するような内容でもないと思うのだが、意外と笑い上戸なのだろうか。笑い上戸でその上怒りっぽいとか、感情の起伏が激しそうな人である。抱いていたイメージとはかなり違うようだ。
彼の元で働けと言われても、そんな感情の起伏の激しい人の下で働くのはちょっといやかもしれない。
ぼんやりそんなことを考えていたベルトルドと目が合って、シグヴァルドが再び笑いの発作に呑まれかけた。咳払いでごまかそうとしながらシグヴァルドは、二の腕から手首へとつかむ場所を変えて歩き始める。
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