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王子と聖女と悪役令嬢ときどき僕~王子には僕が溺愛している妹に見えるようです~  作者: 藤井めぐむ
2章

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19/80

19:王子のことで従兄に怒られました2

ルードヴィク・クロンバリー(双子の従兄・司令官補)

アロルド・セーデルルンド(副司令官)

ヴェイセル・ウルマン(第三連隊長)

二妃ユスティーナ(国王妃)


本日2本目です

「悪かった悪かった――それで?」

「そしたらアイナ姉さまが会いたがってるからって、おやつもらったの」

 ぐしゃぐしゃになった髪を引っ張りながらありのまま答えると、ルードヴィクは深いため息をついた。

「……おまえな、もうそろそろおやつに釣られるのはやめろ。幾つになった」

「おやつじゃないよ。だってアイナ姉さまは内向きの仕事だから、なかなか会えないんだもん」

「成人間近の男が、『だもん』もよせ」

 小言を連発されて、ベルトルドは頬をふくらませる。そのふくらみをひねり潰して、ルードヴィクはもう一度深くため息をついた。




「まったく、誰に似たんだおまえは。アストリッドは明らかにオヤジさまのところの血筋だが、うちの叔父さんは線の細い人だったが、お前みたいにぽやぽやしてなかったぞ」

 えーと不平の声を上げたベルトルドのことは黙殺し、ルードヴィクはアイナのヤツと口の中でごちてと忌々しげに顔をしかめる。それからガシガシと己の髪を乱雑にかき乱し、荒々しく息をつくと、床に目を落としてよく保った方かと呟いた。

 口うるさいのはいつものことだが、今日のルードヴィクはどうも情緒不安定のようである。触らぬ神に祟りなしと、すすっと距離をとろうとしたが、その前に再び伸びてきた手に頭をぐわしっと鷲掴みにされる。




「あの人な、沸点が低いんだ」

「あの人って誰ですか? イライラしてるからって、僕の頭に八つ当たりするのはやめてもらっていいですか」

「ああ悪かったな。総領孫(跡継ぎ)のぽやぽやが進んだら、オヤジさまに顔向けできなくなるところだった。――今の話の流れで、殿下以外の誰がいる」

「僕に謝ってくれるとうれしいんだけど。……変なタイミングで怒りだす人だなあとは思ったよ。でもアーシャは、なにしても怒んない人だって言ってたし」

「だろうな。矛盾はない」

 矛盾しか感じなかったが、ベルトルドは胡乱な目を向けるだけで指摘するのはやめておいた。多忙のせいか、今日の従兄は少々イっちゃってるようだ。下手に突っ込むと今度は髪の毛をむしられかねない。




 これ以上の頭部への加害を避けるべく、ベルトルドは話を戻す。

「報告、いつごろ伺えばいいかな?」

「顔合わせの翌日、昼過ぎなら時間がとれる」

「露払いの見学者は? もう2週間切ったよ」

「もめててな……たぶんなしになる」

「見学者を入れないの? 兵役前に戦闘を見ることはとても大事だって、お祖父さまが力説なさってたよ」

 トゥーラに向かう途中で寄った王都のタウンハウスで、祖父に何度も聴かされた。あまりにも繰り返されたせいで、アストリッドと祖父の言いあいに発展したのを思いだす。




「アロルドさまはなるべく見学者を減らさない方向で行きたいようだが、ヴェイセル連隊長が反対してる。兵を分けたくないそうだ」

 第1師団は基本、第一第二に戦闘力が高い者を配し、戦闘を担当。ヴェイセルが率いる第三連隊は防衛を担当する。露払いでは見学者の護衛に兵をさくわけだが、戦力を分散させたくないということは、それでは街の防衛に不安があるヴェイセルは考えているのだろうか。

 聖木がいつもより急速に満開になりつつあるのは一目瞭然だが、とはいえそこまで悪い状況だとは思っていなかった。本当に危険な状態なら真っ先に賓客の出席が見送られるはずだろう。

 でも――と、ベルトルドは昨日のアストリッドの話を思い返す。次代の聖女が現れたとなると、これから急速に状況は悪くなる。




「二妃さまは見学されるんだよね?」

 顔をしかめたルードヴィクは、ベルトルドの二の腕をつかむと人が行き交う玄関広間を突っ切る。守衛に挨拶して扉をくぐった先は、城壁の向こうに聖木を臨む中庭だ。人の多い左翼等を避け、右翼等へと足を進めながらルードヴィクが口を開いた。

「……前の聖木の浄化が不完全だったのではないかという噂があってな」

 ことさら潜められた声が告げる内容に、ベルトルドは目を瞠る。

「それで聖女殿の官吏が頑なになってる。聖女自身がなにを思っているかはわからんが」




「聖女さまとは会えたの?」

「病気を理由に籠城中だ」

 投げやり気味に返ってきた返答に、ベルトルドは空恐ろしさを感じる。なにもかもが急速に変わろうとしている予感とでもいうのだろうか。

 今まで何百年も同じことを繰り返してきた。五〇年に一度満開になる聖木と、スタンピード。時期を合わせて現れる聖女。その時々にいろいろな問題や|悲喜交々⦅ひきこもごも⦆があったのだろうが、大きな目で見れば同じサイクルを繰り返してきた。

 その根幹の部分が変わろうとしている。五〇年を待たずして聖木が満開になろうとし、同時に次代の聖女が現れる。

 時代が……世界が変わろうとしているのだろうか。




「このままなら次の狂い咲きの準備は間に合わないかもしれん。国には報告書を上げている。でもどれくらい危機感を持って受けとめられてるかは謎だな」

「だから二妃さまも見学に参加するの? んー? うまく繫がらないんだけど……貴族はトゥーラが危険だから兵役から逃げたかったんじゃないの?」

「そりゃ口実ってヤツだ。トゥーラから危険示唆する報告が上がってきてる、たいしたことだとは思ってないが、兵役を回避する言い訳にはなる」

 回避できるなら徴兵とは言わないんですけどねと言っていたアロルドの言葉が思い返される。

夜もう一本上げます。

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