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冬の始まり、命の終わり。

作者: 釘崎信長

11月。

外が段々涼しくなり吐く息がいつの間にか白く色付き始めていた。

窓の外を眺める。

青々としていた木の葉が今では項垂れ、地面に落ちるのを今か今かと怯えているようだった。

 所詮私も落ちるのを待つだけの項垂れた人間だ。

ここではする事もなく、何を言っても人々には聞き入れてもらえない史上最高の孤独の楽園だ。

床は冷たく、壁は分厚い。

窓には行手を阻むかの如く格子が聳え立っている。

 ミーーン…、ミーーーン…

すると何処からかなんとも不思議な声が聞こえてくるじゃないか。

蝉だ。あれは確実に蝉の声だ。

なぜ今、蝉が鳴いているのか。夏の眩しい日差しの中で鳴くのが相応しいこの生き物が

どうして秋の終わり、冬の始まりのセピア色に包まれた今、鳴いているのか。

 ミーーン…、ミーーーン…ジジジジ…

手は寒さに少し悴んでいたが、心の中に真夏の太陽を少し取り戻したようにポッと、火が灯った。

 あいつだって、こんなに寂しい季節にたった1人で鳴いている。

生まれた季節を間違えて、孤独の中に生きようとも、命の役目を必死に果たそうとしている。

 まだ項垂れるのには早いのかもしれない。

もしかしたら、明日も生きられるかもしれない。

ひょっとしたら、明日はこの孤独から抜け出せるかもしれない。

 希望が滔々と空っぽだった体の中に流れていくのを感じる。それと同時に心拍の速まりを感じた。

 今なら、生命の力に満ち溢れ希望に後押しされている今なら、私は生きる力を取り戻し今を抜け出せるかもしれない。

 さっきまで悴んでいたはずの手は火照り、やや汗ばんでいるほどだった。

 ミーーン…、ミーーーン…。

蝉はまだ、鳴いてる。

私の心臓もまだ、脈打っている。

 私は数時間ぶりに立ち上がり格子の張った窓の上を見上げた。

あそこからなら希望に溢れた外へ出られるかもしれない。

 ミーーン…、ミーーーン…。

ドクンドクンドクンドクン。

蝉の声と心臓の音が煩い。

額から冷たい汗が伝っていくのを感じた。

吐く息は白かった。

 ミーーン…、ミーーーン…。

ドクンドクンドクンドクンドクンドクン。

脈がどんどん速まっていく。

 意を決したその瞬間、一瞬にして静寂が訪れた。



「3049番、出ろ。」


もう蝉の声は聞こえなくなっていた。

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