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勘違いでもいいじゃない

作者: ルーバラン

「はぁ……タクマ君、来てくれるかなあ……」


まだ誰も登校していない早朝の朝に、サクラは下駄箱の前でたたずんでいた。手には手紙を持って、カバンの中には手作りチョコレートを入れて。


「けど、もし来てくれなかったら……どうしよお。ううぅう、誰かあたしに勇気をくれないかなあ」


ただ告白したいだけなのに。ただ一言、「好きだ」というセリフを言いたいだけなのに、この一言がいえないまま、中学を卒業し、高校でも告白できず、とうとうバレンタインデーまで来てしまった。

このままでは一生、タクマ君とは付き合えないと思って、一生懸命手紙を書いた。今度はこの手紙を山下君の下駄箱に入れるだけなのに、なかなか入れることができない。


「あううぅ……この手紙を入れるだけなのに……こんなところにずっと立ってるあたしってなんなんだろお」


……早く入れないと誰かに見られるかもしれない。そう思っているのになかなか入れられない。

そろそろ朝練を終えた運動部のメンバーやら、早くから学校に来る生真面目な学生が来てしまうというのに。


「でさー、昨日のドラマのあのシーン、俺的には崖から飛び降りるぐらいの演出が必要だと思うんだけどなー。アカネはどう思うよ」


「何言ってんの、相変わらずケンタってばまた馬鹿話ばっかりして」


やばい、誰かが来ちゃう。こんなところで突っ立ってるところ見られたくない。

そう思って突っ立っていたサクラは慌てて下駄箱の中に握り締めていた手紙を入れた。


「あれっ? サクラさんじゃん、おはよ。今日は早いね」


「わ!? うん、おはよ! ケンタ君! アカネ!」


「おはよ、サクラ……サクラ、何あせってんの?」


「ううん!? 全然焦ってなんてないよお! もお、やだなあ、アカネったら! 早く教室いこ!」


「う、うん? ま、まあいっか」


慌てつつも、サクラは何とか下駄箱に手紙を入れることができた。やるべきことはできた……あとは、反応を待つだけ。

そう思いながら、サクラはケンタとアカネと教室へと向かっていった。









「やっばー! 遅刻だよ遅刻! また先生にどやされるよ! しかも今日はバレンタインデーだってのに、何でそんなときに俺は遅刻するんだよ! このタケシ、一生の不覚!」


同じ日に、慌てて構内に駆け込む男子生徒、タケシがいた。あと1分もたたないうちに始業のチャイムが鳴ってしまうという、遅刻寸前の状態。

タケシはガタガタとでかい音を立てながら、靴を脱いで上履きに履き替えようと下駄箱を開いた。すると、ひらひらと落ちてきた1枚の手紙。


「……んあ? チョコじゃなくて手紙? ……誰からだろ?」


前後を見てみても、どこにも差出人が書いてない。


「ふふっ、誰だろなあ……もしかして、俺に好意を持っている誰かからのラブレターだったりして!」


ほんと楽しみだなあ……。そんなことを考えながらタケシは封を開けた。

えっと……何々?


------


こんにちは、突然こんな手紙をもらってびっくりしてると思うけど、でも、どうしてもあたしの気持ちを打ち明けたくて……。

手紙を書きながらもあたし、すっごいきんちょうしてるんだよお……。

ずっと、ずっと、あたし、あなたのことが好きだったんだあ!


もし、OKだったら、放課後に屋上まで来てくれないかなあ……? そのあと2人でどこかでおしゃべりしていかない?


楽しみに待ってるからあ!


------


「おお! おお! これは、正真正銘のラブレターというやつではないですか!」


ラブレターもらったの、生まれて初めてだ。こんな顔文字まで使って、うわ、うわ、ほんとに誰だろ!?

手紙をまんべんなく見てみたけど、どこにも差出人の名前は書いてなかった。……どうやら、書き忘れたみたいだ。せっかちな女の子もいるもんだな。


キーンコーンカーンコーン……キーンコーンカーンコーン。

始業のチャイムの音が校舎内に響き渡った。


「やばっ、急いでいかないと!」


放課後は屋上へ。期待に胸を膨らませて手紙を胸ポケットに入れると、タケシは急いで教室に走っていった。










「はぁ……はぁ……まだ、待ち合わせしてる手紙の主は来てないみたいだ」


授業が終わったと同時にホームルームも無視して屋上まで走ってきちゃったもんな。そりゃまだ来てないに決まってるよな。

……はぁ、けど、誰が来るんだろなあ。楽しみだ。

校庭を見ながら、一体誰がくるんだろ、と思いドキドキしながらタケシは待っていた。

しばらく空を見たり、ぶらぶらとあたりを歩いて時間をつぶしていたら、ガチャリと屋上に誰かが入ってくる音が背中から聞こえた。


「来たっ!」


振り返ってみると、メガネをかけたロングヘアの女子生徒が屋上に入ってくるところだった。あれは確か、4組のミナミさんだ。

サッカー部のマネージャーをつとめながらも生徒会会計にも所属している、才色兼備な女子生徒。

……おお、まさか、あのミナミさんが手紙の主だったなんて!


「へ、えっ? な、何が来たんですか?」


「またまた、すっとぼけちゃってえ。手紙の主さんなんでしょ? うれしいなあ、俺、もう大歓迎っすよ!」


「え、えーと……? どなたでしたっけ? 私たち、お会いしたことありました?」


「もう、はぐらかすのがうまいんだから。それにしても、ミナミさんって手紙としゃべり方が全然違うんだね。いや、ちょっとびっくりしちゃった」


「だ、だから何のことですか?」


あ、あれ? おっかしいなあ。不審に思いつつも、チョコをもらった経験が妹と母からしかないタケシにとって、千載一遇のチャンスを逃してはならないと必死になってすがった。


「しらばっくれるのは2回までくらいにしておかないと面白くないっすよ、ミナミさん、で、どこいく? 近くのミスドにでもいこか?」


「ちょ、ちょっとやめてくださいよ、何なんですか一体!? 勘弁してください!」


本気で嫌そうな顔をしてミナミは屋上から逃げだし、階段を駆け下りる。


「えっ、なあ、ちょっと待ってくれよ!」


タケシは慌ててミナミさんを追おうとした。


「待つのはお前じゃないか? 何をやってんだタケシは?」


階段を飛び降りたところに、急に人影が出てきてタケシをとめた。


「どけよタクマ! 突然出てきて邪魔してんじゃねえ! 一世一代の大勝負なんだよ!」


現れたのはたまたま通りかかったタクマ。


「いや、確かに一世一代の大勝負になるかもしれないが、犯罪と隣りあわせだからな」


「なっ!? なんでだよ!? 俺はただミナミさんからこの手紙をもらってだな、それで付き合おうとしてただけなんだよ! 何でそれが犯罪につながるんだよ!?」


「ん? んー……ストーカー、もしくは暴行罪あたりになるんじゃないのか?」


「ありえないだろ!? ほら、手紙読んでみろよ。」


そう言って、タケシはタクマに手紙を渡した。受け取ったタクマはめんどくさそうに手紙を開いて、中身を読み出す。


「な、ほら! 間違ってないだろ?」


「ふむ、確かに告白の文面に読めるが、ミナミさんからの手紙ではないのではないか? 差出人も書いていないし、なにより、文面がミナミさんが書いた感じがしない。もっとこどもっぽそうな人が書いた文面だな。そうでなければミナミさんがそんなに嫌がるはずはないだろ?」


「そんなわけないだろ! だったらなんで指定時刻にミナミさんが姿を現すんだよ。明らかにミナミさんが告白相手だろうが」


「うむ……あれではないか。『たまたま』」


「このあほー!」










「やっばいなあ、何でこういう日に限ってホームルームが長引くんだよお。タクマ君、帰っちゃってないかなあ?」


とてとてと屋上に向かって廊下を走る音が響く。ホームルームが終わると同時に教室を飛び出して走るサクラの姿。左手にカバンを、右手にチョコレートを握り締めて。途中、メガネをかけたきれいな人とぶつかりそうになったりもしたけど、そんなことは気にもせず、わき目も振らず屋上へ一直線。


「うむ……あれではないか。『たまたま』」


あ、タクマ君の声だ。タクマ君、屋上に来てくれたんだあ! よかったあ……。

サクラはほっと一安心をしたけれど、その後に、別の人の声がまた聞こえてきた。


「このあほー!」


……あれ? 今声がしたけど、タクマ君以外にも来てるのかあ。……この声って確か、タケシだよね。タケシってば何やってるのさ。


「タクマ、一体お前は何なんだよ! この手紙をくれた、あいつのことが好きなんか?」


「ん?」


あ、ちょっと! タケシ、そんなこと聞かないでよ! そもそも屋上に来てくれてる時点で、OKってことでしょ!


「いや、全然」


……え? 嘘。


「そもそも、どんなやつかまったく知らないのに、好きになれるはずないだろ。そういうので付き合えるっていまいち分からないんだよな」


嘘、タクマ君、同じ中学校だよね? 今まで何度も話したことあるよね? 何でそんな事言うの?

その言葉を聞いた後、サクラは、タクマに会うこともなく、トボトボと引き返していった。


「て、てめぇ! 何様のつもりだよ!」


タケシがタクマに何か叫んでいるのが聞こえてきたけれども、サクラが振り返ることはなかった。










期待しながら屋上へ行ったのに、タケシは傷ついて教室へ戻っていった。そこには1人、自分の席に座り、外をぼんやりと眺めていた女子が1人、サクラがいた。


「あれ? サクラじゃん。未だに教室に残って何してんだ?」


「あ、何だ、タケシかあ……別にい」


「なんだよ、いいじゃんか教えてくれたってよ。幼馴染じゃんか。俺とサクラの仲だろ?」


「あんたとそんな仲になったつもりは全くないけど……まあいいけど。今日さ、あたし、告白する前に振られちゃったんだよお」


「はぁ? 何言ってんだよ。それぐらいでくよくよするなって」


「うるさいなあ……4年越しの片思いだったんだよお……それで落ち込むななんていわれたって無理でしょお?」


「4、4年も片思いしてたのか。また一途だな。お前って」


「ふんだ……悪かったなあ……どうせあたしなんてさ……」


「い、いや、そんな気にすることないって! そんなことよくあることじゃん! 俺なんて今日、告白されたのに振られたんだぞ! 訳わかんねえよ」


「はあ、あんた馬鹿じゃないの? 何で告白されて振られるの? また、変な事したんでしょお?」


「し、失礼な! 今日は何もしてねえよ!」


「今日は?」


「あ……わ、悪かったな。どうせ俺なんてそんなもんだよ……今日だって結局一個もチョコもらえなかったしさ」


タケシが弱音を吐いた瞬間、2人とも黙ってしまった。教室の中に、静寂が続く。

その沈黙がしばらく続いた後、ふいにサクラが笑い出した。


「あはは、なんだか私たちって似たもの同士だねえ」


「な、なんだよサクラ、突然笑い出してさ」


「べっつにい。でも、似てるんじゃない? バレンタインデーに告白されずに振られたあたしと、告白されたのに、振られたあんた。なんだか似てる感じしない?」


「ま、まあそうかもしれないけどさ。あんまうれしい似たもの同士じゃないな」


「そんなつれない事いわないの! そういえばさ、結局あたし、告白する前に振られちゃったから、チョコあげそこねちゃったんだよね。よかったら、あんた食べない?」


「……なんか、おこぼれみたい」


「あ、そういう事言うんだったらあげないんだからねえ!」


「あ、ごめんなさいごめんなさい! ありがと! 是非くださいサクラ様!」


「そうそう、人間素直が一番なんだからあ!」


そう返事するとサクラはごそごそとカバンを開けて、チョコを取り出して、タケシに手渡しする。


「はい、タケシ! ハッピーバレンタイン!」


「お、おう! ありがと!」


なんだかんだ言ってもまんざらじゃなさそうにタケシはチョコを受け取った。


「あたしの手作りチョコレートなんだからあ! しっかり味わって食べなさいよ! ……あ、そ・れ・と、ホワイトデーは楽しみにしてるからね! 3倍返しは基本なんだからあ!」


「な、なんだよそれ!? じゃあ、返すよ!」


「ざーんねん! 返品は認めません! ……はああ、徹夜して作ったチョコを、まさかタケシに食べられちゃうなんてなあ」


「サクラが嫌だったら食べねえよ。ってかお前ってばいちいち突っかかるなあ」


「気にしなーい気にしない。じゃあ、タケシ、帰ろっか」


「切り替えはやっ! って何だよお前、腕組んでくんなよ!」


「今日だけ今日だけ! さ、帰ろ帰ろ!」


……そう言って、サクラとタケシは家路に帰っていった。

こんな勘違いで始まった2人の恋路、これからどうなるかは、それはまた、別の話。

初めて3人称に挑戦してみました。

二度とやるものかと思うくらい、難しかった……。


タクマ君とミナミさんの後日談も考えてましたが、それもまた、別の話。

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[良い点] こーゆーの、チョー大好きなんだけど。 [気になる点] 特になし [一言] こーゆーの、もっと、作って
[一言] どうも、トキ イチロです。 そう言えば、読んでおきながら感想書いてなかった事を思い出しました。 季節ハズレになってしまいましたが、せっかくなので感想を。 さて。 やっぱり、女の子が可愛い…
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