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老兵 ~最後の旅~  作者: ヒーズ
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英雄 第1話:最初の旅立ち

魔大帝オーディントによって、世界が闇に覆われた。

奴は、多くの魔人や魔物、魔獣を従えて、人間を殺し、捕え、奴隷にした。

俺の住むムース村は、奴の治める”第三帝国”から最も離れた位置にあるからか、

まだ奴の魔の手はここに届いていない。

だが、このまま奴のことを放っておけば、ムース村・・・いや、世界中が奴の奴隷になってしまう。

現在、王都では魔大帝討伐隊が編成されているらしい。それに前線の兵士も足りていない。

俺は、隠居して引っ越してきた元王都警備隊隊長(現在のムース村自警団団長)のザムエル師匠に

鍛えられてるし、(下級の)魔獣との戦闘経験もある!

まったく戦闘経験のない奴よりは役に立てるはずだ。

その、つまり、俺は王都に行って兵士になって、魔大帝と戦う!

でも、親父やお袋は許可してくれないだろうなぁ・・・。

いっそのこと書置きだけ残して、夜中にコッソリと家を抜け出すか!

書置きには『旅にでます』とだけ書いておこう。

あまり詳しく書きすぎたら、後を追ってこられるかもだし(汗)。

親父とお袋だけじゃなくて、師匠にも村の皆にも書いておこう。生きて帰ってこられるか・・・

分からないし。



数十分後


「よっし!これでいいかな?」


書き終わった手紙を読み返して、内容に満足して俺は早速家を発つことにした。

俺は師匠から貰ったお古の剣と盾、鎖帷子を持って自分の部屋の窓から外に飛び出した。

今は夜中、見張りの人しか起きてない。しかも、今日の見張り番はぐうたらマーカス。

アイツなら、今頃見張り台の上で居眠りしてるだろう!

なんて考えていると、こっちに足音が近づいて来ていることに気が付いた。

まさかな、と思いつつ、俺は近くの茂みに身を隠した。

その瞬間、後ろから何者かに手で口を塞がれる。俺は慌てて相手の腹に肘鉄を入れようとするが

簡単に防がれてしまった。それで誰に口を塞がれたかを察して抵抗をやめる。

すると、その人物は口から手を離してくれた。


「魔大帝を倒しに行くには、まだまだ実力不足だな」


後ろの人物・・・ザムエル師匠は、大きな溜息をつきながら、そう言った。

ぐうの音も出ない。何時如何なる時も、気配を捕え続けろ。師匠から教わったことだ。

俺は巡回中の自警団の足音に気を取られて、近くにいた人間の気配に気づけなかった。

戦士失格の烙印を押されても、仕方ない。俺は悔しくなって、俯いてしまう。

すると師匠は、俺の肩に手を置いて話を始めた。


「即座に反省出来るところは合格だ。咄嗟の反応も悪くない。

つまりお前は・・・純粋に経験不足なんだ。」


師匠はそう言うと、ゆっくりと立ち上がって、俺の両親の眠っている寝室を指差した。

俺は最初、師匠が何を言いたのか全く分からなかった。

師匠はまたしても大きな溜息をつきながら、俺にある真実を話してくれた。


「お前が魔大帝討伐に行くことは、俺ではなくお前の父親。つまり、ゼフットさんが予測したことだ」


そこでようやく、俺は全てを理解した。

何もかも、師匠がここにいることすら、親父が仕組んだことだった。

親父はそこまでして、俺は魔大帝討伐に行かせたくないと言うのだろうか?

このまま故郷に留まって・・・いや。

こんな俺一人が兵士になったところで、戦局が変わるわけでもない。

俺は、最初っから戦力外ってことだったんだな。そう思うと俺は悔しくて、自然と涙を流していた。

そんな惨めな俺の姿をみた師匠は、もう一度大きな溜息をついて、厳しい口調で

「お前・・・諦めるのか?ん?どうなんだ」

と聞いて来た。

嫌だ!諦めたくない!!俺は黙ったまま地面を見つめる。

すると師匠は、膝をついて俺の顔を真っすぐ見ながら、もう一度、厳しい口調で聞いて来た。

「1ヵ月だ。俺の考えた訓練を1ヵ月間耐え抜けば・・・お前の両親は、魔大帝討伐を許すそうだ」

師匠の言葉に、俺は顔を上げた。師匠の目は本気だった。ここで断れば、一生後悔する。

そう思った俺は、師匠の手を取り、強く握りしめながら頷いた。

すると師匠は柔らかな笑みを浮かべて、俺の頭をワシャワシャと雑に撫でた。

そして「明日から俺の考えた鬼特訓が始まる。今日はもう寝ろ」と言い残して帰って行った。



1ヵ月後

俺は師匠の鬼の様な訓練を、何とか乗り越えた。まあ、何回も死ぬような思いをしたけど。

そして、親父とお袋、村の皆に別れを告げて旅立とうとした時、師匠に声を掛けられた。


「ローウッド、これを持っていけ」


そう言って師匠が渡してきたのは、魔法陣の刻み込まれた腰袋だった。

師匠の昔話をよく聞いていた俺は、これが一体何なのかを一瞬で察して、師匠に

「本当に貰っていいんですか?」と確認した。


「今の俺には不必要なモノだ。便利な道具は、

その価値を最も発揮できる存在の下にあるべきだろう?」


師匠はそう言うと、あの夜のように俺の頭をワシャワシャと乱雑に撫で、

そのまま帰ってしまった。

俺は師匠に対して色々と話たいことがあった。でも、師匠が振り返ることはないだろう。

だから俺は「ありがとうございました」と師匠の背中に大きな声で叫んだ。

師匠が振り返ることはなかったけど、片腕を上げて俺の言葉にしっかりと答えてくれた。

そうして、気持ちにさらなる決心がついた俺は、王都へ向かって旅立つのであった。

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