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王子の得意とするところ

一応ヒーローとヒロインの話を交互にやりたいなと思ってますが、上手くいくかはわかりません

「弟子しかいないなら仕方あるまい」

 言いながらも不貞腐れた様子でそっぽを向いている。

「だいたい、無理なら最初からそう言えば良いんだ」

「兎肉が焼けましたよ殿下」

 波乱の昼食から時間は虚しく過ぎ、今は夕時だ。

 魔女を訪ねてきた四人が同席している。荒野の空の下、夕食を共にすることとなった。

 ケリィはせめて喉を治す薬について調べてくると、家屋へ戻ってしまった。

「そういえばディカルド殿」

 フィンアは持参していた干し魚を炙っている。北国三人組には遠慮された食料だ。

「北の国では十八歳で成人と認められると伺っていますが、ディカルド殿もそろそろですよね」

「ああ。秋の終わりで十八になる」

「そうでしたか。トポスリアから祝儀の品など贈らせていただくはずですが、俺個人からも何か贈らせて下さい」

あちらの王子は興味なさげに肉を頬張っている。

「貴殿から祝われる義理はないぞ」

「このような場所で会ったのも何かの縁でしょう。友人として、ディカルド王子の人生の節目に何か出来ればと思いまして」

「友人? 本気で言ってるのか?」

 金色の王子は胡乱げな眼差しでこちらを見てくる。予想の範囲内だ。上辺ばかりの付き合いは好まない質らしい。

「二回も食事を共にして、今夜も火の番など協力することになるでしょう。旅先でこんなに深い付き合い、中々出来る機会はありません」

「……どう思うかはそちらの勝手だが、祝の件は辞退する」

 手強い。まあ、もうしばらくは共に行動することになりそうだし、その間に親交を深められれば良い。

「俺との繋がりなど意味ないぞ。成人の儀で王位継承権は破棄するし、臣籍に下る予定だ」

「……」

 顔に出さないよう気を付けたが、それでも少し驚いた。王子として、王族としての矜持だけはしっかりありそうに見えた。それを自ら捨てようとは。

 火にかけた鍋を掻き回していたルネと目が合う。

「殿下の仰る通り。そのような予定になっております」

「それは――自分が聞いてしまって問題は?」

「国王陛下のご意向もございますが、ご本人もこのように乗り気でおられます。城下の平民すら決まりだろうとの見解でいます」

 トポスリアは王位の昇降はあるが破棄ができない。感覚の違いもあるだろうが、聞いてよかったのか不安は拭い切れなかった。

「ご存知でしょうが、次期国王とされる第一王子様には、すでにお二人の御子がお生まれです」

 二人目は姉の留学中だった。国から祝辞と祝の品を贈ったのも覚えている。

「我々の国では昔から、継承権の低い方が、成人などを機に臣籍へ入られることは珍しくありません」

 ルネ・テーリングが間に入ってくれるのは有り難かった。

「そうでしたか。ではご迷惑になるようでしたら、控えさせていただきましょう」

「そうしてくれ」

 紅一点のラグランジェ嬢は食後の果物に口をつけている。特に会話へ興味を示すことはなく、淡々と夕食を終えようとしていた。


 さて、それならばもう少し探りを入れておこう。

「では成人後のご予定は? 何か職務などお決まりですか」

「陛下より爵位を賜るはずだ。あとは領地で鉱山の管理でもするだろうさ」

「鉱山ですか。そういえば西の大陸寄りの山脈、宝石の産地として名高いですね」

 そこで採れる石は高品質で有名だ。トポスリアでも高値で取引されている。

「殿下は芸術面で才能をお持ちなのです。絵画、宝石、音楽など多方面で活躍されています。特に宝飾品等の真贋については、幼少の頃からかなりの目利きでいらっしゃる。それこそ神童と謳われておられました」

 従者が少し自慢げに語った。誰にでも特技はあるものだが、子供の時分から芸術の真贋を見極められるとは素直にすごいと思う。ルネもそう感じているのだろう。

「お忍びで訪れた町で、通常の倍以上の値がつけられた宝飾品を指摘されたり、大量に献上されたグラスの中から贋作が紛れているのを発見されたり。それはもうご活躍で」

 状況によっては危うい能力にも思えたが、あまりにも慧眼である。それだけ優秀なら、彼の前に偽物を差し出す者もいないだろう。

「ラグランジェ殿を見出されたのもその頃ですね」

「ああ、そうだな」

 名を上げられたのに気が付いて、ラグランジェが柔らかく微笑んだ。

「区画整理も終わっていない、雑然とした町だったな。あそこも今はもう整備されているはずだが。――雑踏の中で、ランジーの歌声だけがはっきりと聞こえたんだ。それが、あまりにも美しくて」

 ディカルドは懐かしそうに遠くを見ている。

 彼の耳には今もラグランジェ嬢の歌声が聞こえているのかもしれない。

「あの頃はまだ吟遊詩人として、地方の偉人や魔女の逸話などを歌っていたな。少し拙い感じもしたが、心を揺さぶられるという経験をはじめてした」

「自分も聞いてみたいものです」

「そうだろう? 歌声が戻ったら是非聞いてくれ」

 北の王子は自分のことのように自慢げに、そしてこの上なく嬉しそうに目元を緩めている。

 当の本人を窺い見る。眠そうに、カップを抱えたまま俯いていた。時間も遅くなってきたが、旅の疲れもあるだろう。

「そろそろ寝る準備でもしますか」

 一応起きていたらしく、彼女は深く頷いた。

「あ、せめてラグランジェ嬢は庭へ入られては?」

 寝るならそっちがお勧めだ。荒野のゴツゴツした大地は、女性の身体に良くないだろう。

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