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魔法のあり方、森の歩き方

得意分野ついつい喋っちゃう系ヒロインでもある

 林を進むと、空気が変わる。

 他の土地との境界へ来ているのだ。庭と荒野のようにはっきりとした境はわかりにくいが、白い花が少なくなってくると、同時にユークレッドの魔力の気配がしなくなる。

 ユークレッドがすでに繋げている森に限るが、自分はここから好きな場所へと移動できる。普段は薬草や鉱石などの採取程度にしか使わない。

「……移動、しているようです」

 移動先の森を決める前から、方位石があっちを向いたりこっちを向いたり落ち着かない。

「いくつかの森そのものを移動しているのかも」

「?」

「普通は出来ないんです。でも子供だから、魔力の適性が多少あるのかもしれません。それが暴走しているような状態であればあり得る話で……」

 師匠に聞いた話では、森から森への移動は難しいという。基本的には林に戻って、他の地へというのが正しいやり方だ。しかし魔力を使えば道をこじ開ける、簡単に言えばは近道も出来るらしい。

「追いかける難易度が上がりました」

「しかし、とりあえず無事な可能性が高いみたいだな」

 フィンア王子は安心させるように明るくいって見せた。

 実際にはそんなことないとケリィも分かっている。何かの野生動物に追われていたり、すでにその餌食になっていることもあり得る。その想像は恐ろしすぎて、口には出せなかった。

「まずは進んでみましょう」

 石の指し示す方向へ。

「では、お手をどうぞ」

 そう言ってケリィは南の国の王子様に左手を差し出した。もう庭から大分離れたのだ。落ち着けば、この人にも近付ける。

「!」

 フィンアは目を丸くして、その手とこちらの顔とを見比べてくる。

 彼の国では左手を差し出すのは失礼だっただろうか。よそ様の常識に疎いためよくわからない。

「左手は非常識でしたか? それでは右手で改めまして」

「いや、そうではない。君が俺の手を引いていくのかと……」

「森の移動は魔力を使って行います。手でも握っていないと、どことも知れぬ場所で離ればなれになりますよ」

「そう、なのか……?」

 珍しく動揺した様子である。そんなに変なことを言っただろうか。

 しかし今回はもうどうでも良い。

「はい。とにかくこちらへ。急いで下さい」

 ケリィはがしっと王子の手を掴み、林の奥、何処かの森へと入っていった。


 左手に吊った方位石を頼りに進み続ける。走るほど早くはないが、たまに足がもつれそうになるくらいの歩き方。何かに躓きそうになる度、フィンア王子が支えてくれた。

 家族以外とこんなに近付くのはかなり久しぶりだと思った。

「ここは南に近い丘陵地帯の森だな」

 辺りを警戒しながらフィンア王子が話しかけてくる。

「よく分かりましたね。おっしゃる通りです」

 さすがは南の国出身。

「来たことがあるんですか」

「ないな。実際に訪れるのは初めてだ」

「なにで見分けたんです?」

 ケリィは素材集めのために来る。そのため、植生で大体どの辺りかわかるのだが。

「……昔、国立図書館に通い詰めていた。そのときに図鑑で見たものが多いと思っただけだ」

「王子様は勉強も大変そうですね」

「いや、まあ……好きで通っていただけで。大変でも何でもなかったよ」

 この丘陵地帯はあまり凶暴な獣は多くない。ここでポーシャが見つかれば良いが。そう考えながら森を抜けていく。

 木漏れ日が美しく輝く。土は湿り気があり、草花は瑞々しく風に揺れている。右奥にきらきらと光って見えるのは湖だ。こんな状況でなければ散歩にもってこいの日和である。

「子供のうちに好奇心が旺盛なのはいいことです」

 フィンア王子に先導されながら、倒木を避けて進む。

「まあ、師匠の受け売りですが。ポーシャも恐らくそうなんですけれど、好奇心の高い子は魔法の適性も相応に高いらしいです」

 倒木を避け終わると、今度はまた自分が王子様の手を引いて奥へ奥へと突き進む。

「適性が高いと、魔法の影響を受けやすいんです。私たちの作った道具の効果も得やすくなりますよ」

 薬の効果が高まる。守り札の力が強くなる。庭に弾かれた時など強烈な反動が来る。等々。

 北の国の王子様が強めに弾かれていたのはそういう事情もあっただろう。決して自分が猛烈に拒絶しているということではない。

「大人になると身体や草木、鉱石、この世のあらゆるものに流れている魔力を感じ取るのが難しくなるといいます。でも元々持っている資質は変わりませんから、魔法を使えなくても、身体が勝手にその力を引き出してくるようです」

 そしてそれを自由に使ったり、逆に抑えたりして扱うことが出来る者を魔女と呼ぶ。

「大昔、初代ユークレッド様の時代には全ての人間が魔法を扱えたと言われています」

「それは初耳だな」

「南は魔法を頼りにしていませんしね。昔話としても伝わらなかったんでしょう」

 彼の出自を考えれば知らずとも当然と言える。

 よその国でも不思議な寝物語、程度にしか伝えられていないという。

「でも……文化としてどれだけ廃れようと、資質として持っているものがあるんです。そして、だからこそ魔女になるには、子供のうちから修行しなければならないんです。ずっと、魔女になるために頑張り続けないと」

 弟子のままではいられない。早く一人前の魔女にならなくては。

 しかし今はそれよりも優先すべきことがある。

「あ……ここ、変ですね」

 ケリィは立ち止まった。

 つられるようにフィンア王子も横に並び立つ。

「何かあるのか?」

 やはり普通の人間には分からないらしい。

「空間の歪みを感じます。魔力を込めれば他の地に繋がるでしょう」

 方位石が戸惑うように揺れている。石が示したい先はこの森の奥ではない。どこか違う場所のようだった。

 フィンア王子の手を強く握った。移動の際に置いていかないようにするためだ。彼の掌は、剣を振るためか固く、あたたかい。その手を意識すると緊張するような、心強いような、不思議な気持ちになる。

「次の森に向かいますね」

 空間をこじ開けて()()()()()

 連れを離さないよう、歩調を合わせて進んだ。


 雰囲気ががらりと変わる。

 先ほどまでの爽やかな景色とは全く違う。一見ただの鬱蒼とした森だが、あまりにも重々しい空気だ。

「まさか、ここって……」

「…………剣を準備してもいいか」

「お願いします」

 そこはかつて、魔物の森と呼ばれた場所だった。

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