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家族の近況

前回に引き続きヒロイン視点です

 伯父のリオニーがテリーヌに載せてきた荷物を確認していく。父グランは紙面に書き付けていき、自分が算盤を弾く。大体いつもの段取りの通りだった。

 庭ではフィンア王子とポーシャが、楽しそうにお喋りをしている。近くに座り込んだ祖父のアントニオがたまにちゃちゃを入れるようだ。ポーシャは身振り手振りを交え、それに言い返している。

 王子様は彼らのやり取りを微笑ましく思ってくれたのか、穏やかに笑っていた。

「俺は認めねぇぞ、歳だって違いすぎるんだ」

 リオニーが刺々しい口調で呟いた。

 愛娘の言葉とはいえ、あまり真面目に受け取るのもどうなのか。

「小さい子の言うことですよ、リオニー伯父さん」

「王子様みたいったってなぁ、よくいるその辺の兄ちゃんじゃないか」

 そう見えるだろうが実際、本物の王子様である。本人の意向により突っ込めないけれど、一応南の国の王子様。まあ見た目だけなら、昨日旅立った人の方が物語のそれっぽい。

「胡散臭いっつうか、なにか隠してそうな感じもするしなぁ」

 それはそうなのだが。

「でも親切で丁寧な方です」

「ケリィまで絆されちまってんのか!」

「いやいや、本当に。庭にも入れますから、師匠も認めているお客様ということで」

 客室を用意しろだの食料を寄越せだの言われたこともない。極めて謙虚で控えめなお客様だった。

「あのいい加減なユークレッドが、だろ? どこまで信用して良いもんだか分かりゃしねぇ」

 それもまた否定しがたい。

 しかしこの話題になると毎回彼女を援護しようとするものがいる。

「兄貴、ユークレッドはいい加減なわけじゃないぞ。少し大らかなところがあって、自由主義なだけだろう」

「まぁた始まった。お前の魔女様贔屓には毎度呆れるぞ」

「贔屓じゃない。人柄は穏やかだし、何より魔物の森と世界を隔てる空間を維持しているんだ。魔力も当代一と名高い人で」

「わかったわかった。もう彼女の話はやめておこう」

 それがいい。こんな所でいい歳したおじさんたちに兄弟喧嘩されても困る。

「さて、今回の商品はこんなところか?」

「はい。いつもより少なくて申し訳ないですが」

 頭を下げる。

 この数日の騒ぎがなければもう少し作っておけたのだが、今回は仕方がない。他に契約している商人の分も在庫を確保しておかなければならないし。

「今日は守り札の類いが多いから十分さ」

 父のグランが満足げに笑っている。

「師匠が今回のためにたくさん作り置きしていってくれたんです。帰りが間に合わないことを想定していたんでしょうね」

 挨拶代わりという事だろう。身内ということもあって、多少の贔屓はさせてもらっている。

「荒野の番人、ユークレッド様のお手製となると飛ぶように売れるからな。これは流石にありがたいってもんだ。俺が珍しく礼を言ってたこと、ちゃんと伝えておいてくれよ」

 伯父は多少現金なところがある。

 ケリィは笑ってしまう。

「はい。承りました」

 そして肉や乳製品、糸、布といったこちらの必要なものをいくらか交換してもらい、商談は切り上げられた。


 庭で家族団欒といった体で食事をすることになった。

 本当は商人一行は家に入れるはずだが、フィンア王子だけ外で、とうい訳にもいかず。せっかくの天気だから空の下で、共に昼食を取ろうということになった。

 皆で少し広がって自由に食事を進める。フィンア王子とは一番離れた場所に陣取ったケリィ。この数日では一番近いのではないだろうか。十歩もいらなくらいの距離だ。

「南は良い生地が多くていいよなぁ。特に刺繍がされたものに高値がつくが、うちは扱ってないんだよ。そのうちやりたいんだが、工房のツテがないから仕入れられないんだ」

「トポスリアは商工会の運営が厳密ですからね」

 相変わらずアントニオとポーシャに挟まれながら、フィンア王子は焼いた鶏肉に齧り付いている。

「そうそう。仲介料や契約金が高いんだよ。どこかで顔の利くやつでも捕まえないとな。もしくはお偉いさんの紹介状でもありゃあ良いんだが」

 お偉いさんね。例えば王位継承権のある方とか?

「俺たちの代でなんとかするさ、親父」

「お前らは支店の準備でもしておれ。こっちは俺がなんとかする」

 隣に座っていた父を仰ぎ見た。

「お店を増やすの? どこに?」

「まだ大したことは決まってない。北の大きな港町か、東から南へ下る途中の小国の城下か。候補としてはその辺だな」

 初耳だった。そんな話が出ているとは。

 ユークレッドの弟子として、それを目指すと決めていた。だから家族の事情には少し疎くなっている。

 空間が揺れた気がした。わずかに周りと距離が離れたように思う。皆が気付くか気付かないかといったくらいのものであろう。気付いたとしても、この家族なら恐らく知らないふりをしてくれている。

「わっ……ねぇねぇ、フィンアくん! 今地震があったよ!」

 子供は純粋だ。

「ポーシャ、こわい」

 小さくとも女は賢しいな、とも思ったケリィだった。

「大丈夫。気のせいだよ」

 フィンア王子はそう言って彼女の頭を撫でてやっている。

 従兄弟の少女が不安げに彼を見上げている。可愛らしいが、本当の地震の時には『ゆれてるー! すっごーい!』と大はしゃぎになるのを知っている身としては閉口せざるを得ない。

 なんか騙さされてない? 大丈夫?

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