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不滅の愛[0:4]

作者: こたつ

この台本は0:4の台本です。

ルイーズ♀:

ナタリア♀:

リカオン♀:

マリア♀:


正史2:2

https://ncode.syosetu.com/n9633ii/


反転2:2

https://ncode.syosetu.com/n8421ij/


4:0

https://ncode.syosetu.com/n8418ij/

ルイーズ/♀ヴェラリオ戦線司令官。軍人。メリーという女性と結婚している。


ナタリア/♀ルイーズの護衛。人間兵器だった。ルイーズに恩を感じている。


マリア/♀ 10代ほど。呪われてしまった。ただの心優しい少女だったのに。


リカオン/♀ヴァルツヘルゲン特殊工作員、ハウンドドッグ所属。夫と娘を亡くしている。



____________________________


<<取調室、ナタリアと検察官が対面で座っている>>



ナタリア:……なぜ、ですか?

……そうですね。私も同じ立場ならその言葉を投げかけるでしょう。

私はあの人に従った。引き金を引いた。それは揺るがぬ事実です。

それでもあの人は、不滅の愛を誓ってくれた。

寄る辺 (よるべ)のない私に手を差し伸べた。

ならばまだ終わるべきではない。私の愛は滅んでなどいない。

戦争を続けましょう。

祖国に仇なす敵国に、呪われたルスラムに復讐を。

忌まわしい天使どもに鉄槌を。

わたしの最愛に……っ


ナタリア:親愛なるルイーズベルベットに……不滅の愛を。





<<ルスラム国境沿い>>

<<リカオン、数人の兵隊を暗殺している>>



リカオン:(息を吐く)……クリア。


マリア:相変わらず見事な手際ですね、ヴァングレイドの兵隊をいとも簡単に。


リカオン:猟犬の嗜みさね。主人に手間取らせるまでもない。ヴァルツヘルゲンの人狼は──


マリア:よく躾けてある、ですね?ご褒美を用意しなければ。


リカオン:(微笑み)この手の冗談にあんたが乗るとは珍しいね。いいことでもあったのかい。


マリア:気分が良いのです。とびきりを用意しましょう。


リカオン:言うじゃないか。さ、行くよ。この先の拠点を潰し鉄道に潜り込む。意見はあるかい。


マリア:祈りを。…よろしいですか。


リカオン:時間がない、我慢しな。と言ったところでアンタは聞きゃしないんだろう?


マリア:ふふ、あなたはいつも甘やかしてくれる。


リカオン:ババアを働かせ過ぎるんじゃないよ。魔銃と銀弾はハーゲンまで保たせなきゃならないんだ。


マリア:オオカミ男の切り札が銀の弾丸だなんて、いつ聞いてもおかしいですね。


リカオン:皮肉なら聞かないよ。こいつで死ぬのは呪われた人間だけさね。


マリア:それ、痛いから嫌いです。


リカオン:…酷い冗談さ。あたしがアンタに使うためにあるんだからね


マリア:ふふ、傷ついてくれるんですね。


リカオン:手早く済ませな。


マリア:ええ。(跪く)……ルスラムの天使の名の下に、あなたたちの死が呪いのくびきから逃れんことを。

──これが救いにならずとも、ひととき罪を忘れる罰を。




<<場面転換>>

<<ヴェラリオ城砦>>


ナタリア:ふう……。あら、ルー。


ルイーズ:ナタリア、調子はどう。


ナタリア:ルー。……まあまあよ。


ルイーズ:あなたの「まあまあ」はあまり信用できないわね。(カップを差し出す)……ほら、飲んで。


ナタリア:あら、ミルクティー?


ルイーズ:ロベルトが茶葉を送ってくれたの。終わったの、その…彼らの介錯は。


ナタリア:あと少しよ。今は休憩中。シルバーバレット、すごいのね。呪われた彼らみんな、何をしても死ななかったのに。


ルイーズ:敵国ルスラムに巣食う、天使とやらを殺す銃弾らしい。


ナタリア:なにそれ?


ルイーズ:手配書を読んでないわね?天使を名乗る修道女と人狼の二人組が方々で暴れ回ってるんだって。


ナタリア:修道女……忌まわしい響きね。


ルイーズ:ロジェールね。残念だった。


ナタリア:……気にしないで。それで、銀弾がなんだっけ?


ルイーズ:呪いを断つ弾丸よ、天使は呪われているとかなんとか。大事に使ってね。


ナタリア:あは、全部使っちゃった。助からないならせめて早く殺してあげなきゃ。


ルイーズ:……ごめんね、こんな仕事を任せてしまって。


ナタリア:いいの。……呪いを受けた人間の介錯だなんて、「魔眼のハーゲン」にぴったりの仕事じゃない。


ルイーズ:そんなことは!……そんなことはない。あなたは昔とは違う。変わったんだよ。


ナタリア:変わらないわルイーズ、少なくともこの戦場では私はいまだ魔眼のハーゲン。先祖代々受け継いだこの眼は、塞ぐことを許されていない。そういう契約、してくれたでしょ。


ルイーズ:……ごめんなさい。


ナタリア:謝らないで。こう見えて私ね、嬉しいの。だってあなたのおかげで今回限りよ!

生まれてからずっと人を殺すことを強いられてた。少し先の未来が見える、ハーゲンの魔眼。この眼に振り回されてばかりだったけど、やっと私は、私として生きられる。


ルイーズ:だけど、それでも──。


ナタリア:もういいの!この戦場から帰ったら、食卓に招待してくれるんでしょう?弟やメリーに会うのも久々だわ。軍服以外に袖を通すの、今から楽しみなのよ。


ルイーズ:(苦笑)……素敵なドレスを期待してる。


ナタリア:そうこなくちゃ!明日?明後日?いずれにしろ帰ったらすぐよ?


ルイーズ:わかった、わかったわ。


ナタリア:ふふ。それじゃあ私、仕事に戻るわ。


ルイーズ:待ってナタリア、気分の良くない仕事なのは確かでしょう。あとは任せて休んで。


ナタリア:あら……(目を伏せる)どうして?忌人いみびとを殺すことに、私は何も感じない。


ルイーズ:……ナタリア、本気で言ってるの?


ナタリア:私はずっと本気。かわいそうだけど、だれも虫を踏んだことに気を病まない。


ルイーズ(M):──そう、恐ろしくはあった。


ナタリア:そう……彼らは違う、違うの。ここは差別大国ヴァングレイドよ。


ルイーズ(M):人生の多くを戦場と人殺しに捧げた彼女の精神は、ヴァングレイドに培われた差別心によって保たれている。


ナタリア:彼らは私たちと違うから、死なず苦しみ続ける忌み人になったの。……そのはず、なのに。


ルイーズ(M):今まで手にかけた呪われた同胞が、


ナタリア:さっき殺したロジェールが言うの。フィア、フィア愛してるって。


ルイーズ(M):その実私たちと変わりない、ただの人間だったと知った時、


ナタリア:ねえこれは……いいえ、いいえ。彼らは忌むべき人よ。そうでないといけない。そうじゃなきゃ……


ルイーズ(M):彼女は耐えられるのだろうか。


ナタリア:私が殺したのは、誰だったの。





<<場面転換>>



リカオン(M):愛が不滅でないことを、あたしはよく知っている。


マリア:天にましますわれらの父よ。


リカオン(M):もう動かない旦那を抱きしめたときに。ベッドの上で日々痩せていく娘の手をとったときに。


マリア:願わくは御名の尊まれんことを、呪いをもたらさんことを。


リカオン(M):愛は儚く滅ぶのだと知った。


マリア:御心みこころの天に行わるる如く地にも行われんことを。われら積年の恨みを、今日こんにち晴らし給え。


リカオン(M):いずれ、あの子たちに愛されたあたしもこの戦場に滅ぶ。……天国でなら、愛は滅びないのだろうか。


マリア:われらが人を裁くごとく、われらの罪を裁きたまえ。

われらが人を呪うごとく、われらの生を呪いたまえ。


リカオン(M):そう考えて、あたしはまず地獄行きだろうと笑った。


マリア:われらの父よ、この命をもって──


リカオン(M):ああマリア、叶うなら。


マリア:われらを悪より救い給え……。


リカオン(M):また愛させておくれ。


マリア:Amenエイメン




<<場面転換>>

<<ヴェラリオ戦線、鉄道に近いヴァングレイド兵の拠点が壊滅。マリア、死んだように倒れている>>



リカオン:エンゼルフォール確認。敵拠点制圧。列車への潜入準備が整った。


マリア:ぅ……あ……。


リカオン:(ため息)……教会の天使の死で起こる呪いの爆発、ねぇ。(手に持つ銃を見る)痛みには、慣れたつもりだったんだが


<<マリア、蘇生している>>


マリア:私は、生き返るから、いいではないですか……。


リカオン:お目覚めかい、シスター。


マリア:ええ、ミセス。少し痛かったですよ。


リカオン:(苦しく)すまないね……あんたのわがままはなんでも聞いてやりたかったのに。


マリア:そんな苦しそうな顔をしないでください。ちゃんと生き返りましたから。


リカオン:顔に、出てたかい……もうあんたを殺したくないよ。


マリア:安心してください、今ので打ち止めです。次のエンゼルフォールは私が真に死ぬ時でしょう。


リカオン:馬鹿なこと言うんじゃない、来させるものかねそんな時。


マリア:まるで誰かを亡くしたみたいな顔でしたよ?まあ私は一度死んだので間違いではありませんがね。


リカオン:っ……。


マリア:……笑ってくださいよぅ。


リカオン:……すまなかった。


マリア:も〜。


リカオン:ご機嫌なのは良いがあんた、ここは戦場だよ?


マリア:ふふ、すみません。身を案じられたのは初めてだったもので。


リカオン:ハッハ、教会の天使様がご冗談を。


マリア:(微笑む)……残念ながら、いいえ。今回の私は、いいえそもそも我ら教会の天使たちは、帰還を想定されていません。


リカオン:なに……?


マリア:前回の作戦が奇跡的でした。あなた方ハウンドドッグの優秀さは司祭様すら見通せなかったようです。


リカオン:それじゃ、それじゃああんたは……っ(言い淀む)


マリア:死ぬために生きているのか、ですか?


リカオン:……忘れとくれ、ババアの妄言だ。


マリア:いいのです。……あなたはルスラムの聖書を読んだことがありますか?


リカオン:いや、ないね。


マリア:……『苦しみに代わるものは別の苦しみである』


リカオン:なに?


マリア:聖書の、初めの言葉です。


リカオン:……それが呪いかい。


マリア:ええ。…我々にとって、呪いとは信仰なのですよ。呪われることをこそ良しとしたのです。人を思うことそのものが呪いだとうそぶいて。それが本当になってしまった。


リカオン:これが救いにならずとも……。


マリア:ええ、ひととき罪を忘れる罰を。それが呪いです。


リカオン:……


マリア:私たち天使は、あまねく人々に苦しみをもたらすべく産まれました。聖書の、新たなページを綴るために。産まれてからずっと思われ、呪われてきた。


リカオン:そんなものを身に引き受け、挙句兵器にされたのか。年若い娘を数多の呪いに浸すことが神の御意志とやらなのかい。


マリア:……ええ。


リカオン:呪いのるつぼにされ、戦場で爆ぜることを強いられて、なんのために生きているのかわからないじゃないか……!


マリア:…私のために、怒ってくださるのですね。……ええ、そんなあなただから私は嬉しいのです。


リカオン:ふざけたこと言ってるんじゃないよ。あたしゃあんたの犬だがね、それでもあんたを傷つけた連中となんら変わりない加害者なんだ。


マリア:(微笑む)……あなたが家族なら幸せだったのでしょうね。


リカオン:っ、マリア……。(意図せずこぼれた名前)


マリア:(目を伏せて)…マリア。そう、マリアなのでしょう?私の名前なのでしょう。

名前だけの一致。けれどもあなたは、見過ごせなかったのですよね。


リカオン:……!


マリア:あなたのご息女は、亡くなったマリアは。こんなにも優しく呪われている。


リカオン:なぜ、その名を。


マリア:言ったでしょう?人を思うことそのものが呪いなのだと。身に引き受けた呪いがなんなのか、私には手に取るようにわかります。


リカオン:……そう、だったのか。それはそれは……うるさかったろう。


マリア:いいえ、私は嬉しいです。呪われた私を、娘のように扱ってくれた。石ころのように死ぬことさえできない私を。


リカオン:……。


マリア:あなたの呪いは、生まれてから一番心地が良かった。


リカオン:やめて、おくれよ。……別れの言葉に聞こえるんだ。娘も…ありがとうと言って死んだ。


マリア:いいえ、聞いてください。私は嬉しいのです。こんなにもキラキラした呪いをかけてくれたことが。

私の人生は呪われたものだったけれど、それでも最期は輝いている。それが、嬉しいのです。




<<列車の中>>.



ナタリア:殺されるならあなたがいいわ。


ルイーズ:え?


ナタリア:ね、ルー。私、怖いの。


ルイーズ:なに、あなたらしくもない。


ナタリア:だって怖いのよ。名前の知らない誰かに殺されるのがこんなにも怖い。


ルイーズ:……。


ナタリア:私ね、名前の知らない誰かをたくさん殺したわ。顔も知らない誰かをたくさん殺した。おんなじように、きっと小石を蹴飛ばすように殺されるでしょうね。


ルイーズ:……そんなことはない。あなたは死なないわ。


ナタリア:……そうかもしれない。でもそうじゃないかもしれないわ?私ね、こんな私でもね、ルー。怖いのよ。

だから、だからね。

私、殺されるならあなたがいいわ。


ルイーズ:………。


ナタリア:ねえ、お願い、聞いてくれるかしら。


ルイーズ:……わたしも殺されるならあなたがいい。


ナタリア:なら──


ルイーズ:だけどねナタリア。それはここで死ぬ時の話でしょう?それなら考えなくていい。この戦場から帰ったら私の家で、みんなとディナーなんだから。


ナタリア:真面目な話なのに…。


ルイーズ:はは、いつものじゃじゃ馬はどこに行ったの。


ナタリア:……ねえルー。フィアって、ロジェールの子供よね。だってあの人、子供の自慢ばかりしてた。


ルイーズ:…ええ、今年で6歳になる。


ナタリア:今際の際に、愛してるだなんて。私は言える自信がない。


ルイーズ:……私もよ。


ナタリア:ロジェールに、手を差し伸べてあげればよかったの?手をとって、嘘でもいいから何かいってあげればよかったの……?私にはもうわからない……。


ルイーズ:ナタリア……


ナタリア:ロジェール、誓ってたのかしら。不滅の愛を。私に殺されるまで。忌人に成り果てても。


ルイーズ:……あなたが背負わなくてもいい、ナタリア。

あなたが戦場に来たのは国の意向で、あなたの行いは私の指示よ。あなたの罪は私にある。


ナタリア:それでも、殺したのはわたしだった……。


ルイーズ:こんなに弱ったあなたをみるのは初めて。


ナタリア:真面目な話って言ってるでしょ……もう。


ルイーズ:はは、ごめん。でもねナタリア、それでもやっぱりあなたの罪は私のものなんだ。戦場では命じる者が責任を負う。昔教えたでしょう?


ナタリア:ルー……。


ルイーズ:怖がらなくてもいい、怯えなくてもいい。神様は、きっと君をみている。


ナタリア:ふふ……神は死んだの。あなたが見てて。


ルイーズ:(微笑み)罰当たり。そうだ、歌を教えてあげる。怖いものなんかなくなる魔法の歌よ。


ナタリア:ふふふ、こんなところで歌う気?


ルイーズ:悪くないでしょう?


ナタリア:少なくとも戦場で歌う歌じゃない。


ルイーズ:ははは、それもそうね。帰ったらにしよう。


ナタリア:それが良い。楽しみが増える。


ルイーズ:食卓で歌ってあげる。


ナタリア:ふふ、奥さんの前で?


ルイーズ:メリーとの仲直りのためだもん。ああ、許してくれるかしら。


ナタリア:(笑う)そのための歌なんでしょ。楽しみにしてる。


ルイーズ:メリーの好きな歌なの、私も楽しみ。

……ねえ、ちょっといい?ナタリア──



<<場面転換>>


ナタリア(M):不滅の愛を誓おう、と。ルイーズが言った。


リカオン:シスター、舞台が整った。


ルイーズ(M):ナタリアめ、口を開けておどろいている。この子には支えてくれる誰かが必要だ。それが私なら、こんなに誇らしいことはない。


マリア:ええ。ヴェラリオ戦線の主要人物が2名、無防備です。


ナタリア(M):子供を授かった時、神の前で誓う言葉。私がついぞ聞けなかった言葉。笑顔を見せようと思ったのに、涙がこぼれてしまう。


リカオン:死ぬんじゃないよ、シスター。


マリア:(微笑み)ええ、リカオン。生きて帰りましょう。


ルイーズ(M):この子にはもう、これ以上の運命を強いてはならない。恐怖も、血に染まった手も、日常に風化されるべきだ。ああ、ナタリア。何度だって言おう。不滅の愛を──


リカオン:(被せ)いいやいいや、ベルベット。不滅の愛などこの世にはない。



<<場面転換>>


リカオン:あたしたちの命乞いを聞いてもらうよ。


ルイーズ:何者だ!


ナタリア:警備は何をして(マリアに気付く)──修道女か貴様。


マリア:はい。マリアと申します。


ナタリア:死んで。


<<マリア、ナイフを抜き投擲>>

<<リカオン、それを防ぐ>>


リカオン:遊びたいならよそでやりな、ヴァングレイドの犬め。


ナタリア:あら、獣憑き。


リカオン:どれ、躾直してやろう。


ナタリア:どいて。その女の首をロジェールの墓に供えてやる。


ルイーズ:ナタリア待て。貴様ら何者だ。


マリア:マリアです。こちらはリカオン。どうか我々の命乞いを聞いてください。


ルイーズ:くそ、手配書と一致する。アサシンどもか。


マリア:おや?顔がバレていますね。一人残らず祝福したはずですが?


リカオン:誰か死体に埋もれてたのかね。


ナタリア:魔眼を使わせて。5秒で殺す。


ルイーズ:許可する。確実に仕留めて。


リカオン:あんた、命乞いすら聞かないのかい。


ナタリア:遺言なら聞くわ、死になさい


<<ナタリア、魔眼を発動。5秒後の未来を視る>>


マリア:パルデンス条約に反してますね、ふふ。


リカオン:プランBからCに移る。


ナタリア:な、に…!


ルイーズ:ナタリア…?何が見えたの。


マリア:あら、「頼んだぞマリア」と言ってくれればいいのに。


ナタリア:これは……!?


リカオン:とっととやりなシスター。


マリア:いじわる。それじゃあ、死なないで。


ナタリア:ルー!早く逃げ──


<<マリア、ナタリア、体が一瞬ぶれ、かき消える>>

<<一瞬の間>>


ルイーズ:な、なにをした…!貴様!


リカオン:呪いさね。我々の常識を覆すからこそ忌み嫌われる。

ヴァラリオ戦線の司令官はあんただね、ベルベット


ルイーズ:くそ、人狼の相手…!?


リカオン:あたしの名はリカオン。ヴァルツヘルゲン特殊工作部隊、ハウンドドッグに所属している。

あたしたちの命乞いを、聞いてもらうよ。



<<場面転換>>

<<別の車両、ナタリアとマリア、対面する>>


ナタリア:(舌打ち)随分なご挨拶ね。


マリア:改めまして、魔眼のハーゲン。ルスラムの天使が一騎、マリアです。


ナタリア:忌人に名乗る名はない。


マリア:不要です。存じておりますから。


ナタリア:そう、話が早いわ天使サマ。石ころみたいに殺してあげる。


マリア:まあ、素敵な死に様ですこと。勇ましきレディ・ハーゲン、我らの神があなたをお招きです。


ナタリア:……神は死んだ。



<<場面転換>>

<<ルイーズ、懐の拳銃にそっと手を伸ばす>>



リカオン:ババアだと舐めてそいつを抜いてみな、あんたの国の銃は何世代遅れてると思う?


ルイーズ:……でも当たれば死ぬ。


リカオン:話にならんね。ベルベット

狩人のいない村人がただひとり人狼に歯向かうって?


ルイーズ:(舌打ち)


リカオン:良い子だね。長生きするよ。


ルイーズ:ナタリアは。


リカオン:隣の車両に移った。シスターが失敗していなければね。


ルイーズ:転移の外法げほうか…


リカオン:似て非なる。コツは消えてしまいたいと思うことらしい。


ルイーズ:なんだと…?


リカオン:あの子の名はマリア。年端もいかない小娘が、こんな戦場で天使を名乗らされている。


ルイーズ:貴様、何を言っている。


リカオン:あの子は毎日胸を灼く痛みで目を覚ますんだ。うなされて、飛び起きる。そしてあたしをみて笑顔を作って、おはようと言うんだ。あの子は悪夢を見続けている。

数多の呪いを押し付けられ、それでもなお天国を夢見、こんな戦場に身を落とした。


ルイーズ:……?


リカオン:呪いとは、誰かを想うことらしい。

あたしはあの子を呪っちまったんだよ。そんなあたしに、シスターは言うのさ。あなたの呪いは、今までで一番心地いいと。


ルイーズ:何を言っているの、さっきから。


リカオン:命乞いだ。何度も言わせるんじゃないよ。

どうかあの子を殺さないでいてほしい。見逃してほしい。あんたたちを殺さないでやるから、この国境を越えることを許して欲しい。






<<場面転換>>

<<マリア、瀕死ながら傷が塞がっていく>>


マリア:あ……ぅあ、もう、少し…やさしく、殺せないのですか


ナタリア:お前たちに呪われたロジェールは、その程度の苦しみで喚かなかった。


マリア:(苦痛に耐える息)ご立派です。呪いと、介錯に耐えるなど。きっと天国に召されたことでしょう。


ナタリア:まだ侮辱する気か…!


マリア:あなたにとって、その人は特別なのですね。

例えば、そう……ただひとり、普通の子として扱ってくれたとか。


ナタリア:……!


マリア:想い人ですか?ああ、いえこれは…。これはきっとそう、初恋とすら呼べない。その方は、あなたの憧れだったのですね。


ナタリア:なぜ、それを。


マリア:ああ、やはり。あなたも私と一緒なのですね。

望まぬ力に縛られている。……自分の罪から目を逸らせずに。

愛されたかったのですよね。ただの子供みたいに。

でも、やはり……介錯を悔やんでいる。


ナタリア:(息を呑む)


マリア:だからこそ、あなたに慈悲を。主の導きを。

たとえ救いにならずとも、ひととき罪を忘れる罰を。


ナタリア:いいえ死んで。あなたは呪われた忌人で、私は望んであなたを殺す。あなたはなす術もなく死に、私はルイーズを助けに戻る。私はあなたと違う。


マリア:同じです。私は神に、あなたは血に呪われている。選ばれたと思わなければやっていられなかったのですよね?

それでもきっと私たちの役目は、誰が演じても変わらなかった。


ナタリア:黙って神の御許みもとに行け (武器を構える)


マリア:私たちは答えが欲しいんじゃないんです。ただそばにいて、泣きたくなったら遊んで欲しい。夢の話をしたい、天気の話も。今日あったことや、花の話をしたい。私の懺悔を聞いて欲しい。




<<場面転換>>

<<リカオン、一歩詰め寄る>>


リカオン:あたしらはただ生きたいんだ。

家族を失い、国に捨てられた。作戦もなにも、もはやどうでも良い。


ルイーズ:あなた達は人を殺しすぎた。


リカオン:承知の上だ。きっとあたしらは地獄行きさ。だがそれまではせめて、二人で静かに生きていたいんだ。


ルイーズ:……家族なの。


リカオン:…一言では足りんね、あんたたちと似てる。


ルイーズ:複雑ね、お互いに。


リカオン:ああ。


ルイーズ:協力はしたい。


リカオン:そうかい。


ルイーズ:でも信用できない。


リカオン:だろうと思ったよ。


<<リカオン、ルイーズを撃つ>>


ルイーズ:ああっ…!?


リカオン:──ハッ、あんたに堪え性があるようには見えなかったがねぇ…。

未来でも見たかい?魔眼のハーゲン。


<<ナタリア、マリアを引きずりながら登場。リカオン達からナタリアはよく見えていない>>


ナタリア:よくも私にルイーズを殺させたな……!


リカオン:言ったろう?躾け直してやると。


ルイーズ:ぐ、ああ……!く、血が…!


ナタリア:ルイーズ…!


リカオン:急所は外した。次はないよ。


ナタリア:犬畜生が指図とは。


リカオン:シスターを離しな。


ナタリア:哀れな小娘だったわ。くれてやる。


<<ナタリア、マリアをリカオンの方へ放り投げる。明らかな致命傷がいくつもある>>


リカオン:……!


ナタリア:急所を何度か突いた。次はあるかしらね。


リカオン:シスター、死ぬのかい……。


<<リカオン、ルイーズの拘束をやめゆっくりマリアに近づく>>


ルイーズ:……ぐっ…!(止血している)


リカオン:いつか、あたしの手料理が食べたいと、いっていただろう……あれはどうするんだい。


ナタリア:そんな顔ができるなら、なぜロジェールを──っ(未来を見て顔をしかめる)


リカオン:花の話も、夢の話も、おまえの懺悔も、あたしは聞いてやれなかったんだね……。

──すぐに行くよ。待っててね。


<<銃声>>


ルイーズ:なっ!貴様どこに銃を!


リカオン:……猟犬の嗜みさね。主人に手間取らせるまでもない。


ルイーズ:ナタリア、見えてたの。


ナタリア:……あれは介錯だった。私には、到底止められない。


リカオン:この子の不死は呪いだ。銀弾でなければ死なない。だがアレでは蘇ることも無かっただろう。


ルイーズ:ただの忌人ではないわね、何者。


リカオン:名乗ったよ、この子は。あたしの天使だ。呪いを押し付けられ、それでも誰も恨まなかった頑固でかわいいただの娘さ。


ナタリア:なぜロジェールを呪ったの。


リカオン:あんた、シスターを殺したのは何故かあたしに聞いて欲しいのかい。


ナタリア:……そう。戦争なのね。


リカオン:ベルベット、これをくれてやる。


<<リカオン、銀弾の入った銃を放る>>


リカオン:ヴァルツヘルゲンの銀弾だ。あたしにゃもう、こんなものは必要ない。


ルイーズ:……そう。


リカオン:最後に一つ、ババアの戯言たわごとを聞いてきな。

呪いは壁も何もかもすり抜けるが、人体だけは透過しない。近くで呪いの爆発が起きる時、救いたい奴に覆い被さるがいい。


ルイーズ:なに?


<<ナタリア、未来を見る>>


ナタリア:え、え…?


リカオン:ベルベット、あんた良いやつだね。

あたしのような暗殺者が悠長に話を続ける理由はね、時間稼ぎ以外にないんだよ。


ナタリア:これは…!ルイーズ!!


<<マリア、血を吐きながら祈りを捧げる>>


マリア:天に、まします……我らが父よ………


ルイーズ:そんな!奴は、介錯を…!


マリア:あなたの御心に、私の全てを委ねます……。


リカオン:ベルベット、これが呪いさ。我々の常識を覆すからこそ忌み嫌われる。


ナタリア:ルイーズ!逃げるの、早く!魔力が膨張している!呪いを帯びた恐ろしい量の魔力が!


マリア:われらが、人を裁く如く、われらの罪を裁きたまえ……


リカオン:逃げるがいいさ、どこへなりとも。シスターマリアは文字通り、死んでも使命を全うする。


<<ルイーズ、ナタリア、逃げる>>


マリア:我らの、ルスラムよ……ごふっ、この命をもって、われらを……悪より救い給え……


<<リカオン、マリアの隣に腰掛ける>>


リカオン:悪かったね。最後まで、あんたを付き合わせちまった。


マリア:……謝らないで、ください。わたしこそ、結局、あなたにあげるご褒美、なにひとつ……。


リカオン:いいやシスター、もうもらっているんだよ。


マリア:……?


リカオン:この旅路が……あんたに捧げ、そしてもらったこの呪いが。あたしの救いそのものだった。


マリア:ああ、ふふ……誰かを苦しめずに、人を救ったのは初めてです。


リカオン:誇っておくれ、あんたはあたしの天使だ。


マリア:ねえミセス?私、夢を見たんです。泣きそうな顔で私に縋る、あなたの夢を。思えばあれはあなたの介錯だった。


リカオン:……!


マリア:私、たんぽぽが好きです。


リカオン:ああ、あたしも好きだよ。


マリア:夢によくあなたが出ます。幸せな夢にだけ、あなたが。


リカオン:あんたを想っていたからかね。


マリア:……叶うなら。きっとあなたを呪ってしまうけど、私は、あなたの娘になりたかった。


リカオン:今更構うもんかね。好きに呪いな、マリア。


マリア:ふ、ふふ。最後まで、甘やかしてくれるのですね。

 

リカオン:……懺悔するとね。あたしはあんたを、娘と重ねていたんだよ。


マリア:…ええ、気づいていましたよ、ジョアンナ。天国で、私も家族に迎えてくださいね。


リカオン:ふふ……あたしもあんたも、地獄行きだよ。


マリア:なら、地獄で。二人で。


リカオン:わがままな子だねぇ。


マリア:ねえ、言ってくれないのですか?


リカオン:(微笑み)ああ、マリア。不滅の愛を誓おう


マリア:(微笑みながら)ええ、ジョアンナ。不滅の愛を、地獄で。

──Amenエイメン。



<<堕天>>

<<場面転換>>



ナタリア(M):恐ろしくはあった。

もしも、ルイーズが呪われたなら?


そんなこと万に一つも起こらないに決まっている。

そう言い聞かせるたびにロジェールの最期を思い出す。

誇り高いロジェール、ヴァングレイドの勇士。

彼は呪いに蝕まれ、狂い、死を望み、その最期に最愛の娘の名を呼ぶ。


満足そうな笑みで、やっと会えたと。この私を、娘と見間違えたまま。



<<場面転換>>

<<破壊された列車の外>>


ナタリア:くっ……!ルイーズ!ルイーズしっかりして!そんな、ああ、なんで庇ったりなんか……!


ルイーズ:(苦しみながら)うっ……はは、そんなの、不滅の愛を、誓ったから


ナタリア:喋らないで…!何か、まだ手があるはず…


ルイーズ:いいや、もう助からない。何度も見てきた。これが呪いね。


ナタリア:冗談でもそんなこと言わないで…!


ルイーズ:ねえ、ナタリア。私もなんだ。私も、殺されるならあなたがいい。

こんなことを願うのも頼むのも、おこがましいとわかっているけど……やっぱり石ころみたいに死にたくないんだ。あなたが殺して。


ナタリア:ああ、そんな、ルー


ルイーズ:こんなところで死ぬなんて、メリーに笑われちゃうなぁ……。あ、ああ(苦しみ出す)


ナタリア:ルー、だめ、だめよ……!メリーに謝るんでしょ?私を食卓に、招いてくれるんでしょ…?ねえ、だめ、だめ……死なないで……。


ルイーズ:う、ぐ……メリー?メリー、いるの……?


ナタリア:(呪いを悟る)…ああ、そんな、ロジェールと同じ……!私を、メリーと……


ルイーズ:君に、謝りたかった、家を出てから……ずっと……。メリー、返事をして、お願い。


ナタリア:……ここに、ここにいるわ。ルイーズ。


ルイーズ:ああ、メリー。よかった……ねえ、メリー…歌を、歌ってほしいの。怖いんだ、ここは暗くて、寒い。


ナタリア:(青ざめる)歌……怖いものなんてなくなる、魔法の……


ルイーズ:ああ……怖いの、怖い。君が見えない……あの歌がききたいの、おねがい……。


ナタリア:っ…!…ええ。……帰ったら、帰ったらいくらでも歌うわ。ね、だから……そのとき一緒に歌いましょう。


ルイーズ:帰ったら……ああ、いいわね……。きっと、ロベルトが待ってる。……君のアップルパイが、食べたいよ。


ナタリア:ええ、ええ。帰りましょう。あなたの、好きなもの。全部作るから……。


ルイーズ:ああ……楽しみ。メリー、ナタリアを、見てないかしら。……家族に、迎え入れたいの。不滅の愛を誓った。


ナタリア:……!


ルイーズ:勝手なことをしたわ、許してくれるかしら。これで最後にするから……


ナタリア:……っ、もちろん、もちろんよ、ルー……!


ルイーズ:ああ、彼女も喜ぶよ……。


ナタリア:……ええ、もちろん。……だからお願い、死なないで……私を置いていかないで……。


ルイーズ:は、はは……置いていったりなんか、しないわよ。だけど……すこし、眠くなって……。


ナタリア:そんな、そんな!ルー、起きて。私まだあなたに抱きしめてもらえてない。まだ恩返しもできてないのに。


ルイーズ:メリー………ごめんね……


ナタリア:…!


ルイーズ:君に乱暴なことをした……。メリー、どうか……私を許して。


ナタリア:……ええ、ええ。許すわ。許す……あなたは、私の誇りよ。


ルイーズ:………ありがとう、メリー。愛して、る……。


ナタリア:私も、わたしもっ……あなたを愛してる……!


<<ルイーズ、動かなくなる>>

<<ナタリア、静かに泣いている>>


ナタリア:……あなたは……あなたは、あのイカれたルスラムなんかに、顔のない暗殺者なんかに殺されてはいない。安心して。あなたは……っ、あなたの命は、私の手で……。

<<間>>

──おやすみなさい、ルー。


<<銃声>>



<<取調室、ナタリアと検察官が対面で座っている>>



ナタリア:……なぜ、ですか?

……そうですね。私も同じ立場ならその言葉を投げかけるでしょう。

私はあの人に従った。引き金を引いた。それは揺るがぬ事実です。

それでもあの人は、不滅の愛を誓ってくれた。

寄る辺 (よるべ)のない私に手を差し伸べた。

ならばまだ終わるべきではない。私の愛は滅んでなどいない。

戦争を続けましょう。

祖国に仇なす敵国に、呪われたルスラムに復讐を。

忌まわしい天使どもに鉄槌を。

わたしの最愛に……っ


ナタリア:親愛なるルイーズベルベットに……不滅の愛を。

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