ヘッドホンガール 7
チャイムが鳴った。
今朝がイレギュラーで、あれから中村莉子とは
言葉を交わすことも、目が合うこともなかった。
斜め前の席で彼女は俯いていた。
ヘッドホンが無ければ彼女の頭は小さく見える。
耳を覆っていない今が好機だってちょっとは思う。
それをするだけの蛮勇みたいなものがどうにも足りない。
きっと嫌われてしまった。
「なあ啓太、飯食おうぜ」
クラスメートが僕に呼びかける。
入学式の日に彼から話しかけられて、つるんでいる彼。
僕はグッと頬を上げて笑った。
「うん。今行くよ」
彼の机のあたりでもう一人クラスメートを交えて
机を向かい合わせる。いつも通りだった。
「なあ、日曜空いてる?」
クラスメートは体を乗り出して僕に言う。
彼は僕よりも社交的で、良い人。
「空いてるけど・・・なんで?」
「俺らってまだ学校外であったことないじゃん?
カラオケ行こうよ」
「なるほど」
ごま塩が振られた米を噛む。
ゆっくり咀嚼する時間が僕には必要だった。
人と過ごすのは得意じゃない。嫌いではない。
多分、体力が他の人より少ないのだと思う。
「啓太の私服見たことないし、行きたい」
もう一人も僕に優しい声で言う。
休日、服を選ぶことも苦手だ。
自分の感覚が逸脱していないか考えないといけない。
首の裏に目があるような生き方をしている。
あらゆる方向に意識を置いていないといつか転んでしまう。
もしかしたら、中村莉子ならわかってくれるかもしれない。
そう思うけれど、僕は彼女と同じにはなれないのだと思う。
「いいね、カラオケ行こうよ」
二人はニカっと笑う。
僕はヘッドホンを被れない。
あの強い少女みたいに他人を拒絶できずにいる。
かの少女はヘッドホンを失っている。
それでも揺れずに一人でいた。そんな彼女に僕は
どうしようもなく憧れてしまっている。
それは。主人公のモノローグに共感するのと似ている。