ご対面。
てくてくと歩いて拠点に戻る。
ケットシーはしっぽをぴん! と立ててさながらモンローウォークだ。
なんだこれ。
妙に色気がある子だな。
さては……?
「ねぇね、あなたはおんなのこ?」
「にゃー」
おおっ! ネージュに恋の予感!?
ちらりと横目で見られたけど、気にせず歩く。
アストロは匂いたつ屋台の食べ物をキョロキョロ。
いや、あなた食べたばかりよね?
流石食いしん坊。
わたしは人が多い所では抱っこ移動。
住宅街に近づいてきたら徒歩だ。
地面が近いと、そこらに群生している植物が気になる。
あっ、でっかいタンポポ!
近づいて手折って、ふーっ……! と息を吹きかけ綿毛を飛ばす。
「にゃにゃっ!」
飛んだ綿毛にじゃれつくケットシー。
「くふふっ やっぱいにゃんこ!」
はっ! とした顔になり、スンッと歩き出す。
気取ってもバレてますよ。
まぁアストロもでっかい口で綿毛を咥えようとしてましたけど。
◇◇◇
「ただいまー」
「ねーじゅー! おたくたまやよー! ねーじゅー!」
「聞こえてるにゃー! オレに客にゃんて来る訳にゃ……」
「やっぱりあの子!」
「にゃっ!? おま……おま……」
「そうよ! わた「誰にゃ!?」」
「「「えっ!?」」」
「知り合いじゃないのか!?」
「ちょっ! 一緒に遊んだでしょ!?」
「えっ!? あー……あのコロニーに居たのか?」
「そうよ! 忘れるなんてひどいじゃない!」
「…………ひどい?」
「あっ……そ、う、そうよね……ひどいのは私達だわ……」
「あーっと、ネージュ? 込み入った話なら別の部屋用意するか?」
「こいつと話す事にゃんかにゃいから、ここでいいにゃ。で? 用事って?」
「……謝りたくて……」
「ふっ……今更? 気にしてにゃいから謝罪にゃんていらにゃい。お帰りはアチラにゃ」
「……ねーじゅはいいの? おはなちちたくない?」
「にゃい」
俯いてしまったケットシー。
うーん……。ネージュがいいと言っても、わたしが気になる。
おせっかいかなぁ。
まぁいい。気になるもんは気になる!
「じゃあけっとちー、わたちとおちゃちよー! わたちのおえやいこ!」
「えっ!? ラナ!?」
「ちゅれてちたのは、わたちだち。このままたえしゅのもなんだち」
『ぼくも行こーっと!』
「にゃっ!? アストロも!?」
『うんっ! だって気になるもん』
「……オレはいかにゃい!」
「いいぉ! じゃあねーじゅはごよごよちててねー。けっとちーこっちー」
「「…………」」
「じゃしゅぱーたんとよびんたんはあとでね!」
「……わかりました。お茶持って行きましょうか?」
「あいまと! おねだいちまちゅ! じゃあいこっ!」
「ちゅきにちゅわってねー」
「……思わずついてきちゃったけど、あの子と話せないなら帰る」
「しょう? ならおたちたべゆだてでいいよ? おいちいよー」
「おたち?」
『お菓子! 食べたことある? 甘くておいしいやつ!』
「……ない」
コンコンコン!
軽やかなノックの後、ロビンさんがお茶とお菓子を持ってきてくれた。
「お待たせ。お茶で良かった? 果実水も一応用意したよ。あとお茶菓子ね」
「よびんたん、しゃしゅが! おととあちたったもんね。あいまと!」
「どぉ? おたち、おいちい?」
「おいしい! 初めて食べた……サクサクでハニーフラワーとは違う甘さ……」
ハニーフラワー、おいしいよね! でもお砂糖はもっとさっぱりしたおいしさだよね。
今回のお茶菓子はクッキーだ。
もちろんロビンさんのお手製。
流石おかん。
街で餌待ちしてたって、きっとお菓子は出てこないから、気に入るんじゃないかなと思ったんだけど。
ふと考えたら、ある意味これは酷だったかもしれない。
知らなければクッキーの味を覚えなかったのに……と、ちょっと罪悪感。
「……あの子は、ひとりぼっちじゃないし、こんなに美味しいものも食べられるのね」
『仲間だからね!』
「仲間……そう、なら、良かったのかもね」
「どちてあいたたったの?」
「……置き去りに、してしまったから――」
――自分の罪を謝ることで軽くしたかったのかもしれない。
そう呟いたケットシー。
あの時、かくれんぼをしていた。
あの子が皆から疎まれているのは知っていた。
ケットシーの特徴である色をしていなかったから。
全員、黒地に白い胸飾りなのに、あの子は全身真っ白で。
そんなことで? と幼いながら疑問に思ったけど、大きい子に逆らったら次は自分がのけ者にされる。
まだ小さい子達は、独り立ちするには早い。
自分の居場所を守る為には仕方なかった。
わかってる。
そんなの言い訳だ。
だけど、コロニーの場所を変えるからって急に言われて「あの子は?」って聞いたけど、黙殺された。
あぁ、あの子は捨てられるんだ。
色が違うから。
色が違うだけで。
まだ独り立ちするには早すぎるのに。
それから数年。
忘れていたのは否めない。
だけど匂いは覚えていた。
この街で突然、記憶を呼び起こされた。
あの子が居る!
あの子は生きていた!
会いたい。
会って謝りたい。
私だけが謝ったところで仕方ないかもしれないけど……。
あの子の匂いを付けた人間に近づいてみたら、グラシャが居た。
神樹の森の守り神なら。
勢いで、あの子に会わせてって言ったけど……。
……そうよね。
会いたくないに決まってる。
あんなに酷いことをしたんだもの。
そんな事にも気づけないなんて……。
重い……。
何が? 空気が!
ひとりシリアスのケットシーを横目に、アストロは我関せず。
シャクシャクと音を立ててクッキーをほおばる。
わたしは空気を読んで、ちまちま齧るだけにしてますよ。
え? 空気を読むなら食べないって?
何を言う。
おやつ時間は大事なんですー。
だから食べるんですー。
だけど、もっしゃもっしゃ食べずに我慢して齧ってるんですー。
『まぁ食べなよ! お腹空いてるとどんよりするし。食べたら元気になるよ』
うん。まぁ正解だけどね?
そんなに簡単に……。
「食べるわよ! こんな甘くて美味しいお菓子なんて、次いつ食べられるか分からないもの!」
……食べるんだ。
うん、なんか大丈夫な気がしてきた。
カリカリとおいしそうに食べるケットシー。
ちらっとドアを見ると、隙間からネージュの気配。
こそっと聞いてたな。




