おっかいっものっ♪~その4 苗字~
その後、あちこちのお店を冷やかして買い込んだものは、自分用のポシェット。
流石に巾着ではお財布位にしかならない大きさなので、その巾着が入るポシェットだ。
これにも空間魔法付与すればマジックバッグの出来上がり!
だけど、今はまだ普通のバッグだ。
付与魔法を見せる訳にはいかんしな。
それとアストロとネージュ用のブラシ。
自分用のヘアブラシと体を洗うスポンジみたいなモノとロングサイズのボディブラシ。
手は届かないけど、スポンジは気分よ気分。
あるとないとじゃ雲泥の差なんだから!
まぁ最悪はウォッシュもあるしね。
それからお手紙用の紙と文房具と転送ボックス。
この世界での郵便は転送ボックスを使うんだって。
なにそれファンタジー! って思うよね。
「この転送ボックスはプレゼントするから、何かあったらすぐに知らせるんだぞ?」
「あい! あいまとー!」
「あっ! でもラナは文字の読み書きできるか?」
お? そういえば読むのはできたけど、書くのはした事なかったな。
うーん……?
「ラナは読めますよね。書くのは帰ったら練習してみましょうか」
「えっ!? その歳で読めるのー!? ラナ凄いな!」
「上級衛生鑑定士を読んでましたからね。恐らく新聞や本も読めますね」
あー……えへへ♡
と、笑っておく。
と言うか新聞あるのか!
印刷技術があるなら本もあるだろう。
買って帰ろう、そうしよう。
その流れで本屋さんにも行った。
この国の識字率は高い。
子どもも冒険者登録ができる5歳位から勉強し始め、文字の他に算数も勉強するんだって。
なので……。
「この子ども用の練習ブックにするー?」
ドリルがあるのだ。
「……ラナ。ここは正直に答えて下さいね? 計算はできますか?」
「……でちる」
そりゃ小学生レベルの算数なんて、中身アラサーからしたら朝メシ前である。
「……やっぱり。なら計算の練習ブックは必要ないですね。文字は書いた事ありますか?」
「ない。ちえいなもじをえんちゅーちたいたや、もじのえんちゅーぶっくはほちい」
目指せ美麗文字!
「文字なんて読めればいいのに、ラナは偉いなー!」
「ミーシュは練習した方がいいと思いますけど。ミーシュの文字は踊ってるから時々読めませんよ?」
「やべっ! ブーメラン来た!」
えっ!? ブーメラン!?
「ブーメランと言う武器があるんですけど、投擲したら戻って来るんですよ。なのでその比喩ですね」
へぇぇぇ! あれ武器なんだ! おもちゃだと思ってた!
「なかなかえげつない武器だよな! 魔法と合わせたら遠距離でスパスパ切るからなー!」
俺も練習しようかなー! とスイングの真似をする。
「ちょっと白銀の、店内で暴れないで下さいよ?」
「あっ! すんません!」
店員さんに怒られた。ぷぷっ!
さて、本を選ぶぞ!
どんな本があるのかなー?
流石にマンガはなかった。
だけど童話や小説はある。
それよりも錬金術や魔法陣、初級ポーションのレシピや初級魔法のスペル本とか!
これぞファンタジー! 気になる読みたい!
「ふふふっ、ラナは童話よりもこっちに興味があるようですね。レシピ本なら拠点に幾つかあるので、それをあげますよ」
「いいの?」
「はい。なので、その他で気になるモノを探しましょう」
「あいまとっ!」
それならば童話も買ってみよう。
歴史の逸話なんかもありそうだしね!
厳選に厳選を重ねて選んだ本、25冊。
これぞ大人買い。満足。むふふん♪
「……ラナって勉強好きなの?」
「ちちちはあってこまやない! むちことちゃいだいのてち!」
「ちちち……? あぁ! 知識!? うぇぇ!?」
戦き1歩下がるミーシュくん。
わたしは鼻息も荒くふんぞり返る。
所謂勉強は程々だったけど、雑学を知るのは好きだった。
おばーちゃんの知恵袋的な?
だからと言って万能じゃない所がわたしたる所以なのだけど。
「はははっ! 同感です! いついかなる時も学ぶ気持ちは大事ですね」
「ラナは可愛いだけじゃなく頭もいいんだなー。こりゃ守りを固めないと!」
「ミーシュのそれにも同感です」
こくり、と頷くロビンさん。
ん? 守り? 何だか大袈裟な気もするけどね。
◇◇◇
「買い物終わったか? まだ何かあるか?」
「うーうーうー? ……たぶんだいじぶ」
「ははっ! まぁ何か足りなかったら手紙で教えてくれたら用意するから」
そう言って頭をなでなでするジャスパーさん。
そうか、その為のお手紙!
ありがたやー。
そろそろ日も傾き始めた頃合なので拠点へと向かう。
お買い物も大体揃ったはずなので、荷物整理をしつつ足りない物があるか確認しないとね!
今日、ピーポは拠点に居ない。
全快したので自由にお散歩? お散飛? に行ってるらしい。
久しぶりの空は楽しいだろな♪
治って良かった良かった!
◇◇◇
「ただいまー! お茶にしよー!」
「荷物、ラナのマジックバッグに入れちゃいましょう。ダラス頼んでいいですか?」
「うむ」
「あいまとごじゃましゅ。おてわたてましゅ」
無言で頭わしわし撫でるダラスさん。
ジャスパーさんは庭で水撒き。
ロビンさんとミーシュくんはお茶の用意。
アストロはジャスパーさんにくっついてって水で遊ぶみたい。
ネージュはソファーでごろり。
「……それにしても大きいな。見た目巾着なのに」
「ねーじゅにたちてもやってたしゅたったー」
「うむ」
荷物を移動させつつダラスさんと話す。
重いものでもシュポシュポと入るので労働力は僅かだ。
その後、練習ブックを使って文字を書いてみた。
何より驚きなのがペン!
付けペンなのかなと思いきや、万年筆タイプのペンだった。
それも乾くまでなら専用の消しペンがあるのだ。
インクを吸水するタイプ。
乾いてしまったら消せないので、乾くまでなら何度でも消せる。
インクはカートリッジではなくスポイトみたいに給水する。
ちゅーっとね。
前世でも使ってたやつと遜色ない。
そして子ども用なので、手にも馴染む。
素晴らしい。
クレヨンの様な物もあったけど、わたしに絵心がないのは前世から知ってるので買わなかった。
……でもスーパー幼児の今なら或いは……?
いや、キリンを描いたらキメラだと言われた時の心のキズは未だに残ってるので止めておこう。
試しに自分の名前を書いてみる。
”ラナ・クレバヤシ”
やっぱり翻訳されているみたいで、問題なく読めるし書けた。
「ラナの苗字はクレバラーシュと言うんですか? ミーシュよりも上手に書けますね」
「ホントだ……。俺立場なしっ!」
クレバラーシュ?
「くえばやち、だよ?」
「うん? クレバラーシュと書いてありますよね?」
えっ? クレバヤシって書くとクレバラーシュになるの!?
書いた文字を見てもクレバヤシなのに! うそーん!
翻訳機能に問題ありなのか!?
と思って、いくつか単語を書いてみたけど、何故かクレバヤシだけがクレバラーシュになる不思議。
かくして、この世界でのフルネームは、ラナ・クレバラーシュになったのだった。
えー……マジかー……。




