不思議な世界。
昨日と同じ、実りの場所まで来てみたら、潰れた果物たちは見事に返り咲いていた。
びっくり。
どんな原理でこんなんなるのよ!
『そういう理だからねー。とは言え、きっと神樹の森だからじゃないかなとは思ってる』
あぁそんな事言ってたな。
しんじゅの森のしんじゅって神様の木がある森って事?
『うーんと、神様が授けた木がある森って説もあるんだけど、ぼくたちは神様の木がある森の意味で言うかな』
ほうほう。
どっちにしろ神様の木なのね。
どこにあるんだろ?
『上空から見えなかった? ユグドラシル』
え?
周りは全部森だったから、どれが神樹なのか分からなかったよ?
『よし、じゃあ見に行こう!』
ぐわっ! と大きくなったアストロの背中に乗せられ、上空に飛び上がる。
ぐほぅっ!! Gが! Gが掛かるぅぅ!!
『あぁごめんごめん! ”ドーム” ……じーって何?』
はふぅ……潰れるかと思った……。
Gはゲージ! 圧力! つーか理系じゃないから説明出来ないけど!
『ふぅん? 今度から気をつけるね』
よろしく頼んます……。
『ほら! 正面に見えるのが神樹、ユグドラシルだよ』
ほー! ……って、どれ?
『壁みたいになってるでしょ? アレ』
は?
え?
まさか、あの壁って木なの!?
『うん』
いやいやいやいや! ありえん!
だってあんなに大きな木なら、枝葉はどんだけ伸びるのよ!
『神樹の森は全部神樹の下だよ』
はぁ!?
お日様見えてんのに!?
『そう。木陰にならないんだよ。夜空も見えるよ』
理不尽っ!!
『不思議でしょ? だから神樹なんだよ。ラナが落ちてきた時、ユグドラシルの葉っぱかと思ったもんね』
それも言ってたなぁ……。
って事は、実際の葉っぱも大きいの?
『多分……見た事ないから分からないけど……』
見た事ないんかーい!
って、お日様も透過、夜空も透過するなら見えないって事なのか?
うぅん不思議!
とはいえ、魔法自体が不思議の塊。
これは早々に納得、いや、そういうもんなんだ、と思っていた方が自分の為である気がしてきた。
この世の理は、わたしの与り知らぬ事。
一々悩んでいても答えなど出ない。
何せ、元の世界とはかけ離れた場所なのだ。
『満足した?』
満足? うーん……
あの神樹のそばに行ってみたい!
『向かうのはいいけど、たどり着けないよ?』
そうなの!? 何で?
『行こうと思っても行けない場所なんだ。用事があるなら神樹が呼ぶよ』
何と!
やっぱり不思議ー!
『だよね。ふふっ! さぁ、果実や野菜を見つけに行こう』
うん!
あっ! ゆっくり降りてね!
『分かったー』
◇◇◇
実りの場所に着いて、家にあったカゴにフルーツを入れていたら
チロリン♪
え?
『ん?』
何か音がしなかった?
『どんな音?』
チロリンって、聞こえた気がしたんだけど。
『さぁ? ぼくには聞こえなかったなー。魔物の気配もないし』
ふむ? まぁいいか。
よし、フルーツはこれ位かなー?
これだけあればジャムも作れるはず!
インベントリにしまって、ん?
インベントリを開いたら、動物マークの所に赤ポチ?
さっき入れたヤツに何かあったのか?
……見たくない。
見たくないけど、確認しておかないと今後困るよね……。
見たら血がどばーーーっ! とか、内臓どちゃーーーっ! とかだったら嫌だな……。
そーっとそーっと……。
は?
えーと……?
ねぇ、アストロ?
『なぁに?』
さっきインベントリに入れた魔物って、まるっと1頭だったよね?
『うん。何で?』
お肉になってる。
『え?』
えーとえーと、あっ! 倉庫1にテーブルあったな。
どどん! と出して、ウォッシュ。
そんでもってから、動物マークの所から、とりあえず1つのお肉をどどん!
『は?』
これになってたの。まだ中にある。
そこには、自分と大きさが変わらない位立派な塊ロース。
何故ロースだと分かるかって?
説明書きがあるんだよ!
しかも、薄切りにしたい場合とか、ひき肉にしたい場所とか、ここに入れてねって注意書きさえある。
『うはー! 流石御使い様のインベントリ!』
え?
『解体もしてくれるなんて、凄いねー!』
は?
解体? を、インベントリがしたの?
『違うの?』
違! わないのか?
『ん??』
あぁ……いや、混乱してるだけ。
『お肉問題もこれで解決だね!』
はは……は……。
ありがたい。
ありがたいけど! アストロでさえ『凄い』と言わしめるって、よっぽどじゃないの!?
ありがたいけどね!?
ホントにこの世界は不思議だらけだ!!!
でも、そーゆーもんなんだ!!!
頑張れ! 自分っ!!!
◇◇◇
野菜はこっちだと言われて歩いて、歩、歩きづらい!
『拓けた場所以外は根っこが多いしね』
って事で、またアストロの背に跨り連れて行ってもらう。
しかし、フルーツの場所やら、野菜の場所やら、この森って一体……。
「わぁぁ! はくちゃいもきゃべちゅもあゆ! れたしゅも!」
ほうれん草に、チコリ!?
アスパラやパセリ、ブロッコリーにカリフラワー……?
きゅうりにトマト。
生姜、じゃがいも、さつまいも、玉ねぎ、人参。
大根、かぼちゃ、かぶ、ネギ、紫蘇まで?
何でもあるけど、この季節感のなさよ。
そういえばフルーツも季節感ZEROだったなー。
『果実の場所や野菜の場所は、あちこちにあって森の外側は人が採取しに来るんだよ』
そうなの? ここはどの辺? 人も来るの?
『ここは神樹に近いから、あんまり人は来ないねー』
ほうほう。
でも来る事はあるのか。
ふむふむ。
……幼児が1人(と1匹)で、こんな森の奥に居たら変よね。
しかし、いつかは人の街にも行ってみたい。
その時アストロはどうするんだろう。
『ぼくも行くよ』
えっ!?
『えっ、て、ぼくはラナと一緒に居るんだよ?当然行くよ』
一緒に来てくれるの?
『とーーーぉぜん!』
むっふーーーーん!
やったーーーー!
じゃあ一緒に行こうね!!
『もちろん!』