街に出る前に。
ふかふかお布団と、サラサラもふもふ。
気持ちいい……。
あぁ……起きたくない……。
……いや! ここは他人の家!
がばっ! と起きると
『おはよう!』
「おはようにゃー。死んだように寝てたにゃ!」
死んだようにって……縁起でもない。
おはよう。まだ暗い? 夜明け前?
「にゃに言ってる。もうお日様サンサンにゃ」
「えっ!?」
『布で仕切られてるから暗いだけだよー』
見回すとカーテンの隙間から日が入ってる。
遮光カーテンなのか!
カーンカーン と4回鐘の音。
これは何の鐘だろう?
アストロが魔法でカーテンを開ける。
眩しい光が部屋いっぱいに差し込む。
部屋の全貌が見えるが、白が基調の家具にブルーのソファ。
ライディングデスクとクローゼット。
結構広い部屋だなー。
20畳位ありそうだ。流石お屋敷。
あれ? そう言えばパジャマになってる!
『ロビンが着替えさせてくれたよ。これパジャマだったのかって笑ってたー』
ひぇ!!
乙女なのに何て事を!!
って、幼児だった。
とりあえず着替えてベッドから降り……高いな。
後ろを向いて足から降りよう。
よいしょと降りてドアに向かうが、ノブも高い。
仕方がないからアストロの背中に乗ってドアを開ける。
さて、ここは何処だろう?
廊下をウロウロ。
階段めっけ!
階段はアストロに乗ってると逆さまに落ちそうなので自分で降りようと思ったのだが、一段一段が高い。
……幼児って不便。
手摺に捕まり、片足ずつ行けば何とか!
「ラナ!」
ダダダ! と走ってきたのはダラスさん。
ひょいっと抱き上げられて
「おあよーごじゃましゅ」
「おはよう。部屋にベルなかった?」
ベル? はて?
「明日から、起きたらベルを鳴らしてくれたら行くから。階段は危ない」
いやそんな、森ではウーキーと木登りして遊んでますよ?
って、身体強化すれば良かったじゃん!
”そんな事したら、ラナがオカシイってバレるにゃ”
ネージュさん、それ正解!
と言うか結界バレてるし、特殊な子だともバレてるから今更感満載ではあるが。
「あい」
「それか部屋を下にするか」
「だいじぶ!」
アチコチの部屋を汚さなくていいですってば!
「とりあえず下に行こうな」
「あーい」
◇◇◇
「あっ! 先を越されたー! ラナ、アストロ、ネージュおはよう!」
『おはようー』
「おあよーごじゃましゅ」
「おはようにゃー」
「朝メシ用意してあるから食べなー」
ん?
「みんなは?」
「先に食べちゃったんだ」
「ごめなしゃい!」
わたし寝坊したのかー!
「気にしなくていいよ! 疲れてるだろうから、起きるまで起こさないようにしてたからね。先に食べちゃってごめんねー」
ぶんぶんと首を振る。
すまんこってす!
抱っこのままダイニングに行くと、ロビンさんが朝ごはんの支度をしてくれていた。
長い髪を後ろで縛り、腕まくりをしている姿は、まるでオカン。
「おはよう。みんなお腹空いたでしょう? すぐに用意できるから座って待っててね」
「おあよーごじゃましゅ。あいまとー」
「にゃー」
『朝ごはん! あ、おはよう!』
ぶんぶんしっぽ扇風機。
ここでもですか。
昨日もそうだけど、椅子にクッションを重ねて高さを調節してくれてる。
ネージュがケットシーとバレたので、ネージュも同じように座る。
アストロは流石に椅子には座れないので、椅子がテーブル代わり。
用意された朝ごはんは、何と白いスープ麺だー!
「ラナは麺を食べた事ある? どうかなーと思って用意してみたんだけど、パンもあるから麺がダメなら教えてね? アストロとネージュはどうかな?」
『ぼくは大丈夫! いただきます!』
「オレは初にゃー。いただきます!」
「だいじぶ! いたーちまちゅ!」
フォークでちゅるりと口に入れると、正しくクリームパスタ!
サラリとしたミルク感たっぷりの優しい味。
一緒に入ってるのは、玉ねぎアスパラ人参と、これはソーセージ!?
あるのかソーセージ!
「おいちぃ!」
『おかわりくださいな!』
早っ!
「ふふふっ、待ってね! 沢山あるからどんどん食べてね」
「おかわりくださいにゃ!」
君たち……少しは遠慮と言うものを……。
まぁ美味しいもんね!
それにしても、食に関しては恵まれたわー。
街に来て食べ物が合わなかったら持って来たサンドイッチやおにぎりが命綱と思っていたが、大丈夫そう!
うん、美味しい!
「ごちとーたまでちた!」
「ごちそうさまでした!」
『おか……ごちそうさまでした!』
「アストロ、まだ食べられるなら食べていいんだよ?」
『じゃあ、あと少し……』
「ふふっ、デザートもあるからね」
と、アストロにはおかわりを、わたしとネージュの前にはデザートを置いてくれたんだけど、これはもしや……?
「デザート入るかな? 別腹だよね?」
入りますとも!
スプーンを入れてパクリ。
「よーぐゆと!」
「正解ですよ」
ヨーグルトもあったのかー!
ミルクがあるんだからヨーグルトもあるよね!
え、ならチーズもあるんじゃない?
俄然街に行くのが楽しみになって来たっ!!
そしてヨーグルト美味しいぃぃぃぃ!
「にこにこと食べてくれる。これは嬉しいですね」
ロビンさんもにこにこ!
だって美味しいんだもん!
「美味いにゃー!」
『ごちそうさまでした! ぼくにも!』
「はい、もちろんありますよ」
『美味しいね! これなんて言うの?』
「ヨーグルトですよ。ミルクから作られてるんです」
『へぇ! ラナも作れる?』
「でちないよー」
これは無理。タネがあれば作れるだろうけど……。
って、ヨーグルト買って帰れば作れるな!
『ヨーグルト買って帰ろう!』
「うん!」
「街のミルク屋で売ってますから、お買い物しよう。チーズって言うのもあるんですよ。他にも沢山ありますから、見て回ろうね」
やっぱりチーズあるんだ!
「たのちみ!」
と、またカーンカーンと鐘の音。
今度は5回。
「このおとなぁに?」
「ん? あぁ時の鐘ですよ。時間で鳴るんです」
時間の概念あったー!
ロビンさんが教えてくれたのは朝6時に鐘ひとつ。
その後1つずつ鐘の音が増えて、お昼には特別な鐘の音になる。
そして夕方6時まで1時間毎に鐘が鳴るそうな。
昨日聞こえなかったのは、門が閉まるのが7時なので、既に鳴り終わったかららしい。
それにしては
「まだあたゆたったよね?」
「夏は日が長いし、森より街の方が明るいからね」
なるほど。
森の中だと暗いもんねー。
日の長さも街よりは短い。
そんな所も前世と同じなのか。
確かに異世界なのに、食も時も、違和感なく過ごせるのは有り難いね。
不思議だけどねっ!




