空の散歩。
その日は森の中でも真っ青な空が見える、夏日だった。
『空の散歩に行こう!』
と、アストロの提案でお弁当持って宛もなく散歩……と言えるか分からないが空へと上がる準備をしていた。
ネージュは
「オレは待ってるにゃー」
と言うので、お弁当だけ渡して別行動とした。
突然空の散歩って、どうしたの?
『最近、飛んでなかったから思いっきり空を駆けたくなったんだー』
なるほど。
確かにずっとわたしと一緒で、好きにウロウロできなかったもんね。
たまにはふらっと遊びに行ってもいいんだよ?
『それは好きでラナと一緒に居るからいいの。ラナと一緒に空を駆けたいんだよ』
本音かどうかの判断は付かないけど、そう言ってくれるのは嬉しい。
ふふっ! わたしもアストロと一緒に空散歩楽しんじゃう!
『そう来なくっちゃ!』
◇◇◇
『じゃあ行ってくるね!』
ネージュいってきまーす!
「行ってらっしゃいにゃー!」
グラシャの姿になり、翼を大きく広げる。
魔法紐で固定されて、いざ! 空へ!
助走もなく、ふわりと舞い上がる。
最初の頃は勢いよく飛び上がってたから、気を使ってくれてるのが分かった。
優しい子なのだ。
『思いっきり駆けていい?』
もちろん!
『行くよ!』
わたしにはドームがあるので、風も来ないしGも掛からない。
”空を駆ける”の表現通り、空に道があるように力強く駆けていく。
『ユグドラシルを廻るね!』
はーい!
以前、神樹の森なら、何周でも回れると言っていたが、確かにこの感じなら行けそうだ。
たまに遭遇する空の魔物。
アストロに気が付くと旋回して回避する。
前に言ってた魔蟲もそんなに居ない。
陸でも空でもアストロは強いんだねー。
『ニーズには敵わないけどね! こうやって走るのは楽しい!』
そりゃ、黒龍には、ねぇ。
この世界の生物の頂点だもの。
『ユグドラシルの外での頂点だよー』
ん? ユグドラシルの中ってあるの?
『神樹に招かれたら中に入れるんだけど、ニーズは外を守る黒龍だから』
そっか、中の守りも居るんだ。へぇ!
しばらく走ると、ユグドラシルと神樹の森との境目だよ、と結界の近くで滞空する。
ここが境目?
『そう。目に映る景色は普通の森なんだけど、生き物は見えないでしょ?』
うん。動いてるモノがないみたい。
『この中は精霊の住処って言われてるんだ。世界中で最も穏やかな場所なんだって』
へぇー! 御伽噺の世界みたい!
『ふふっ! いつかラナの知ってる御伽噺聞かせてね』
わたしが知ってるのは前世のだからなー。
『それでもいいよ。よし、また走るよ!』
うん!
『今度は森の辺に向かうねー!』
”インビジブル”
昼間だし、人に見られる訳にはいかないから透明魔法を使ったみたい。
夜の街は見た事あるけど、昼間はどんな感じなんだろう。
『ぼくも普段あまり近づかないから、こっそり見てみよう』
うんうん!
森の辺から、少し離れた所に高い壁。
森との境目は草原になっている。
道らしきものはないが、轍のように細く線になっている所に人が歩いているのが見えた。
『あの装備は冒険者だね。森に入るみたいだ』
おおおお! 冒険者!
目を強化してその人達を見ると、6人組で確かにゴツイ格好をしている。
ベテランとか初心者とかは分からないけど、気をつけて頑張ってねー! とエールを送っておく。
壁に大きな門。
大きな門扉は閉ざされていて、小さな扉だけが開いていた。
これも魔物対策なんだろうな。
『そうだね、たまに迷い出てくるヤツが居るから』
あの大きなイモムシくんみたいなの?
『そうそう。フォレストバグね。討伐者が多いと、大きな門が開くみたい』
なるほどー。
対策は必要だもんね。
『うん』
あの門はどこの国?
『レイズサイズ国だね。多様人種の住む国。国としては大きくないけど、最も発展してる』
へぇ! お買い物ならレイズサイズ国かな?
『うんうん、魔道具も多いみたい。お買い物行ってみたいねー』
ね! 早く大きくなりたいなー。
『ふふっ、ゆっくりでいいよ』
いや、お昼寝が必要だとか、お買い物に行けないとか!
やっぱり早く大きくなりたいーー!
『じゃあお昼寝もして、沢山ごはんも食べないとね!』
いや、だからお昼寝必須なのがちょっと、って……。
『近道なんてないんだから、健やかに大きくなるには必要でしょ?』
ぐぬぬ……確かに。
『ラナも言ってたじゃない? 千里の道も1歩から、って』
もしかして、諭されてる!?
アストロは伊達に50年生きて無いって事か……。
『ぼくはもう成体だからねー』
わたしも中身は大人なのにー!
『小さい時にしか楽しめない事を沢山楽しんで過ごしたら? 子どもの時しか楽しめない事もあると思うよ』
確かにそうだ。
大人の時間の方が遥かに長い。
でも、子どもの時しか楽しめないってなんだろうね?
『それを探すのも楽しそうじゃない? だからゆっくりでいいんだよ』
中身が大人だから焦る事も多いんだろうな。
アストロの言うように近道はないんだもんね。
ぐぅ〜……。
お日様はてっぺん。
お昼ごはん食べる所探そうか!
『はーい! じゃあ戻りながら探すね』
レイズサイズの街、またね!
いつかお買い物に来るからねー!
◇◇◇
いつもベリーを摘んでいた近くに小川があったので、そこでお昼ごはんにした。
少し行けばデザートも食べられるし、一石二鳥だ。
おにぎりのお弁当。
具材は鮭とおかか。
おかずには、炙りベーコンとたまご焼き、きゅうりの浅漬け。
これで充分だ。
そう言えば、お弁当のおかず人気NO.1.2を争う唐揚げは作った事がなかったな。
今度作ろう。
アストロの前にはおにぎりマウンテン。
もちろんおかずもマウンテン。
『お魚のおにぎり、美味しいねー!』
インベントリのお陰で、全てほかほか。
冷めたおにぎりも美味しいんだけど、炙りベーコンは熱々がいい。脂が固まるからね。
ネージュのお弁当は冷めてるだろうから、ベーコンは失敗だったかなぁ。
『大丈夫、きっと美味しく食べてるよ』
だといいな。
ぱくっ! もぐもぐ。
うん、美味しい!
次はデザート摘みに行こう!
『うん!』
と、アストロの背中に乗せてもらって果実の場所へ。
相変わらず、たわわに実るベリー達。
甘くて大きいいちごやブルーベリーを堪能していると、アストロがピクッと何かに反応した。
『……こんな森の浅瀬に近い所に居るのは変だな……』
何か居るの?
『特殊な魔物の気配がする』
魔物!?
『うん。多頭じゃないから、迷い出てきたのかな。ちょっと見に行きたいんだけど、ラナはどうする?』
戦闘になったら邪魔になるし、結界張って待ってるよ。
『分かった。お家と同じように、地中にも結界張って待ってて。すぐ戻るから』
うん、気をつけてね?
『はーい、行ってくるねー!』
と、飛び立った。




