燻製の出来は?
結界の中から取り出した燻製を、テーブルの上に並べてみた。
うん、表面の色合いはいい感じ。
ブルもロックバードも熱々のホカホカなので、中までちゃんと火が通ってるだろう。
お魚も崩れずに柔らかな飴色だ。
ブルをキングオークのベーコンと同じように縦から半分に切ると、キラキラと肉汁が滲みてくる。
『「わぁ! 美味しそう!」』
「いいかんじにでちたね!」
キラキラ……。
ん? これ、どこの光を反射してキラキラしてんの?
森の中の一軒家であるここは、既に薄暗い。
まだ明かりも灯していない。
『ラナ、これ』
「キラキラにゃ」
ふ……うふ……うふふふふふふふふ……
『このベーコン』
その先は禁句!
言わずとも分かってる!
美味しくなーれの魔法が掛かってる!
あ、言っちゃった。
”アナライズ”
”レッドブル(加工品) 効果:体力回復速度10%上昇 魔力回復速度10%上昇 とても美味”
……。
アナライズしている間にキラキラは消えた。
が! とんでもないのを作ってしまった……。
『すごく美味しいって! 食べてみたい!』
「オレも食べたいにゃ!」
……アストロもアナライズしてみた?
『うん! すごく美味しいって感じた!』
その他は?
『特に何も無かったと思うけど、何かあるの?』
体力回復と魔力回復が向上するんだって。
『「えっ!? 」すごーい!!』
それだけ!?
「今、体力も魔力も減ってなければ、単なる食い物じゃにゃいの?」
あ、そゆこと?
「疲れた時に食べたらポーションの代わりになりそうにゃー」
ポーション! 異世界あるある出た!
「異世界?」
『食べたい! 食べよう! 味見味見!』
「あ、オレも食べるにゃ!」
……ネージュってば、流され上手。
じゃあ、お待ちかねの味見タイムー!
オークベーコンと同じ様に、薄くカットしてお皿に乗せる。
おぉ、今日もいい風が吹いて来た。
しっぽ扇風機は健在だ。
「どーじょ!」
『「いただきます!」』
ふたりとも口に含んだ瞬間に、ピタッと止まり、カッ!と目を見開いて咀嚼嚥下したと思ったら、くねくねしだした。
『あぁ……幸せ……』
「分かる。これは幸せの味にゃ……」
え、何それ。
「ラナも味見するにゃ! そうしたら分かるにゃ!」
では、いただきます。
はむりとかぶりつくと、まず燻された煙の香り。
その後に絶妙なバランスの塩味が来て、元々美味しいブルのお肉のしっとり感、ハーブの香り。
なるほど、これは美味しい。
そもそも牛肉のベーコンは生前でも食べた事なかった気がする。
ベーコンと言えば、豚のベーコンだったもんなー。
牛肉のベーコンって、こんなに美味しいんだ。
あれ? 魔法のせい? まぁ美味しいは正義! なら何でもいいか!
「おいちぃねぇ!」
『ロックバードとお魚も残ってる! 味見味見!』
そうだった、アナライズの衝撃で忘れてた。
こっちもこっちで何かないか調べてからね!
アナライズの結果、ロックバードは俊敏性5%上昇、お魚は、耐水性5%上昇と出た。
これはもう笑うしかない。
因みに、お魚の名前はストゥールグラドーンと言い、それの稚魚だそうだ。
何だか分からんけど、わたしの中では鮭一択。
それでいいのだ!
さておき。
お味の方は言わずもがな。
ロックバードは、ブルよりもしっとりとしていて、皮目はパリッと。
皮を付けたまま燻したのは正解だったね。
皮のお陰で、お肉が水分を保っていたみたい。
鮭の燻製は表面こそ乾いていたが燻す時間は短かったので、ホロホロと解れて食感は焼き鮭。
しかし香りは極上。
塩加減もいい塩梅で、普通に焼くより断然美味しい。
これは3種類とも大成功だよね!
『大成功! ご飯は毎日これ食べたい位大成功!』
「この世にこんな美味しいモノがあるにゃんて衝撃的にゃ……」
『でしょう!? ラナのお料理は魔法より魔法なんだよ!』
いやいや、魔法あってのこのお料理ですからね?
魔法なかったら特殊効果付いてなかったと思うし。
とりあえず、次回から美味しくなーれは封印しないと、とんでもないモノができそうで怖いわ。
『美味しくなったらダメなの?』
しょぼん
「美味しい方がいいにゃ」
しょぼん
そうじゃなくて! 特殊効果が付いちゃうのがダメなんだって!
なので、お願いするなら特殊効果ナシで美味しくなーれって、祈るのは、アリかな……?
ぱぁ!
「『そうする!』にゃ!」
……ホントに頼みますよ?
まぁ知らない人に食べさせる訳じゃなし、この3人で分けるならいいよね。
ふぅ。
◇◇◇
折角なので、夜ごはんは燻製したお肉たちを使って作る事にした。
出汁で炊いたご飯は、おにぎりにして具は燻した鮭を。
ロックバードの燻製は、細く割いて山盛りキュウリと一緒にバンバンジー風に。
胡麻油はあるが、胡麻がなかったので中華風のドレッシングだ。
ブルの燻製は、ちょいと厚切りにして炙ってみた。
後はガラスープで角切り根菜のテキトースープ。
素材が良ければ、テキトーでも美味しくできるのは有難い。
『おかわりくださいな!』
「おかわりくださいにゃ!」
「あいあーい」
今日はお皿マウンテンにはせずに、おかわり方式にした。
折角炙ったブル燻製が冷めないように、インベントリにあるからね。
お皿に手を翳して、枚数指定すれば簡単に出て来るので手間じゃないし。
その代わり、おにぎりとスープとバンバンジーはマウンテンだけど。
『おかわりくださいな!「にゃ!」』
「あーい」
しっかし、よく食べるなー!
アストロは身体の大きさから量食べるのは分かるけど、ネージュの体高はわたしと変わらないのに、どこに入るんだろう?
4次元胃袋なのかな?
『おかわりくださいな!』
「おか……」
ネージュ、無理して食べなくてもいいんだよ?
「食べないと無くなっちゃうにゃ〜」
あぁ、食べられない時が長かったからか。
……野良猫ちゃんみたい。
無くなったらまた作るし、大丈夫。
無理して食べて、具合悪くなったら美味しかった記憶が苦しい記憶になっちゃうよ?
まだ沢山残ってるから、明日でもいつでも食べられるから。
「……分かったにゃ。ごちそうさまでした!」
「あい!」
『おかわ「まだ食うにゃ!?」り、ちょっとだけくださいなー』
ふふっ!
じゃあ1切れね!
『うん!』
おかわり攻撃に圧倒されていたが、わたしも完食!
『ごちそうさまでした!』
「ごちとーたまでちた!」




