季節渡りの精霊。
ぱちっ
あれ? 寝ちゃったのか。
ベッドって事は、アストロが運んでくれたんだな。
感謝感激雨あられ。
さて、そのアストロは……?
『あっ、おはようラナ! 良い時に起きたね! 空を見てご覧!』
空?
「う、わっ! きえいー! あえなぁに!?」
『季節渡りの精霊が飛んでるんだよー。綺麗だよねぇ』
季節渡りの精霊?
『うん。季節が変わる頃になると飛んでくる精霊なんだよ。次の季節は夏だから、精霊の色もオレンジだね』
ヒラヒラと服なのかヒレなのか分からないが、オレンジと赤とピンクと、とにかく暖色系の色が混じったようなモノが空を覆っている。
あの精霊はひとりで飛んでるの?
『眷属と一緒に飛んでるからひとりじゃないよ』
ほへー!
どこに行くの?
『この辺りに夏を連れて来たんだよ、ここら辺に来て夏の準備して、もう少ししたら夏の風が吹くようになって暑くなるよ』
ほへへー!
ファンタジー!
じゃあ、いつでも見られるの?
『残念ながら見られるのはこの1回だけだよ。次の季節を運ぶ精霊が来たら、夏の精霊は次の所に行くんだ。それまでは風で感じるだけだねー』
という事は、今は春だったのか。
『知ってるの? 凄いね!』
前世にも季節はあったから知ってるよ。
夏の次は秋、その次は冬、そして春が来て夏になる、でしょ?
『そう! 同じだったんだねー』
季節を感じられるのはいいね!
とはいえ、食に季節があるのか不明だが。
『え? 食べるモノに季節は関係ないよね?』
前作では、その季節にしか食べられない物があったんだよ。
食でも季節を感じたの。
『そうなんだ。じゃあ、どうしてもソレを食べたくても食べられない季節があったの?』
大雑把に言うとそうだけど、そうならないように、いつでも食べられるように、次に巡る季節の収穫まで備蓄できるものはしておくんだよ。
フルーツは難しかったなー。
季節外れだと、べらぼうに高かったし。
『採取場所が?』
あぁ、高いって言うのは値段ね。
『あ、そっか。お買い物なんだねー』
そうそう。
『お買い物した事ないから分からなかったよ。ふふっ』
森の中なら採ってくるのがセオリーだもんね。
知らなくて当然だよ。
『いつかしてみたいね! お買い物!』
うん。一緒に行こうね!
『うんうん!』
◇◇◇
綺麗なモノを見たあとだから、気分爽快!
え? お昼寝したからでしょって?
まぁそれもある。
そろそろ夜ごはんの支度だ。
夏が来るって言うなら、今のうちにグラタンぽいものを食べたいかな。
夏が猛暑になったら絶対食べないだろうし。
かと言ってショートパスタもないので、シェファーズパイにするか。
インベントリのひき肉と玉ねぎを炒めて、ハーブとブラウンソースで煮込んでおいて、その間にじゃがいもを茹でて潰す。
土鍋(土鍋! ぷぷっ!)に、お肉とマッシュポテトを交互に敷いて、1番上にはポテトが来るように。
ここでチーズがあれば文句なしなんだけど、ない物は仕方ない。
所々にバターを散らしてパン粉もかけてオーブンに、どーーん!
焼いてる間に、カリカリベーコンを作って、生野菜の上に染み出た油と一緒にジュー! とかける。
程よくしんなりした生野菜とベーコンソースが絡まって、美味しいんだよねー。
もちろん黒胡椒もたっぷりね!
後は鶏ガラスープに、ごちゃまぜ野菜で具沢山スープ。
アストロは少し離れた場所で、キチンとお座り。
あんまりそばに居ると動きづらいからね。
しっぽは相変わらず高速ブンブン。
あ、ケットシーも食べるかな?
『お昼ごはんのあの様子からなら、喜んで食べると思うよ』
そうだよねー。
なら差し入れしてあげるか。
それとも外で一緒に食べる?
『ぼくはそれでもいいよー』
じゃあ、と作った夜ごはんをインベントリに入れて玄関を出たら、結界に張り付いたケットシーが居た。
「こんにゃ所にも結界があるにゃんて!」
『防音結界してあったんだよ。張り付いててびっくりした! ひゃはは!』
笑っちゃダメだけど、面白かった!
結界と分かったから叩く事もせず、べたーーっと張り付いてる姿は、まるでネコの開き。
「しょんなにおこやないで、ようごあんいっしょにとおもって、もってちたよ」
途端に、ぴんっ! と張るしっぽ。
ケットシーのしっぽも表情豊かだね!
『”ライト”』
既に森の中は暗い。
アストロのライトで明るくして、テーブルセッティング。
真ん中にシェファーズパイとサラダを置いて、スープとパン、カトラリーを並べたら
『「いただきます!」』
「いたーちまちゅ!」
パイを分けて、サラダも分けて、みんなで囲む食卓。
『おかわりくださ「おかわりくださいにゃ!」』
何だこれ。輪唱か?
「あーい!」
シェファーズパイのミートソースとポテトの絡み具合最高!
あっつあつのパイをパンに乗せてもいい感じ♪
カリカリベーコンはサクサクだし、しなっとした所とシャキッとした所の野菜も美味しい。
レモン塩で食べるの最高!
『おかわりくださいな!』
「あーい!」
「おっ! おかわりくだ、んぐっ!」
『慌てなくてもちゃんとあるよ!』
「おみじゅ!」
ぐびぐびぷっはー!
「あ、ありがとう。死ぬかと思ったにゃ……」
「ちをちゅけてお? ゆっくいでだいじぶ!」
誰も取らないよ?
「うん、ありがとう。で、おかわりくださいにゃ!」
ふふっ
「あーい!」
はた、と気付いたが、わたし賄いおばちゃんだな……幼児だけど。
まぁいいか。
美味しいんだから仕方ない!
暑くもなく、寒くもなく、吹く風は優しくて、夜の帳に覆われた森の中。
普段なら、絶対に聞こえないような笑い声が響いていた。
時々、その声に誘われたのか、食べ物の匂いに誘われたのか、結界に弾かれ飛ばされてる魔物も居たが、わたしの肝も据わって来たようで、動じなくなっていた。
随分慣れたなー、と、ひとり感慨深く頷いた。




