亜空間倉庫から出してみよう。
アストロの魔法で濡れた全身を乾かして貰った。
ワクワクしていた気持ちが、しんなりしおしおのぷしゅー。
トイレもお風呂も食べる物もない。
幸い季節、があるのかは分からないが、暑くも寒くもない。
これも夜にならないと分からない。
鬱蒼とした森の中だと日の傾きもよく分からない。
この実りの森? は開けていて、お日様もよく当たるので、今が昼間なのは分かるけど…。
これからどうしよう…。
このまま森の中で暮らすの?
なーんにもない所で?
何かしようとしても3歳ボディじゃできる事は限られる。
うーむむむ…。
腕組みしているはずなのに、腕が交差しないとはこれ如何に。
『ちょっと果実を多く摘んでインベントリに入れておきなよ』
は?
インベントリ、とはなんぞ?
『え、使えるよね? 空間倉庫』
は?
『だって、ぼくから見てもダダ洩れな位魔力があるんだもん。使えるはずだよ』
え? ダダ洩れ?
『うん。ダダ洩れ』
魔力が見えるの!?
『うん、最初に言ったでしょ? 魔力で仲間を識別してるって』
あぁ! うん、言ってた!
『ラナの魔力は、ぽかぽかのお日様みたいだよ』
へーーーー!
って、自分じゃ見えないよ。
『そう? さっき魔力を感じたでしょ? それなら見る事もできるはず。ぼくの魔力も見てごらん』
アストロの、魔力?
……んじーーーーー…
じろじろじーーーーー……
『それただ見てるだけ! ひゃはは! 感知するようにだよー』
そ、そんな事言われても!
感知、感じて知る。感じて見る。
さっきと同じように…?
集中してると、アストロを包むように立ち上がるようなモヤモヤ。
これが魔力?
『そう! 森の中だから放出してるんだ。ぼくは強いから寄ってくるなよーって魔物に教えてるんだよ』
魔物! やっぱり居るんだ!
『ラナは無意識なんだろうけど、強者の放出具合』
えっ! それマズくない!?
『まぁ魔物を狩るなら抑えなくちゃ全部逃げられちゃうね!』
いや! 狩らないよ!?
『え? 人は魔物食べないの?』
えっ!? 逆に聞きたい! 魔物って食べられるの!?
『うーん、退治する為もあるんだろうけど、捌いて焼いて食べてるけどなぁ』
マジか!!
『出た! マジか! マジだ! ひゃはは!』
あれ? 冒険者って、この森に入って来るの?
『深部までは行ってないみたいだけど、森の浅い所から中部位までは入って来るねー。こっそり隠れて見たりするよ。人に見られたらダメって言われてるから、ホントにこっそりだけど』
まぁ、こんなでっかいわんこが出てきたら怖いもんな。
『えっ! ぼく怖い!?』
最初びっくりして気絶しましたけど?
『そ、そうなのか…怖い夢でも見たのかと……』
ん? 夢? あれ? 何か忘れてる……。
何だっけ…。
あっ! 亜空間倉庫!!
『うん、使えるよね?』
何か必要なものはインベントリに入れたって言われた。
『誰に?』
神様。
『えええぇぇぇぇぇぇ!! やっぱり御使い様じゃん!!』
いや、御使い様っつたら、使命とかあるでしょ? 特に何かしろとは言われてないし、落とされたし。
『……天から追放……』
ちっがーーーう! 魔力のせいで赤子にできないから3歳児の身体を授けられたの!
決して追放とかではない!!
『うーん……良く分からないけど、分かったことにしとく』
…アストロって細かい事には拘らないんだね。
『これからもラナと一緒なら、そのうち分かるでしょ』
あー、うん、そうね。うん。
はっ! インベントリってどうやって使うの?
『空間倉庫を思い描けば感覚で分かるよ』
……また抽象的な。
その道をがーっと行って曲がってだーっと行ったらあるよ! って説明するどっかの街のオバチャン(偏見)みたいだ。
『うん?』
ナンデモアリマセン。
えーっと、インベントリ……。
ぬぉ!?
何か出た!! けど、これどうやって出すのよ!
『ん? からっぽじゃないの? あ、神様に入れてもらったんだっけ』
何かいっぱい入ってる!
『これ出したいって思って、手を翳せば出るんじゃない?』
え、これを、出したい……?
これ、おもちゃかな? とりあえず目についたヤツを…
ででんっ!!
『「は?」』
「まってまって! こぇちまうのはどうちたら!?」
『……え、 あ、手を翳して、しまうって思えば。って、え?』
しまうっ!
シュッ!
『「……」』
今の何?
『えっと、え?』
家だよね!? 家だったよね!?
『家、だね……。てゆか、どんだけ大きい空間倉庫なの……』
知らないよぉぉぉぉ!!
なんであんなでっかいもんまで入ってるの!?
おかしいでしょ!? おかしいよね!?
『うん、おかしい』
ぬぁぁぁぁぁ!!!
『でも御使い様だし』
だから違うってば!
はっ! 家があるなら生活できる!
寝床には困らん!!
ひゃっほーーーーーー!!
きっとトイレもあるはず!!
って、後はお風呂と食材か…。
『ねーねー、さっきのやつ、ぼくの寝床の所に出してみる? 水も近くにあるし』
いいの?
『うん、ここよりも拓けた場所だから出しても大丈夫じゃない?』
あ、いちごもブルーベリーも、ちょっと潰れてしまってる。
しょぼん…
『あぁ明日には元通りだから大丈夫だよー』
は?
『魔物に踏み潰されても、すぐ元通りになるよ』
…何と逞しい…。
それでは、アストロの寝床にお邪魔させて頂きます。
『うん! じゃあ案内するね!』
またアストロの背に乗せてもらい、寝床にしている場所へ向かう。
◇◇◇
さっき水を飲んだ白い泉のすぐ近く、ぽっかりと森に穴が空いたような場所。
大きな木の洞の中で寝起きしていたらしく、ふかふかの葉っぱが敷いてあった。
ふわぁ!
何だか秘密基地っぽい! いいね!
『ここなら出しても大丈夫じゃない?』
でもいいの? せっかくぽっかり空いてるのに、狭くなっちゃうよ?
『大丈夫! …その代わりぼくも入れて?』
ふふふっ! もちろん! じゃあ出してみるね!
インベントリを思い浮かべて…
ででんっ!!
……。
『凄いね』
「ちごいね」
何はともあれ、入ってみよう!