前途多難。
アストロの背に乗り、上空から下を見る。
うん、森だ。
紛う事なき森だ。
時々、動物が走ってるのが見えた。
この高さから見ても、何となく鹿っぽいなーと分かるくらいだから、きっと大きいんだろうなぁ。
少し旋回し、前に聳え立つ壁を右に見る。
左の遠くに森の終わりが見えた。
あの先には何があるんだろう?
『人の住む街があるよ。近づいたらダメって言われるけど、ダメって言われたら気になるよね? だから見に行った事はあるよ。叱られたけど』
……子どものソレじゃん。
『子どもだったからねー。もうすぐ着くよ、下降するから掴まって!』
はい! は? ひゃぁぁぁぁぁ!!
そんなに急降下せんでもぉぉぉぉ!!
いーーーーやーーーー!!
『とうちゃーーーく!』
ぜーぜー…
ビビった……良かった、先に出しておいて……。
『……。』
そ、そんな目で見なくてもっ!
怖かったんだもん!
『ごめんね、次回からはもっとゆっくり降りるよ』
次回…が、もしあるならばお願いします。
それよりお水ー!
『はいはい、こっちだよー』
アストロは翼をしまい、わたしを背に乗せたまま歩く。
ほんの数分で着いたそこは静謐な雰囲気の泉。
わ、ぁ……凄い。綺麗……。
こんこんと湧き出る水が白い砂利に囲まれた場所。
近くに寄ると、透明度が高い事が分かる。
手に掬うと、とても冷たい。
こくん…
もう一度。
こくこくん…
美味しい!
手が小さいから、ちょっとしか掬えず、何度も繰り返す。
ぷっは~!
生き返った…って、物理的に生き返ったんだった。
いや、転生? になるのか?
ふと、水面に映る自分を見る。
波紋が落ち着くまで待つと、見慣れない幼女が居る。
ぺた。
ぺたぺた。
顔を触りまくる。
にこっ。
むきー!
んべー。
鼻を押し上げて、ふがふが。
『……何してんの?』
え、確認してるの。
『何を?』
自分の顔。
『幼児って変な事するんだねぇ』
いや、確認は必要でしょ。
再度覗き込むと、反射してよく分からないが、そこには溢れんばかりの大きな目をした子どもが居る。
よく見えないけど瞳は黒くない。
ふくふくのほっぺ。
髪の色も黒じゃない。
金髪? もっと淡い?
頭を触ると、ほわほわなまだ短い髪の毛。
と言うか、頭のてっぺんに届かない!?
え、3歳って言ったよね?
3歳って、頭のてっぺんに手が届かないの!?
『痒くなったらぺろぺろしてあげるから大丈夫』
違う! そうじゃない!
つーか、頭が痒くなるまで放置しないよ!
って、お風呂! お風呂は!?
『おふろってなぁに?』
がーーーーーーん!!!
トイレもない…
お風呂もない…
こんな場所でどうしろと…?
じわり…ぽろり…
『えっ!?』
「うっ…ぶわあああああああん!!!」
『えっ!? えっ!? ラナ泣かないで!』
しゅるしゅるとアストロが小さくなって、ラナの顔をぺろぺろする。
「ひっく! あしゅとよが!」
びっくりして涙がすっこんだよ!!
『泣き止んだ!!』
「どうちてちっちゃくなえたの!?」
『大きさを変えるなんて朝めし前だよ』
「ちごい!」
『ちごい?』
凄いって言ったの! くっ! 幼児語め!
今のアストロの大きさは、言うなればゴールデンレトリバーサイズの2倍程。
それでも幼児から見たら大きいけど、さっきの大きさの1/3か1/4位だ。
凄い!
『この大きさだと翼は出せないけど、ラナを背中に乗せる位ならアリだね! まだお水飲む?』
ううん、もう大丈夫。
……でもちょっとお腹空いた。
『それなら何か食べる物探そう。……って、何が食べられる?』
えっ、あぁそうか。
うーん…ちょっと待てよ?
食べる物もないのか…。
じわり……
『あぁぁぁぁぁぁ!! 果実! 果実は!?』
…果実、果物…うん、とりあえずそれなら…ひっく。
『じゃあ、果実が生ってる所が近くだから! ねっ!?』
うん……
アストロのウィンドで、また背中に乗せられる。
さっき背中に乗った時よりも、収まりがいい感じ。
跨ぐ幅か。
『落ちないけど掴まってね』
掴まる所が毛しかないけど、痛くない?
『ふふふっ 大丈夫だよー。あんまりスピード出さないようにするね』
お願いします。
◇◇◇
……何これ。
『ここは実りの森、果実が多く生る場所なんだ』
ふわぁぁぁぁ! すっごい!!
いちごだーーーー!!
早速ひとつ採って、ぱくり。
甘ーーい! 美味しーーい!
あっ! あっちにはブルーベリー!?
凄ーーーい!
鈴なりのいちごを、ぱくぱくと食べる。
ブルーベリーも言わずもがな。
気が付けば、手も、恐らく口の周りも、服も赤黒い。
……。
『はいはい、”ウォッシュ”』
ありがとう。
ねぇ、それわたしにも使える?
『ん? ウォッシュ? 使えるはずだよ』
教えて!
『いいよー。まずね、身体の中の魔力を感じて、こーやって使いたい! と思ったらできるよ!』
……抽象的。
魔法っていったら呪文とかあるんじゃないの?
『言葉にするのは現象を形付けるのに想像しやすいからだけだよ。何でもいいの。ぼくはウォッシュと言うけど、クリーンでもイメージだけでも大丈夫。他の魔法も同じだよ』
へ? そうなの?
『うん。ウィンドにしても、ウォッシュにしても、一定の現象にする為に言ってるだけだね』
ほーーー!
まぁとりあえず魔力?
『そう。魔力が感じられなければ使えないからね』
分かった、やってみる!
……って、魔力って何処にあるの?
『えっ!? えっとー…考えた事なかったな…。最初から使えたし…』
えーーーーーーーーーー!!
『で、でも身体の中にあるから!』
……。
とりあえず目を閉じてみる。
身体の中にある魔力?
どんな感じなんだろう…血液みたい?
それとも何か塊みたいになってる?
むむむむむ……。
……ぁ
何だろうこれ。
目の裏に見える、気がする、モヤモヤ?
右手、左手にモヤモヤ。
ぴん! と来た!
これだ!
次に、何をしたいか? だっけ?
とりあえず服も手も綺麗になってるから、他に必要なもの…?
ないと困るのは…
「おみじゅ!」
どばしゃーーーーーーー!!!
『「ぎゃーーーーーーーー!!」』
…………
……ぴっちょん
「……」
『……加減、覚えないとね』
すんません……。
とほほ。




