温泉に行こう。
翌朝。
ぽっかりと開けた木々の間にある自宅は、既にさんさんとお日様を浴びている。
幼児の身体は、どれだけ睡眠するんだか……。
『おはよう! いい天気だよ』
そう言って、大きなメロンを差し出すアストロ。
網目状の模様が付いてる。
これ、桐箱に入ってたら、おいくら万円するんだろうか。
「あいまとー! おっちなめよんねー」
『お散歩してたら、いい匂いがしたからもいできた』
「うんうん! ちっとたべごよやかや、いじゅみでひやしょうか」
1度インベントリに入れて、泉までてくてく。
家でも顔は洗えるし、何ならウォッシュでもいいんだけど、泉の静謐な感じが良いのだよ。
ぺちぺちと(自分的にはじゃぶじゃぶ)顔を洗って、魔法で乾かす。
インベントリからメロンを出して、ぽちゃんと浮かべる。
……これ、流れて行かないだろうか。もしくは他の動物に食べられたりしないだろうか。
『小さな結界張れば大丈夫だよ』
おぉ! 結界の応用ね!
えーと、メロンだけじゃダメなので、メロンの周り50cm位に
「けったい!」
ふわん! と魔力が流れ、光がメロンを囲む。
なるほど、結界の大きさによって使う魔力も変わるのね。
『うん。後は強度だね。大きくて頑丈な結界は魔力も沢山使うから、自分の魔力総量も大まかに把握してると、いざと言う時に役立つよ』
魔力の総量って、自分で分かるの?
『コレばかりは経験則だねー。何度も使ってると、その時によって違うのが分かるから、それを覚えておくんだ。後は回復するのにどれ位掛かるか、とかね』
ふむ。
昨夜、家に掛けた結界は結構魔力を使ったと思うけど、バケツ1杯程度な感じ。
ダルくもならなかったし、特に変わらなかった。
今使った結界では、水で言うなら水滴位に感じたな。
『ふふふっ! ラナは魔力が多いからね。大魔法を何発も連続で撃たなければ大丈夫じゃないかな?』
大魔法、が、どんなのか分からないけど、そんな場面もそうそうないよね?
『そうだねー。大魔法使うと、ここら一帯が野原になる位だねー』
ひぇ! そんな魔法使わないよ!
『うんうん、ぼくも居るし大丈夫だよ』
頼りにしてます! アストロ兄さん!
『任せて! ……で、ごはん食べたいな』
チラッ
「うん! かえって、ごパンにちよー!」
◇◇◇
よし! 今朝はスープを作るよ!
白菜、玉ねぎ、人参、薄切り肉。
全部細切りにして、塩と醤油で味付け。
……ブルの骨はお肉の所にあったから、後で出汁取っておこう。
野菜からは旨みが、お肉からは多少出汁っぽいのが出るから、これでいいだろう。
卵があったらいいのになぁ。
小麦粉も欲しいし。
流石にだしの素やコンソメキューブはないだろうな。
そしてやっぱりミルクも欲しい。
うーーーむ……。
とりあえず
「でちまちたー!」
『わぁ! これはなぁに?』
野菜たっぷりスープとパン。
バターとジャムですよー。
『すーぷ?』
うん! 野菜も食べないとね!
『分かった!』
「いたーちまちゅ!」
『昨日も言ってたね、いたーちまちゅ?』
いただきます、って言うの。
野菜もお肉も命を頂いてるし、糧にさせていただきますって言う意味があるんだよ。
それと、作ってくれた人に対しての感謝の意味もあるね。
『へぇ! いただきます!』
召し上がれー!
『うん! 美味しい! これがスープ』
スープには色んな種類があるから、これだけじゃないんだよ。
まだこれからも作るからね!
とはいえ、調味料が少ないから、中身が変わるだけになるかもだけど。
『その、調味料? が増えたら、スープの種類も増えるの?』
うん。具材によっても変わるし、変幻自在なのがスープだねー。
『ふぅん……。今度は違うお肉狩って来るね!』
ふふ! お願いします!
◇◇◇
朝ごはんを食べたら、昨日言ってた温泉に行ってみることになった。
こんなに早く念願叶うなんて嬉しい!
お昼のお弁当は、朝の残りのスープとサンドイッチ。
まぁバターとジャム、甘辛お肉とレタスしかないけど。
『その家、持って行くのがいいかも。これから行ってお湯に入ったら帰りは夜になっちゃうよ』
あら。
結界はどうする?
『そのままでいいよ。またここに戻るでしょ?』
そうねぇ……泉もあるし、果実の森も近いし、とりあえず戻るって事にしようか。
何ならお湯の泉の側に家置いても良いかもだけど。
『まぁぼくはラナと一緒なら何処でもいいよ』
ふふ! わたしも何処でもいいよ!
いい所があったら、そこに家置いて暫く滞在するのもアリだよね!
『うんうん、じゃあ行くよー』
「あーい!」
家を収納!
シュッ!
結界は、アストロのだけとりあえず維持。
悪さしなければ素通り出来るもんね!
大きくなったアストロの背中に乗せてもらって
「ちゅっぱーーちゅ!!」
◇◇◇
今回は忘れずに”ドーム”を張ってもらった。
大きくなったアストロの背中は、跨ることは出来ないが、その代わり足を伸ばしても、ごろんと寝ても余裕がある。
ドームで風の影響も受けないし、Gも掛からない。
もちろん真っ平らじゃないから、気をつけないとドームの端に転がるが。
さっきまで家のあった場所が、あんなに遠い。
すっごいなぁ。
しかし、ふわふわさらさらの毛並みが気持ちいい。
うつ伏せになってスリスリと頬を寄せる。
はぁ……こりゃ最高だね。
『気に入った?』
そりゃもう、お気に入りですよ。
空の旅が出来て、ふわふわのさらさらで気持ちいい。
『ふふっ、ぼくの背中はラナ専用だよ』
むふふふ♪ ありがと!
『ユグドラシルをぐるっと回って行くよー』
ユグドラシルを右に見て、ぐるりと回り込む。
空を見ても枝も葉っぱも見えない。
本当に不思議な木だなぁ。
……木なのか?
まぁ世界樹って言う位だもんな。
どこかの国に生えてるんだろうか?
『ユグドラシルを中心にして、神樹の森を囲むように、いくつかの国があるんだよ。森の恵みはどの国も潤すんだ』
へぇぇぇ!
神様が言ってた通り平和な世界なんだねー。
凄いや。
『……神様のお言葉を聞いたラナの方が凄いよ』
oh......
こりゃ1本取られたわ。




