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十二 チーム結成 Case1最終話

「最後なんて言った?」


 クロマの話を黙って聞いていたロシュ。最後、アリスとクロマが交わした聞き捨てならない会話に、即座に反応する。


「だから、アリスは今後俺のところで詐欺師になるって……」


 ロシュの聞き間違いでないようだ。

 それと同時に、ロシュは顔を青くする。


 アリスの様子を窺うと、きょとんとしている。ロシュの反応の意味が分からないといった様子だ。


「で、殿下……」


「何?」


「こんな事聞くのは失礼ですが、詐欺師がどういうものかはご存じですよね……?」


「勿論」


「法に触れる存在というのは……」


「分かってるよ?」


 ロシュは頭痛を起こした時のように、額を抑えて俯く。実際に頭痛を起こしているのかもしれない。


「まあ諦めなよ、近衛騎士隊長サマ」


 クロマがロシュの肩に手を置く。

 このような時に限ってサマを付けるのが、ロシュの神経を逆なでした。

 

その時、ロシュはあることに気が付く。もしアリスがこの場に留まるのだとしたら、ロシュがここに居る理由は一つしかない。


「なあ、若しかして俺を説得するためにここに?」


 ロシュが聞くと、クロマは笑みを浮かべた。


「よくわかったな。俺とあんたの入れ替わりを戻さなかったのも、その辺が理由だ。最も、戻さない方がいいって言ったのは王女サマなんだけどな」


 クロマの横に立つアリス。


「この話を打ち明けるまで、元の身体に戻さないほうがいいって言ったんだ。ロシュが元の身体に戻ったら、王宮での自由が復活しちゃうでしょ? もし無理矢理王宮に戻られて、これまでの事全部をバラされでもしたら、私も元の場所に戻されちゃうからね」


 十年程前のあの時のようにという言葉は、アリスは声には出さなかった。

 そして少し申し訳なさそうな表情になる。


「正直酷い仕打ちだとは思う。ごめんなさい。でも国への忠誠心が篤い貴方に、聞く耳位は持って欲しいと思ったんだ」


「そんな……!」


 ロシュは思わずソファから立ち上がった。


 そしてその後に続く言葉を口にするのを、思わず躊躇する。


 アリスは、つまりロシュがアリスの心情よりも国を優先する可能性を考えていたのだ。


 そんなことはしない。もしアリスが本当に王女の座を捨て、あろうことか詐欺師になる道を選んだとして、それが本心だと確信できれば、アリスがしたいことを一番に考えてあげると、ロシュは思ったのだ。


 しかしこのような状況でなければ、アリスの言う通り自分は聞く耳を持たなかったかもしれない、とも思った。アリスが王女を辞めたがっているということにすら、ロシュは気づくことができなかったのだ。


 きちんと話してくれれば、王宮に引き戻すようなことはしない。自分が忠誠を誓っているのは、国よりもむしろアリスに対してなのだからという言葉を、ロシュは飲み込まざるを得なかった。


 飲み込んだ言葉の代わりに、何を言うべきか悩むロシュ。


「た、確かに、こんな状況にでもならなければ、私は殿下が王女を辞めたがっているという事ですら、冗談と受け取っていたかもしれません」


 二人のやり取りを眺めていたクロマは、真剣そうな表情になっていた。


「とりあえず、これで王女サマと大臣の娘の意思はお前に伝わった。だから今度は、お前がどうするか決める番だ。全てを知った上で、王女サマが元の場所に戻るべきだと考えるなら、そうしようとするお前を、二人は止めることはしないだろうさ」


 そこまで言って、一呼吸置く。そしてニヤリと口角をあげた。


「やりたいと思ったことをやれ、って奴だな」


 ロシュは俯く。そして少しの間、黙り込んだ。


 クロマとアリスは、それを黙って見守った。


 そしてロシュは、大きく息を吐きだす。決意を固めた表情を、クロマとアリスに向けた。


「俺も王宮を出る。そして……」


 ロシュの視線が、アリス一人の許に移る。


「これからも、殿下の傍に居させて欲しい」


 その答えに、アリスは少し意外そうな表情になった。しかしすぐに気を取り直し、ほほ笑む。


「勿論、オーケーだよ」


 視線が交錯し、一瞬二人だけの時間が流れた。


 が、しかし、


「よし!」


 このクロマの一言で、それはすぐに終わってしまう。


「それじゃあこれから、三人でチームってわけだ。詐欺の先輩として厳しくいくから、宜しく頼むぞ」


 場の空気を一変させるほど、クロマの声色は明るく弾んでいた。


 そのテンションに対し、ロシュは出遅れてしまう。


 一方のアリスは、


「了解!」


 と、同じく楽し気な返答を返した。


「それじゃあ、詐欺の成功とチーム結成を記念して、飲むぞ! ロシュ!」


「はぁ、はい?」


 テンションについていけず、素っ頓狂な返事になるロシュ。


 そんなロシュの肩に、クロマが手を置いた。


「酒場の店主に飲み物を色々予約してある。受け取ってきてくれ」


 その内容は、所謂雑用だ。


 チーム結成と言っておきながら即座に雑用を頼むのかと、ロシュは怪訝な表情になる。


「何で俺が行くんだよ」


「まーまー、大好きな王女サマの為だと思って」


「誰が大好きだ!」


「ほらほら、行った行った」


 クロマはロシュの批判を一切受け付けず、強引に彼を部屋の外へと押し出した。

 不満げな顔をしつつも、ロシュは階段へと向かっていく。


 アジト内部には、アリスとクロマの二人だけになった。

 どかり、と音がしそうな勢いで、クロマはソファに座る。


「……詐欺とは関係ないことまで協力してくれて、ありがとう」


 アリスが言った。

 クロマはアリスを一瞥するが、特に気に留めていない様子。


「ま、全部騙しを成功させるためにしたことだ。結果的にこうなったのは、ただの成り行きって奴」


 いかにもクロマらしい返答に、アリスは思わず笑った。

 しかし直後に何かを思い出し、少し不安そうな表情になる。


「成り行きといえば、結局ロシュもここに残ることになっちゃったけど、プレナは大丈夫かな? 事情を知ってる人が王宮に居なくなっちゃうけど……」


「ああ、それについては大丈夫だと思うぞ」


 やけにあっさりとしたクロマの返答。


「どうしてそう思うの?」


「そりゃあ、あいつなら抜かりなくあんたの記憶を覗けるようにしているだろうし……。何より、あの騎士クンがあんたと一緒に来るのを、なんとなく予想していただろうし」


「予想してた?」


「ああ、実はな……」


 それはグレハの魔術部屋にて、プレナとクロマが会話をした時のこと。


 ロシュの身体のクロマのことを思わず信用してしまう、と言ったプレナに、クロマはその理由を尋ねた。


 その時彼女はこう答えたのだ。


「一番信頼している親友の想い人だから」


 と。


 全てが終わった今、クロマはプレナがアリスとの入れ替わりを提案した理由の中に、もう一つ別の理由があったかもしれないと考えていた。つまり、アリスが王宮を出て、それにロシュがついていった場合、身分を気にせず恋仲になれるということを考えていたのでは、と。


 その事は、クロマは口には出さなかった。しかしもしこれが真実なら、プレナはとんだキューピッドであると、内心で苦笑する。


 クロマから話を聞いたアリスは、顔を赤くしていた。


「ま、まさか気づかれてたとは……」


 小声で口走る。


 それを揶揄うように、クロマは笑った。


「そういえばさ、あんたが大臣の前で言ったアドリブ」


 クロマの発言の意味を理解したアリス。わかりやすく図星を突かれた表情になる。


「あれは以前あんたが騎士クンに言われたものだったんじゃないか? 全く同じセリフを、直後にあの騎士クンに言われたよ。意識もしていない相手の言葉を、そんなに大事にしてるとは思えない」


 アリスは目を丸くするが、すぐに観念したように息を吐いた。


「その通りだよ。なんだ、皆にバレバレだったんだね」


 曰く、その言葉は幼少期、王宮からの脱出作戦をロシュに打ち明けた際に言われたのだという。その言葉が、決行を躊躇していたアリスの背中を押したのだ。


「まあ、ロシュの記憶が見れるクロマが知らないってことは、あいつは完全に忘れちゃってたみたいだけどね」


「なるほどなあ」


 つまり、ロシュがクロマに同じ言葉を言ったのは、意識したのではなく、幼少期から変わらぬ信念が偶然同じ言葉を紡いだのだろう。


 アリスは感慨深そうに、天井を仰いだ。


「まさか、今も同じこと言ってたとはね。昔からそういうとこは絶対に変わらなかったんだよ」


「そういうとこ、なんだな」


「う、うん……」


 赤くなった頬を掻くアリス。


 少しして、何かを思い出した様子になった。


「そういえば、二人の入れ替わりはどうやって元に戻すの? 私はてっきり、ロシュは王宮に戻るものだと思ってたんだけど……。また王宮に忍び込む?」


 その質問をされるまで、クロマは自分がロシュと入れ替わっていることを忘れていたようだ。ああ、というような、少し気の抜けた声を出す。


「確かにそうだな……。でもまあ、俺は別にこの身体で困ることないし、なんなら元に戻せって煩い騎士クンを眺めてるのも面白そうだから、暫くこのままでもいいかなあ」


「適当だなあ」


「俺様は詐欺に関係ないとこは適当な人間なんだ」


 恰好がついているわけでもない言葉を、クロマは最大限に格好つけて言った。


 その様を見て、アリスは思わず笑ってしまう。


 アリスが笑うのと同時に、アジトの扉が勢いよく開かれた。

 扉の前には、憮然とした様子のロシュ。


「おいクロマ! 頼んだ飲み物の量が三樽ってどういうことだよ。俺一人じゃ運べないぞ」


 ロシュを見て、クロマはいつもの意地悪そうな笑みを浮かべた。


「近衛騎士サマならそれくらい頑張ればできるだろ。俺の身体も一応鍛えてあるんだし」


「いいから手伝えよ!」


 毎度良い怒り方をするものである。

 ロシュの様子をしばし楽しんだ後、クロマは腰をあげた。


 がやがやと部屋を出ていくクロマとロシュを、アリスは微笑みながら見守る。


 それは彼女にとって、漸くやりたい事を成し遂げた実感を得られる瞬間だった。


Case 1 完

 ここまでで一旦おしまいです。読了ありがとうございました。

 新しい話はまた時間が取れたら書こうと考えています。その時は是非また読んでいただけたら幸いです。

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