Ex2.とある男の与太話
……なんなんだ、アレは?美化するにも程があるだろうに。
ん?……ああ、例えば『原初の神』だ。奴はどうしようもないクズだった。
神話では『魔王』のせいにされていたが、実際は奴が平和に暮らしていた人間達にありとあらゆる罪を教え込んだ張本人だ。
互いに手を取っていた者達を殺し合わせ、愛し合っていた者達を憎しみ合わせ、集団に内乱を起こし、搾取の味を覚えさせ、勤勉さを嘲笑った。
信じられんかもしれんが、遥か大昔は本当に仲良く平和に暮らしていたのだ、人間達は。
あの神さえいなければ……まあ、それはひとまず置いておくとして。
現在伝わっている神話とやらは、どうやらだいぶ時系列がおかしくなっているようだ。
『原初の神』が一通りの存在……というより原初の魔法を創ったあたりは事実だな。
それらの魔法を手に入れたのが我々だ。
我が仕える『偉大なる竜』、生命を司る竜の王、グラン。
『災厄の王』、災厄を司る人の形をした災害、クレスクント。
『魔術の王』、魔法と魔術を司る魔女、リズ。
『緋色の王』、初代カルブンクルス、アルマ。
そして『冥府の王』たる我だ。
さて、『原初の神』が人間達に悪徳を吹き込んだ後に、『災厄の王』の『大試練』……成長し侵食する迷宮、『グロウメイズ大迷宮』が生み出された。
そう、グロウメイズ王国の由来になる『試練』だ。丁度今王都があるあたりは昔、魔物が跋扈する迷宮だったのだぞ?昼夜問わず湧き続ける魔物に、頻繁に起こる内輪揉め。それはもう追い詰められていたものだ。
で、迷宮を初めて攻略したのが『緋色の王』だ。奴は試練を終えて人の身を超えた。
その陰には異界から来た……神話で言うところの『魔王』がいた。
奴は『原初の神』によってこの世界に呼ばれた異界の存在だ。『比類なき魔力』を願い、世界を超えた力によってその身にそれを成すだけの魔法を得ていた。
そして、『魔王』と『緋色の王』と我で、世界を玩具のように弄ぶ『原初の神』を殺したわけだ。
『魔王』が『原初の神』の力を打ち砕いて奪い、我がその肉体に『死』を与え、『緋色の王』がその魂を封印した。
奴の……『魔王』の魔法は恐らく、この世で一番厄介な魔法だ。言うなれば、『理不尽』こそが奴の魔法だ。
不可能であればある程道理を無視し、可能であれば完膚無きままに踏み躙る。強者に敗北と絶望を叩き込み、弱者には逆転の余地を与えない。
……我ですら少なからず代償を払っている魔法を、何一つ代償を支払わずに利点だけを行使する、まさにこの世の『理不尽』と呼べる存在だよ、奴は。
で、『原初の神』を殺し、自らが神に成り変わる為だけに『緋色の王』を創り出し、そして『原初の神』を殺してのけて『偉大なる神』と呼ばれる存在となった……が、そうだな。奴こそまさに『魔王』と言って良い。くはははは、この世は既に『魔王』の手に落ちている、というわけだな。
ん?ああそうだ。『緋色の王』というのは奴が創り出した……というより、ただの人間に魔法を与えて創った存在だ。王族と違ってカルブンクルス家の『継承の儀』は未だにやっているだろう?アレは魔法と魂を受け継がせ、通常は摩耗していくはずの魂を逆に肥大化させる儀式魔術だ。
奴は『原初の神』と違って基本的に人類全体にはほぼ不干渉でな。詳しくは不明だが、奴が自らの欲望の為に平和かつ発展した国が必要らしく、カルブンクルス家もその為に創られた存在に過ぎんそうだ。
……今は何をやっているのだろうな。時折現れては一方的に命令をして何処かへ行ってしまうからなぁ。
そんな顔をされても我にもよくわからんのだ。奴に魔法を使われると我でも認識できんからな。
世界を思うがままに出来るおぞましい魔法を持ちながら、何万年もの年月をかけてまで成し遂げたい願いが何か……気になるところではあるがな。