いつヤられてもおかしくない俺
俺は、いつかヤられるかもしれない。
「ヤ」に当てはまるのはきっと、凶悪な漢字ばかりだろう。
高1の時に、てめぇ調子のってんじゃねぇか、あぁん!?と、絡んできた当時の学校の番長(高3)を病院送りにした。
高2の時に、てめぇを倒してこの高校は俺が牛耳るんだよ!!とか言ってきた当時の3年生グループと乱闘の末、最後には俺が立っていた。
高3になり、1年の時と2年の時の武勇伝が広がり、地元では逆らう奴がいなくなった。
気付いたら、町一番の不良高校の番長は、俺だった。
「い、いい、岩瀬さん!?おはようございます!!」
「り、龍の兄貴!?お、おはようございます!!」
「……おー。」
これが俺の朝の風景。俺より確実に、見た目近寄りたくないやつらに挨拶される。なんだよ、なんで二人共髪が黒じゃねーんだよ。ここは日本だぞ。
ガラガラッ、
「……ちぃーっす」
教室に入ると
「「「おはようございます!!龍さん!!」」」
ヤのつく花道ができる。
「…席戻れ。全員だ…」
小さめな声で言うと
ガタガタ!ガタンガタン!!
3秒で全員、綺麗に等間隔で席に着く。
はあ…と、自然とため息が出る。毎日の事だ。
小さい頃から、少し体格に恵まれ、高3の今じゃ俺は182cmある。番長病院送り事件をきっかけに、…いや、この高校に入った時点で、俺の運命の歯車はおかしくなった。
今まで全く気にしなくて適当に伸びていた髪型が、短髪、ソフトモヒカンにするようになった。
中学校まで親友だった大勢の友達が急に疎遠になった。
親の態度が一変した。息子の俺の顔色を見て、毎日怯えながら生活するようになった。
最後に、町の住人の八割以上が、俺を見てびびる。もしくは、逃げるようになった。
どれもこれも非常に嘆かわしく、俺はどうすりゃいいんだ…という状況になるが、今一番困っているのは全く別の事だ。
「龍くーん!今日はどこで遊ぶー?」
そう、彼女だ。
名前は姫本由衣。
ここら辺ではかなり有名なお嬢様学校の2年生だ。
いろいろあって、まあ、俺の彼女だ。
何故そんな不良高校とお嬢様学校が共存出来ているのか?何故不良高校の餌食にならないのか?
理由は簡単だ。
彼女は
中学生だ
「龍くん、手ーつないでー。つーなーごー。」
「あのな…わかったから、落ち着いてくれ…」
由衣は非常に元気で、底抜けに明るい。身長150cmと小さく、見ていると不思議な気分になる大きい目。腰には届いていないが、サラサラした長い髪。そして柔らかい手。
あれ?いつの間に手ぇ握った?
「龍く〜ん♪ん〜♪」
と腕を抱いて頬ずりをしてくる。
いや、めっちゃ恥ずかしいんだけど…
由衣は、なんだかんだで俺が助けた事になる。
ある日の放課後、俺は自分の特等席、人通りの全くない河原で寝っころがっていた。
どこを歩いても、家に帰っても、俺は心の底から安らぐことができない。どこにいても、だ。
だけどここは違う。
ほとんど俺一人みたいなもんだし、なにより静かだ。天国だ。
そんな天国で俺はぐーすか寝ていた。
「…………よ!!」
何か聞こえたのでパチッと目が覚めた。
うるせーなこのやろー。
俺のいる反対側の河原から聞こえてきたので、体を起こし、何事かと見てみた。
「迷惑だって言ってるでしょ!」
「そうよ!大勢で恥ずかしくないの!?」
女の子二人が何か叫んでいる。二番目に叫んでいる女の子の後ろには、怖いのか一人の女の子がしがみついている。
そんな女の子に対するは野郎が、いちにーさん……6人ね。女の子旗色悪いんじゃねーの?
「いいから来いっつってんだよ!!」
リーダー核の野郎がそう言うと、残りの5人が動きだした。
「離してよ!ちょっと!!」
女の子は叫ぶ。
プチッ
「人の安眠を妨害するんじゃねぇぇぇ!!!クソ共がぁぁぁ!!!」
俺はキレた。
ビクッ!と全員がこっちを見る。すると−−−
「い、いいいい、岩瀬龍だぁぁぁ!!!」
リーダー核がものすごいスピードで逃げ出した。
「う、うわあぁぁぁ!!!」
と残りの5人も逃げ出した。
「き、きゃあぁぁぁ!!」
と女の子達も逃げ出した。
なんか涙が出てきた…
「あ、あの。」
小さい声が聞こえる
「あぁ?」
と、結構不機嫌なので投げやりに返したら、
一瞬ビクッとしながら
「た、助けていただいて、ありがとうございました。」
頭を下げられた。
確か、後ろで怯えてた子だ。
「…寝覚めが悪くなるのが嫌だっただけだ。…気持ちは嬉しいけどさっさと帰れ。」
俺はそう言い、所定の位置に戻り寝っころがって目を閉じた。
意外と睡魔はすぐに襲ってきた。寝る前に何か聞こえた気がしたが、どうでもよかった。
運命の歯車がおかしくなってから初めてかもしれなかった。……心地よい脱力感。すべてが緩みきり、溶けそうになるほど、俺は安らいでいた。
「…んぁ?」
なんとなく目が覚めた。
辺りは真っ暗で、月が綺麗な夜だったが、そんな事より。
「…うんにゃ……くー……」
目の前に、顔。女の子の。そして後頭部に柔らかい感触。…体制的に膝枕だな、うん。
「………」
ゆっくり、本当にゆっくり自分の体制を立て直し、
「…ふぅ」
脱出に成功した。
そして、
「お前は…何をやっている?」
あぐらをかき、正座している女の子にそう声をかけてみる。
「……んにゃ…ん…?……あ、…おはようございます。」
「はい、おはよう。…って違う違う。」
律儀に挨拶を返してしまった。調子が狂う。
「…何やってんの?」
一言で分かりやすく聞く。
「お礼がしたかったから、膝枕をしてみました。そしたら気持ちよさそうな顔になったので、見ていたら私も眠くなったんです。」
女の子も分かりやすく返してくれる。うん、会話のキャッチボールは100点だ。
「……ありがとう。んじゃ、俺帰るから。」
めんどくさいから俺は帰る事にした。
「待ってください!!行かないでください!!」
なんでか必死になる女の子。
「いや、なんだよ?」
一応振り返ってみた。
「足が痺れました。おぶってください。近くのバス停まででいいです。」
さぁ!と手招きする女の子。
なにが、さぁ!だ。
「おぶってくださいー!帰れないー!ここで死んじゃうのは嫌ー!」
だだをこね始める女の子。
いや、死ぬってあんたね。
「………はぁ」
女の子に近づき、半ば無理やりおんぶの体制に持っていった。
「……近くまで運ぶだけだ。帰るのは自分でどうにかして帰れ。」
そう言って自分のペースで俺は歩きだした。
星がよく見えて、とっても静かな夜だった。なんか虫の鳴き声が聞こえてえらい風流な気がするが、虫の名前なんか知らんからよくわからない。
「………」
「………」
ザッザッザ…とお互い無言で、俺のペースで歩みを進める。
「龍…さん?」
女の子が急に話しかけてくる。
「……なんだ?」
俺はぶっきらぼうに返事を返す。
「とっても、落ち着きます…」
背中にあったかい息がかかる。
「……それはよかったな。」
落ち着いた返事を返す俺。
「もうちょっと…強くギュッてしていい?」
耳元でそっと呟く女の子。
「………」
別に、どうにでもすればいい…
そう思った俺の心を感じとったのかは知らんが、抱きついてくる力が強くなった。
なんでだろう…、すごく心地よい気分になる。程よい温もりが全身をじんわりと伝っていき、和む。いや、それより安らぐ、とか癒される。の方がしっくりくる。
「…お前、不思議な奴だよ…」
「なにがー?」
呟きに反応された。
「よくわからねぇよ。……けど、なんか一緒にいたいって思っちまうよ…」
「りゅ、龍さん…そんな…私…」
もう、いいや−−−
「なぁ…よかったら、さ、俺と付き合ってみない、か?」
「…え!…うん、うん!」
この不思議で、心地よい感覚を味わうには、この女の子が必要だ。俺はそう思った。
お互い自己紹介を終えた後、(まあ名前を教えあっただけだが)
「いいの?私は全然構わないけど、私二年生だよ?」
と由衣は言った。
「かまわねえよ。大した差じゃない。」
と俺は返す。
「龍くんおとなー。」
笑顔で抱きつく力がまた強くなる。
いや、いきなり性格変わってませんか。最近の女の子は大胆だねー。
ところで、
「どこ高だ?」
聞いてみる。
「ここからだったら…表の大きい道に出て、一番近くの大きい学園だよ。」
えっへん。という感じで、自慢するように由衣は言った。
「………」
ピタッと足を止める。
ちょっと、待て…
「龍くんやっぱり大人だよー。大人。恋愛に年の差は関係ないけど、高校生のうちにそれがわかるなんて。」
年の、差?としのさ?トシノサ?
「四つ離れてるけど、私頑張って龍くんの隣を歩いていけるようになるからね。」
ぎゃあぁぁぁぁぁ………
そして今、デートの真っ最中だ。基本的にデートは隣の大きい街だ。地元でデートなんかしたら電光石火で情報が伝わってしまうから。
「龍くんのケータイ〜♪なんか面白い事ないっかな〜♪」
と由衣は俺の携帯電話で遊んでいる。
別になんにもねーよ。
「あ、龍くんパフェが食べたい。パフェー、パへパへー。」
思い出したように、俺の顔を見て間髪入れずにそう言った。
話が急速すぎてなかなかついていけない…。
「お金私が出すから!ね?」
由衣の家、姫本家はめっちゃ金持ちだ。(と思う。)この間だって車で迎えにきたのは親じゃない。じぃだ。言っておくが祖父じゃない。じぃだ。
「いいよ、俺が出すから。」
そう言って頭をポンポンと撫でる。
へへっ、と楽しそうに笑う由衣。…やっぱり癒されるなぁ…。
「あ、あれ入りたい!」
今度はゲーセンを指差した由衣。
わーい!と一人で突撃してった。
あいつ…精神年齢が素晴らしく低い。うん間違いない。
しょうがない…と由衣の後を追おうとしたが、
ゴンッ!!という音と、頭に鈍い痛みと衝撃が襲った。
声を上げる暇すらなかった。
「……んー。」
…気絶していたらしい。…海が見える。港の倉庫みたいなとこにいるみたいだ。もちろん動けない。全く。
「よぉ、龍ちゃん。やっと今日で終わりになるぜ。」
茶髪でピアスをした……チャラ男が言った。
何がだろう。
「あの、伝説の不良を俺達が終わらせる……。た、たまんねー!!」
あー…こいつは、いや正確にはこいつら、…15人くらいかな。多分全員俺と同じ高校なんだろうな。俺を倒して高校の覇権を取ろうってことね。
「いーぜ別に。覇権なんか一つでも二つでもくれてやるよ。だからはな−」
バキッッッ!!と派手で嫌な音が響く。
痛い、左頬が痛い。
「気分をぶち壊してんじゃねぇよお!!お前を屈服させて初めていい気分になれんだからよお!!」
チャラ男の息が荒い。なんか気持ち悪い。
「俺がたった一声、たった一声かけただけでだ!!人数は集まるんだよ!!」
どんどん興奮していくチャラ男。
「最強のお前を倒してやりたい奴らってのは、ちいせぇ学校でもこれだけいんだよ!わかるか!?」
一気に喋り、また息が荒くなった。
「俺が最強?そう思ってんならお前らの勘違いだな。」
あぁ?
とチャラ男は返すが俺は続ける。
「俺が最強だと思ってんなら、お前らの勘違いだ。むしろ倒されたほうがゆっくりできるわ。」
ほとんど同じ事言ってやった。
効果の程は−−
バキィッッッ!!
あまり良くなかった。左頬がまた痛い。
一時間近く、頬を、主に腹の辺りを、ヤられ続けた。
「…満足、したん、なら…もう終わって、くれよ…」
どうにか出た声も、
ボグゥッッッ!!
腹に鈍く突き刺さるような痛み。足だ。
「!?っ!!!」
「余裕だなぁ!!お前は!いつもいつも!!」
ドスッ!と腹に衝撃、
「冷静で!!」
ガッ!!と顔の右側を殴られ、
「人を見下しやがって!!」
ベギッッ!と左側の顔も殴られた。
「……今後善処する。……言いたい事は終わったか?」
言ってる事はめちゃくちゃだけど。
そしてチャラ男は、なにやら釘がたくさんついた木を手にし、
ぶぅん!!と俺の頭目掛けて振ってきた。
俺は頭を瞬間的に横に振るが、
バギャァァ!!!
右肩にめり込んだあと、折れる木材。
「!っつ!!う、…あ、」
つい声が出る程の痛み。
これは、死ぬぞ。
「「「兄貴ぃぃぃ!!!」」」
「「「岩瀬さんんん!!!」」」
ドガンッ!!
と派手に入り口が開く。
ゾロゾロゾロゾロ……
いやいや、クラスメート全員が来るってどういうことよ。
「30対15、…どうする主犯?」
チャラ男に視線を向けながら言うと、
バアァァァンッ!!
と右側の壁と左側の壁がぶっ壊れる。
え?なんで?
「「岩瀬先輩ぃぃぃ!!!」」
右、二年生。
左、一年生。
の集団。
ということは……
ゾロゾロ…ゾロゾロ…ゾロゾロ…
入り口の三年生が増え続ける。
えーと、一学年200人くらいだから、600対15くらいだ。
「……一人辺り40人以上倒せば最後にお前が立ってるよ。それと、ゴメンナサイ。」
謝っておく。
いや俺だってこうなると思わなかったし。
600人全員制服だ。
そして15人は私服。
仲間割れ防止としては完璧だ。みんな準備がいいなー。
入り口の三年生グループの人垣が割れ、
「…こほん、皆さん。捕まえる人達はわかってますね?………行ってください!!」
いやお前が仕切ってんのね、由衣。
どるぁぁぁ、とか
ぶっ殺っっっす、とか
くそったれがぁぁぁ、とか
汚い言葉のオンパレードで突っ込む600人のうちの100人くらい。
すごい画だ。
やっぱり完全にビビっている15人。
しょうがねーな……
「てめーら!!できるだけ無傷でふんじばれ!!」
と一喝。
攻めてる奴ら全員が、一瞬ピタッ!と止まる。
「「「へい!!!」」」
と返事と共にまた動き出す。すごいチームワークだ。
動くんじゃねー、やら
手間かけさせんなー、やら
バキッ!、やら音が聞こえる。
ん?一人殴られてないかおい。
20秒くらいで15人は捕まった。最後にものを言うのは人数か。と、実感する。
「ふぅ……やっと落ち着いた。」
俺は解放されてようやく一息つく。あー疲れた。
「兄貴ぃ!!こいつらどうしますか!?」
元気いっぱいの体格がよく口にピアスしてる金髪君が言う。いや、怖い。何が怖いってお前が恐い。
「浮き輪持たせてす巻きにして堤防に繋いで海にポイしとけ。」
一息で俺がそう言うと、
了解しやした!!と、三年生グループが15人を持ってった。
いやあぁぁぁ……と悲鳴が聞こえたが、まあ死ぬよりはよっぽどマシだ。我慢しとけ阿呆共。
残り400人ちょっと
「一年と二年、本当にありがとな。助かった。」
一年生と二年生に頭を軽く下げる。
「「お、お疲れ様でした!!!」」
あっという間に残り30人ちょっと。俺のクラスメートが残った。
「みんな、助かったよ。本当に。」
軽くお礼を言うと、
「あ、兄貴?その、ですね…そちらの女の子は?」
あ?ん?あー……
30人分の視線が俺の腕に、尻尾を振る犬みたいに、めっちゃ喜んでしがみついてる由衣に集まる。
由衣、あの、腕が超痛い。てか体全部痛い。
「いやー、その子が全部教えてくれたからここまで来れたんすよねー。んで、お前は兄貴のなんだ?って聞いたんですけど…話にならないんで、兄貴の口から聞かせてもらえたら嬉しいなぁ…」
まずい、返答をミスったらえらい目にあう。ヤられてしまう。
「あー…妹−−」
「だーかーら!姫本由衣!!龍くんの彼女だって!!」
!
「あ、兄貴?妹って聞こえましたけど名字が……」
「…のように可愛がっている親戚−−」
「妹じゃなくて彼女!!龍くんから告白されたんだから!!」
!!!
………
視線が、超痛い。今の体くらい超痛い。
由衣…後で……キスしてやるから黙っとけ…
き、キス!いいの!?約束だよ!約束!
極小サイズの声で会話する。
「腹違いの…俺を彼氏のように慕っている、妹だ。探し回って、最近見つかって、一緒に住もうって…告白、したんだ。」
全部の辻褄を合わせ、壮大な嘘をついた。
「あ、アニギぃぃ!カッコよずぎだぜ…」
30人分の大号泣。全、不良が泣いた。阿呆だ。
「複雑な、ひぐっ、家庭をお持ちで、えぐっ、」
すいません、普通のリーマンと普通の主婦の家庭です。
「ごめんな……今、妹とデート…ごっこ、してるんだ。だから…」
「すいませんしたっ!楽しんでくだせえっ!!」
一人がそう言って帰ると、
三秒で俺と由衣だけになる。早い、早いよみんな。すごいよ。
…てか危なかった…。
ロ○コン番長、もしくはシ○コン番長になるところだった…。
「……っ!」
駄目だ立てねーや。力入れたら痛い。
「龍くん!姫本家の医療スタッフと迎えも呼ぶから安心してね!」
目をキラキラさせて親指をぐっと立てる由衣。
お前ん家はどーいう家だ。
まあ…そんな事より、色々聞きたい。
「…なんでここが?」
「SPの人たちが教えてくれたよー。私に連絡が入ってきたのー。」
由衣自身ピンチじゃなかったから、直接は関わってこなかったらしい。
「あんなに増援が来たのは?」
「あ、はい。龍くんの携帯。ごめんね、返す。」
そーいえば預けっぱなしだったな。
「龍くん、番長さんだったんだね。」目を見ながら話してくる由衣。
「龍くんが三年間で何があったかみんな教えてくれたよ。」
そうか…、じゃあ。
「…由衣、全部話してあげるからさ…。ここ座って。」
う、うん。と返事の後に、よいしょ、と言って俺の膝の間に座り、背中を軽く俺に預ける由衣。
俺は後ろから軽く、そして本当に優しく、抱きしめる。……なんか頭がボーっとする…。
「龍…くん?」
不意に声に引き戻される。
「あ…ごめんごめん。…一年の頃から順に話していけばいいか?」
そう聞くと
「うん、その頃の番長さん病院に送ったって聞いたよ?」
と答える。
「それはだな………」
全部、話した。
俺が一年の頃の番長は、少しぶつかってしまった俺にムカついて、ブレーキが壊れてた事に気づかないまま、自分のバイクで下り坂を、俺一直線に突っ込んできた。
そのままガードレールにぶつかり、上手い具合に体だけ下の海に落ちた。
高さはそんなになかったが、深さが結構あり、泳げなかったらしい番長はそのまま溺れて、病院に行った。
それだけの話。
二年の頃、俺はグランドに呼び出された。番長候補の、名のある三年生達が20人ちょっと。集まっていた。
しかし、敵の敵は味方だったわけではなく、内乱が目の前で勃発。
最後に立っていたヘロヘロになった一人を、俺は一発殴って逃げた。
それだけの話。
三年になり、噂は一気に広まった。バイクにまたがった前番長を海に投げ落とし、襲い来る先輩グループを全て返り討ちにした。
と、曲がった噂が伝わり………
「………今の状態だ。」
「………」
由衣は俺の話を、何も言わずにきいていた。
「俺は…怖いんだ…。いつ本当の事がバレて、今の奴らみたいなのが増えるのが…。」
独り言のように語り、
「そん時は、全員にヤられちまいそうになると思う。そうでなくても、いつバレるか、とか考えるだけでも、精神的に…。」
俺はヤられそうなんだよ。
最後は言わずに、押し殺した。由衣がずっとこっちを、泣きそうな目で見てたから。
「……でもな、由衣。お前が近くに、こうして近くに居るだけで、俺は落ち着いていられる。…心を、許してるから。」
由衣の顎を、クッ、と上げ、俺は由衣に……………
他人に言われるのは嫌だけど、年下好きの趣味でも、俺は構わなかった。
姫本家のじぃの迎えが来た。
30%くらい体を由衣に預け、後は自分で立ち、歩く。
運転席には仕切りがあり、車の走る音だけしか聞こえない。
由衣は相変わらず俺にしがみついているが、特に喋ろうともしなかった。
「龍くん。」
「…どした。」
呼ばれる、俺の名前。
「私は、…私が、龍くんを癒やして、支えてあげる。年齢は離れてるけど、隣を歩けるように、頑張る。」
似たような台詞を前も聞いたが、決意する、目が違った。
「龍…くん…」
ん?と、顔を向ける。
俺はこの日、この時、この場所で、まだまだ小さな彼女に、
……ヤられた。
Fin
ノリで書き上げたちょっと実話シリーズ第3弾。作者は学生時代に色々やらかしました。反省しております。自己満足で書きたい事を書いたら、ダラダラでグダグダになってしまいました。…いつも通りあたたかい目で見守ってください。最後までお読みいただき、ありがとうございました。