婚約者が告げた真実の愛する相手とやらが半年前に出会ったばかりの腹違いの妹で、婚約破棄された悪役令嬢が、腹いせに自分も浮気してやると彼より素敵な人と召喚したら、竜王国の皇帝で番認定され溺愛された話。
「すまない、イーリス、私は真実愛する相手を見つけてしまった。君を愛することはできない」
「え?」
「……婚約を破棄させてくれ」
私はある日、婚約者の王太子殿下に、もう君と愛のない婚約を続けることはできないと婚約を破棄するように求められました。
「……どこのどなたなんですの?」
「それは君の……」
名前を聞いて驚きました。半年前にひょっこりとできたばかりの私の妹とやらだったのです。
父が、使用人に昔手を付けてできた子だと半年前に連れてきた黒髪黒目の娘でした。
そんな色彩を持つ人間などわが国にはいないので大騒ぎになったのです。
しかしどうも遥か東に住む人間にはこの色彩を持つものがいて、この子は先祖返りだということで説明はされました。母親は茶色の髪と瞳をしていて、そしてこの子は父が女に与えた紋章入りの指輪も持っていたそうです。決定的なのは、我が家にしか伝わらない魔法を使えたことでした。
……母は倒れ、私は決まったばかりの婚約が破棄されるのではないかとおびえていましたが、そんなこともなく、なんとか離れで別々で住む、お互い干渉しないということでなんとか生活していたのです。
「……リーファさんが真実の相手ですって?」
なんとも言えない間抜けな話でした。知らないうちに腹違いの妹に婚約者をとられ、挙句の果てに破棄ををされるなんて……。
「そうだ、リーファを愛してしまったんだ!」
悪夢でした……。母が倒れた原因であり、ちょうど私が母のおなかにいたころにできた半年下のみの妹に、幼馴染の婚約者をとられるなんて……。そういえば母の見舞いに殿下が来てくれていたことがありましたが。
「すまない」
「……いやですわ!」
私が宣言しても、でも君のことは愛せないと王太子殿下がいい、平行線になりました。
……私はこの時かなり自棄になっていたのです。そしてわが家に伝わる召喚の石と本で、願う相手を呼び出すことにしたのです。
「私を召喚したのはお前か? 娘よ」
「……確かに殿下より顔がよくて、頭がよくて、背も高くて、もっともっと身分が上の方を召喚したいと願いましたが、どうして!}
「ほお、成程、ちょうどいい、私もお前に出会いたいと思っていたのだよわが番よ!」
私が陣を描いて召喚した相手は、黒髪黒目、見たことがない衣装を着た容姿端麗な青年でした。
年は20歳位、彼はにこりと笑い、私に手を差し出したのです。
「番よ、お前は私の運命の相手だ! あの偽の番とやらと違い本当の相手、お前と会いたいと思った瞬間、呼び出されるとはこれは僥倖!」
私は自棄になりすぎていたようですわ。こんなわけのわからない相手を呼び出してしまうなんて。
「番なんて知りませんし、間違いですわ!」
「間違いはない、お前は私の番、世界で一番愛する者、そうだな、魂取り換えの呪術でお前の魂が入れ替えられたのを知ったのがつい最近でな、悪かった。迎えにくるつもりだったのだが……」
黒い目を悲しみに染めて、青年が言うので、私はどこのどういう人物か? というのを聞くことにしたのです。勝手に呼び出した責任もありますし……。
「私は竜王国の皇帝で、リアンという。そなたのいるここはもしかして魔法大国イーデンか?」
「ええそうですけど」
「そうかあの偽番の女が逃げ出したのがそこだったがやはりな……」
しかし屋根裏部屋の汚いソファーで座る容姿端麗な青年、似合わない光景です。
だがしかし、召喚を誰にも悟られずするにはここしかなかったのですわ。
「そなたはイーリスという名前なのだな」
「ええ」
「代々我が国の皇帝の番はな、生まれた瞬間にわかるのだ。惹かれあうというか、そして私が三歳のころ、運命の相手と認定したのがリーファという女だ」
「リーファ、我が家にもいますが」
「その女だ」
どうも彼の話を聞いてみると、偽の番とやらだとわかったのがごく最近で、魂取り換えの秘術で魂をどこの誰とも知れぬものと取り換えらえていたのがわかったとか。
どうしてそんなことを? と聞くと、番と添い遂げた皇帝は国を富み栄えさせることを約束されているので、それを妨害したい人間がしたのだと彼は答えた。
お茶を優雅に飲んでますが、紅茶が似合いませんわ……。
「そして取り換えられた相手というのがイーリス、お前だ」
「え?」
「この国にいる十七の娘、高い地位を持つ貴族というのがわかったのだが、それを調べ上げたとたん、リーファめ逃げ出したのだ」
しかしリーファさんが番じゃなかったとしても彼女も被害者というか、私のもともとの体にいたのが彼女なら、何か気の毒というか……。
「……あの娘、取り換えられたということに気が付いていて黙っていたのだ。地位が高い男と婚姻できるのならだれでもいいといったのだ。許しがたい!」
しかし、お前はこの国の人間ではないし、魂だけ違うんですよと言われても……私はやはり気の毒だなと思ってしまいました。
「気の毒だというがな、あいつは、わが国の秘宝を盗み出し換金し、逃げ出す旅費にするような女なのだ!」
あ、それはしそうな人だなとは思いましたわ……。だって我が家の調度品をなにかじっと見ていて、彼女が来てからちょくちょく物がなくなってましたもの。
でもねえうーん。
「わが番よ、私とともに国へと帰ろう!」
「いえ、竜王国とやらがどんなところかもしれませんし、リーファさんも被害者ですし……」
突然来いといわれてもねえ、東の東の果てとかいう、竜が守護する国とやらと言われましても……。
私が渋っていると、そうだな、ならあの女をなんとかすれば私の願いをかなえてくれるか? ときました。
うーん、話を聞いたらどうも本当の妹じゃないみたいですし、なんとかしてくれるなら……と言ってしまったんですわ。
だってこのリーファさん、洗脳の呪術とやらを得意とすると聞いて、妹と騙っているといわれたら、同情もとびましたわよ!
なので、私はこのリアンの策にのることにしたのですわ。
「リーファよ、久しぶりだな!」
「リ、リ、リアン様!」
いやあすごく目を丸くして驚いているリーファさんと、そして中庭でイチャイチャしている我が婚約者……。リアンの登場にリーファさんが後ろにじりじりと下がり逃げる準備まではじめましたわ。
どれだけ恐れられてるのですか!
「わが国の秘宝は買い戻したが、お前の罪は重いぞ、そうだな、その体はわが愛しいイーリスのものだ、その魂をいためつけてやろうか?」
「な、なにをいうんだ突然現れて君は!」
あ、殿下がリーファさんを後ろにかばいましたわ。お優しい方ではあるんです……そういうところが好きだったのですけど。
「ほお、こんな小さい男が好みなのか? イーリスは」
「……あなたよりは性格は悪くはないとは思いますわリアン」
「ほお言うな」
実は屋根裏に泊めて数日話しましたが、傲岸不遜唯我独尊な人で、性格以外は殿下より上でしたが、どうも性格が……まあ悪い人ではなさそうですけど。
にやりと笑って殿下を見る姿は悪役にしか見えませんわリアン。
「リーファを傷つけようとするなら僕が相手だ!」
「わが国の秘宝を盗み出した女を処罰するだけだが」
「お許しくださいリアン様! 番ではないのはわかっていましたが、でも魂だけ取り換えられたとかいわれても、どうしようもできなかったのです! 私だって被害者です!」
「……」
「お姉さま、お姉さま、助けてください!」
「いえ、お姉さまではないですし、妹でもないです」
きっぱりと言い切ると、うっと詰まるリーファさん。しかし、どうして妹と言い張って我が家にきたのでしょうか? 魂だけでもやはり元の自分が懐かしくなったとかでしょうか?
「どうして私の妹を騙りましたの?」
「ああ、たぶんこいつのことだ、機会を見てお前と魂を入れ替えて、元の公爵令嬢とやらに戻ろうとしたのだろうな、それもできなかったようだが」
「ど、どうしてそれを!」
いや、でもそれをされたら私はどうなるのです? ちらっとリアンを見ると「そうだなあ、たぶん、お前の魂が消えて、リーファのみとなるなあ」とにこっと笑って言うのです。
「どうしてそんなことに!」
私たちの話を目を丸くして殿下は聞いています。それはそうです魂を取り換えとかなんとか突然言われたら固まりますわよ。
しかし、入れ替えるのならリーファさんの体に戻るのでは? と思いましたが。
「ああ、魂入れ替えを二度目をするには、膨大な呪力が必要でな、イーリスは強い魔力を持つからそれを対価にしてとんとんというところなのだ」
さらっと怖いことをいうリアン、私はリーファさんに殺されるところだったのかとがくっと肩を落としました。かわいそうとか思った自分がバカみたいですわ。
「さてどうしてやるか、魂を消してやるか永久に」
「……もういいですわ。できるのなら呪力とやらを封じて、魂入れ替えをできないようにしてくださいませ」
魂を消すという物騒なリアンの提案も賛成はできませんしね。
しかしバラが舞い散る庭園で、こんな物騒な会話をすることになるとは思いませんでしたわ。
それに殿下は相変わらずリーファさんをかばってますし、こんなところ見てたら消せとなんていせませんわよ。
「わが番よ、ではどうするのだ?」
「リーファさんの呪力とやらを封印して、私の妹とかいう偽の記憶と洗脳を解かせてくださいな」
「それだけでいいのか?」
「はい」
そうすれば寝込んでしまったお母さまと、お父様も復縁できますし、それに腹違いの妹とやらがいなくなればわが家も平和に戻りますわ。
「お姉さま、ありがとうございます!」
「……」
私が黙り込んでいると、リアンが呪文を唱えて、そして……リーファさんの体を闇が包み込み、そうすると殿下が目をぱちぱちさせて驚いたように私たちを見たのです。
「あれ、私は何を?」
「え?」
「君は誰だ? あれイーリス、隣にいる人は?」
洗脳が得意、ということは……はいそういうことでしたのね、リーファさんがじりじりと後ろに下がり走って逃げていきますわ。
「では行こうか、わが番よ」
「え?」
「わが竜王国へともに、そなたの願いはかなえてやったぞ! それにその男、真実の愛とやらに飢えているのは確かだな、洗脳にあっさりとかかったのだ。愛する女がいればあんなちゃちな呪術にかかるまいさ」
どうも……私のことを愛せないというのは本当だったらしいですわ。私は幼馴染である殿下のことを好いていましたのに。
リアンが手を差し出します。出会ったばかりの人についていくのはどうだろうと思いましたが、でもこんなところにいるよりはましかもしれませんわね。
私はさようならと殿下にお辞儀をして、リアンの手を取りました。
すると彼が何やら不思議な歌を歌うと、彼の体が大きな竜に変化して、私をのせて飛び立ったのです。
う、少し、少し早まったのかもしれませんわ。地上であんぐりと口を開けて私たちを見る殿下をあとにしながら、私はどうしたものかと思ったのでありました。
でもリアンは悪い人じゃなさそうですし、冒険してみるのもいいかもしれませんわね。
あ、逃げ出したリーファさんは、やはり秘宝を盗み出した罪は呪術を封じるだけではだめなので、警吏に捕らえるようにリアンが命じたそうです。
しかし念話というのは便利ですわね、彼の呪術で離れたところとお話ができるそうですわ。
そしてどうなったのか、殺す以外でなんとかしてとお願いはしておきましたわ。
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