猟師ではない彼のお仕事【簡単に読めます】
彼は多少の防寒着と猟銃を携え大きな身体を揺らしながら、春の芽生えを感じさせる冬の山へと一人入っていった。
彼は道なき道を藪を掻き分けて進む、そして小一時間程経つと開いた場所に出た。
今まで枝に覆われていた空がぱっと明るくなる。
「ここでいいか」
彼はそう言うと何も生えていない地面に座った。
彼は三十分程そこで煙草をふかしながら休むと、腕時計を一瞥して「そろそろか」と言って猟銃を用意した。
彼は狙っている対象物がいつどこにどのように来るのか、彼の持つ情報力と長年の勘で知っていた。
と言っても前後十分程のズレが生じるため、時間が近くなると経験豊富な彼でも緊張の色は隠せない。
彼が予想した時間から一分遅れで、北東の空に獲物の影が見え始めた。
「やっと来たな」
彼はそう言って猟銃を構える。
影が段々と近づく、すると対象物の全容が見えてきた。
そいつの体長は一メートル程、真っ白い体に黒い手のような羽を持つ鳥で、その嘴には水色の風呂敷のようなものを吊り下げていた。
彼はそいつをしっかり見据えて距離を測り、「よし!」と一言野太い声を出すと、轟音をたてて猟銃が火を吹いた。
するとそいつは上空でカクッと失墜し、嘴から風呂敷を手放すとそのまま真っすぐ地面に堕ちていった。
それを見た彼は猟銃をさっと手放し、体の全神経を水色の風呂敷のみに集中する。
風呂敷は物理の水平投射の如く彼に向かって落下している。
彼は野球でフライを捕る選手のように、対象物を見ながら前に歩を進める。
「ここは慎重にな...」
彼は自分にそう言い聞かせるように言った。
そして彼は飛んできた水色の風呂敷をキャッチした。
彼の豪儀そうな見た目には想像もできない程、そのキャッチは優しいものだった。
風呂敷が彼の腕に抱かれると、風呂敷からは赤ん坊の元気な泣き声が聴こえてきた。
彼はその風呂敷を覗き込み、中のモノに何の損傷もなく元気そうことを確認すると、そっと胸を撫で下ろした。
彼は安堵のため息をついた後、先程手放した猟銃を拾い上げる。
そして片手に風呂敷、もう一方の手に猟銃を持つと、一時間程前に来た道を引き返していった。
♤♤♤
彼はその道中、一人呟いた。
「さて、下準備は無事に終わったな。あとはコレを良い値で買ってくれる奴等がいるかどうかだ...」
彼はそう言ってほくそ笑む。
「まあそれも、俺の仕事にかかってるんだがな...」
そう呟く彼の腕の中で、赤ん坊は無邪気に笑っていたのだった。
つたない文章ですが、オチを理解してくれると嬉しいかぎりです(笑)




