妹、女神を自称する
「お兄ちゃん、お話があります!」
今日はミントがやたら強気に出てきた。いつもの事なのだがコイツがドヤ顔で思いつきを語る時ほど面倒な事はない。
「で、何を思いついたんだ?」
フフンとミントは鼻を鳴らして言う。
「お兄ちゃんは私とデートをするべきです!」
「えー……」
実のところこの前の討伐依頼で多少お金が入ってきているので使い道が思いついていないところだった。
この町はあくまで片田舎、ときどき興業に来る演劇や歌劇を除いてそういったものの来ていない時期はお金を持て余す事になる。
「確かに今は多少お金があるけど、それとデートの関係が分かんない」
「いいですか? 市場にはお金が回らないと経済が活性化しないわけです、つまりお金をつまって循環させる事は正義というわけですね!」
「本音は?」
「お兄ちゃんが最近素っ気ないのでもっとイチャラブしたいです!」
本音に正直な妹だった……
まあそれでも……
「分かった分かった、たまには『兄妹で』一緒に出かけるのも悪くないだろうな」
「そうでしょうそうでしょう!」
それに……
「お前の武器のナイフ、この前のアンデッド戦で大分痛んでるだろ? 一緒に買い換えに行くか」
ミントは露骨に嫌な顔をする。
「うへぇ……お兄ちゃん? 可愛い妹とたまの休日に出かけるのがそんな味気ないところで良いんですか?」
「装備をケチるのは命を値切るようなものだぞ? 俺は大事な妹の命だから大事にしたいなぁ……?」
「む、しょうがないですね、では明日は装備の新調でもしますか……」
渋々ながらそれを認めてお風呂に向かっていった、その日浴室から鼻歌のようなものが聞こえてきた気がしたのは気のせいだろうか?
そうして俺は貯金から予算を見積もって用意しておいた。
――翌日
「じゃあお兄ちゃん! デートに行きましょう! 少々味気ないですが……」
不満そうなところはあるが一応装備を買いそろえるということで納得してくれた。一応理解はしてくれたので俺は武具店に向かうのだった。
しかしそこでミントが俺を制止して言った。
「お兄ちゃん? 私が行きたいお店があるのでそこでそろえましょう!」
「え? いやまあいいけどさ」
そんなわけでミント希望の武具店……? と呼んでいいのだろうか? その店の外見は随分とキラキラしていた。
「なあ……ここに使える装備って売ってるの? 実用性ゼロな気がするんだけど?」
「ふっふっふ……なんとこのお店は魔法のエンチャントで実用性を持った可愛い装備を売っている全く新しいお店なのです!」
店頭に並んでいるのはごく普通のワンピースだったりドレスだったりするが、これに実用性があるとはとても思えない、しかも値段が結構にお高い店だった……
「なあ……この店で一式そろえると予算オーバーなんだが?」
桁数が一つ二つ普通の装備より高いものを眺めながら言う。
「私が貯め込んだお金から出すから大丈夫です! ここならお兄ちゃんとの良い感じも演出できます!」
所々本音が漏れ出ているミントの言葉を無視しながら鑑定スキルで品定めをしていく。
「うーん……ここで売ってるものは確かに見た目以上だけど普通の装備とスペックは変わんないなあ……同じ値段出すなら高級装備にした方が……」
「お兄ちゃん! ロマンというものを考えてください! 私の気持ちの問題です! 大体スペックなんてバフで補正がいくらでも効くでしょう? だったら見た目で気分がよくなれる方が大事じゃないですか?」
そうか? そうなのかなあ?
「ほらお兄ちゃん! この赤いドレスとかどうですか? 可愛くないですか?」
はいはい、かんて……
「お兄ちゃん! そんなスペック至上主義みたいなことはやめてください! もっと見た目の良さについて触れてください!」
そう言って俺の鑑定をさえぎるミント、どうやらスペックは全く気にしないようだ。
着ている服は全身を覆う赤と白の混じり合ったドレス、一応申し訳ばかりのように身体を薄く布地が覆っている。おそらく魔力入りの繊維なのだろう。
試着をしているミントを眺めてみる、身体の流れを強調した服装だ。
「ちょっと……刺激が強いかな……?」
「なるほど、お兄ちゃんには少々過激でしたね、ちょっと待ってくださいね」
そう言って試着室の奥に引っ込む、どうやらこれに付き合う必要があるらしい。
その後も次々と色や姿の変わった服を見せてくるのだが、お世辞にも防御力があるようには見えない服だった。脱ぎ終わった物を店員さんが戻す時にこっそり鑑定スキルを使ってみたが、たしかに薄い生地に厚い皮装備並みの防御力があるようだ、高給なのも納得だな。
そうして一通りのファッションショーが終わった後で水色のワンピースを買って、靴はさすがにヒールというわけにはいかず普通のものになった。スペックこそ高いものの見た目には不満そうだった。
武器屋へいきながらミントに聞いてみる。
「なあ……今日の買い物は満足いったか?」
「ええ、お兄ちゃんからの『似合ってる』という言葉も頂きましたし、それなりに可愛い装備なので問題無いですよ」
満足いったようで何よりだ。しかし装備の中でも武器だけはどうしてもごついモノになる。
「そして武器は目星をつけてるんですよね、お兄ちゃんに買ってもらおうと思ってたんです!」
そういって武器屋につくなり店長に『例のブツ』といって奥から持ってこさせていた。
「これが予約してたやつだ、いいのか? 装飾極振りであんまり切れ味はよくないぞ?」
そういって店長が出してきたのは飾り彫りのされた黒地に赤や金色のちりばめられた一枚の板だった。
「それが武器?」
「そうです!」
ミントが軽くその板を振るとシュッと刃が飛び出してきた、なるほど仕込んであるのか。
「しかし予約って? 俺は昨日装備を新調しようっていったのに予約する暇なんて……」
「嬢ちゃんがこれを注文してたんだよ、実用性皆無だからやめとけって言ったんだがなあ……エレガントだの可愛さだの……若い連中の考えは俺にゃ分からんな……」
店長のオヤジは理解不能といった様子で首を振る。
「お兄ちゃん、これが後に伝説の一振りとなるわけですよ! 伝説の装備がただのブロードソードだったらがっかりするでしょう?」
「しかし実用性が……」
「お兄ちゃんは分かってないですね、私は金属の板一枚でドラゴンだって余裕で屠れるんですよ? だったら見た目で気分がよくなるのは当然でしょう? 結果が一緒なら見た目の可愛さとかっこよさが大事!」
そう断言するのだった。俺はその言葉の意味はよく分からないが、力にバフをかければ大抵の魔物は倒せるのが事実なので黙っておいた。
その数日後……戦場を駆る女神が現れたという噂話が流れて家で俺に飛びついてくる妹を見ながら、噂なんてものは全く当てにならないんだなあと実感するのだった。




