妹ちゃんサイド
私はお兄ちゃんを愛しています、だからお兄ちゃんも私を……
「夢……ですか……」
胸くその悪い夢です、愛情に見返りを求める事の何が悪いというのでしょう? 私の愛情は報われるに足るものであるはずです。だから私は愛情に見返りを要求します、それこそ、人生まるごとをかけるようなものを……
パシャリ
顔を洗いながらお兄ちゃんにどうアプローチしようかなどと考えます、お兄ちゃんにとって確かに私は妹ですが、私にとってお兄ちゃんは『全て』なのです。
だから私はお兄ちゃんの全てが欲しい、そう望む事は悪なのでしょうか?
時々見るあの夢ではお兄ちゃんの答えが聞こえる前に目が覚めてしまいます、アレが記憶によって捏造された影である事にかわりはないのですが、いつかきっと……あの問いをお兄ちゃんにしなければならないのでしょうか?
私はお兄ちゃんを信じていますし、きっと愛情に愛情で返してくれる人だと確信しています。それを信じ切る事ができないのは私の弱さなのでしょう。
時折、私の事を狂気の沙汰だという人がいます、最近では減りましたが……まあ言った連中を片っ端からボコってたら減っていたわけですね。
さて、狂気とは一体なんでしょうか? 正気ではない事? 正気の基準とは一体何なのでしょう? 世間の標準? 世間とは一体なんでしょうか? つまるところは世の人の大多数を占めるであろう人たちの感情でしかないのです。
つまりはお兄ちゃんが好きな人間が世の中の大多数を占めれば私は正常で真っ当な人間になれるわけですね、素晴らしい! このクソみたいなシステムを考えた人は群集心理というものをよく分かっています。自分が多数派にいればきっと間違いはない! なんて素晴らしい安心するシステムでしょうか! クソですね。
私は誰になんと言われようとお兄ちゃんが好きですし、それが世間一般というよく分かっていない概念みたいな有象無象からどう思われようと知った事ではないのです!
私は炎魔法で火をおこしてお湯を沸かしながら朝食を作ります。ベーコンの焼けるいい匂いが漂ってきました。
それをライ麦パンに載せて朝食にします、さあ今日の重大イベント! お兄ちゃんを起こしに行こう! なわけですが……
最近では意表を突くような目覚ましが無くなってきました……お兄ちゃんの布団に潜り込んだのが一番驚かれましたが、残念ながら斬新なものも繰り返すと慣れてしまうらしく、私が潜り込んでも目を覚ましたお兄ちゃんに布団から追い出される事が普通になってしまいました。
これはいけませんね……もっと意表を突いた起こし方を考えなくては……
しかし、熱々のパンとベーコンは待ってくれません、しょうがないので王道の方法を使う事にしました。
ぱたん……
「お兄ちゃん……起きてください……おはようございます……」
私は寝ているお兄ちゃんの耳にささやきかけます、どこまでならお兄ちゃんが起きないかの勝負です。
「お兄ちゃん……愛してますよ……」
まだお兄ちゃんは起きません、これはもっと過激な事をしてもいいという同意ではないでしょうか?
私はお兄ちゃんの頬に口づけをします、私の顔は真っ赤になっているでしょうが、お兄ちゃんは素知らぬ顔で寝ています。
時々はスキンシップを図る私ですが、ここまで上手く言った事はありませんでした、正直驚きました。それともお兄ちゃんが私を信頼しているから警戒していないのでしょうか?
まあそんな事はどうでもいいですね。さて、頬にキスする事は小さい時から何度かありました。では唇同士というのは……無いんですよね……
さてさて、千載一遇のチャンスなわけですが、このチャンスを大いに利用すべきと私の中の天使がささやきかけます、私の中の悪魔はお兄ちゃんをおこして抱きついてしまえと誘惑してきます。どちらも魅力的なわけですが……
お兄ちゃんの顔を眺めます、見慣れた顔ですがいつ見ても良いですねえ……
これはいける……いけちゃうのでは……?
そう思って顔を近づけます。お兄ちゃんは全く起きてくれません。私は……
「お兄ちゃん! 朝ですよ!」
布団を剥ぎ取りお兄ちゃんを起こしました、結局のところ私はそこまで行くには双方の同意が必要という、世間一般で言うところの常識というものに負けました。
「寒っ! ああおはよ……今日も荒っぽい起こし方だな……」
「お兄ちゃんが起きないのが悪いんですよ!」
結局私は多数派の思想という常識に敗北したのでした。私にも少しくらいのロマンチックな感情が残っていたという事でしょう。
「乱暴だなあ……」
お兄ちゃんは私に呆れながら体を起こしました。やはりお兄ちゃんはいいですね。
「じゃ! 朝ご飯の準備はできてるので待ってますよ!」
そう言って私はお兄ちゃんの部屋を後にしました、もっとお兄ちゃんが欲しいですが我慢ですね、お兄ちゃんが常識に逆らえるだけの気力を持つまでの我慢です!
そうしてキッチンでお兄ちゃんを待っていると、ついさっきのいたずらのやってしまった感を生み出します、ダメです私! お兄ちゃんは私のもの! それは厳然たる事実です!
そんな事を考えていたらお兄ちゃんが服を着替えてきてしまいました。
「おおおお兄ちゃん!? 今日は早いですね!?」
「何をそんなに焦っているのか分からないけどいつも通りだぞ?」
おっと……私とした事が、がらにもなく焦ってしまいました。優秀な人間はこんな事で焦ったりはしないのです。
「いえ、ついついお兄ちゃんが来てくれたので喜んでしまっただけです!」
そう言いますがお兄ちゃんは本当に寝ているあいだの出来事だったので平気な顔をしています。ここはやましい……とは思っていませんが、秘密をもっている私の方が不利です!
「まあ細かい事はいいじゃないですか、お湯が沸いてるのでコーヒー淹れてください」
「分かったよ、相変わらずだな」
そう言ってお兄ちゃんはコーヒーの豆を挽いています。香ばしい豆の匂いで思考が少し落ち着いてきました。
「……お兄ちゃん……愛してますよ……」
そう小声でつぶやきましたがお兄ちゃんには届きません、届くはずのない声ですがお兄ちゃんは振り向きました。
「なんか言ったか?」
「いえ、なんでもないです」
「そうか、ちょっと気配を感じたんでな」
さすがお兄ちゃん、勘がいいですね。
それを聞いてお兄ちゃんへの思いの丈を心の中で愛情のかぎりつぶやいて、そのどろっとした感情は行き場も無く私の心の中で渦巻くのでした。




