妹と思い出
「私のお兄ちゃんはとてもつよい」
はぁ……ため息の一つも出てしまいます、お兄ちゃんの素晴らしさについて語り合いたいのですが、やはり誰とも共有できない思いなのでしょう。
今日はお兄ちゃんとアンデッドを狩りました、何でも疫病で大量に出てきた死体から結構な数が湧いていました。
私が気持ち悪いと逃げ回っているとお兄ちゃんは、私に神聖魔法を付与してくれました。
そいつで忌々しいアンデッドを片っ端から浄化して死体だったものを死体そのものに戻していきました。
お兄ちゃんは私にどんな魔法でも付与してくれるんじゃないでしょうか? そう、例えば死者蘇生であっても……
それが不可能であることくらい分からないほど聞き分けが無いわけではありません、きっとそんなことが可能なら私が失った全ての人を生き返らせることができますし、きっとしてくれるのでしょう。
不可能なことはできない、それだけの話です。
お兄ちゃんも万能ではないのです、それでもできる限りのことをしてくれているので文句は一つも無いわけですが。
とはいえ私もグロテスクなアンデッドを前にした後では食欲も湧かないというものです、残念ですが食事をお兄ちゃんと共にする気にはなりませんでした。
私のホーリーレイが決まった時はアンデッドが灰に帰ってスッキリしましたが、やはり少々グロテスクがすぎますね。
しょうがないのでお兄ちゃんの部屋にお邪魔します、レイによって家捜しです、お兄ちゃんは不在です。
ベッドに飛び込んで呼吸をします、生き返りますねえ……死んでませんけど。
「お兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃん!!!!!!!!」
私は気分よく起き上がってから不審物の捜索を始めます。
お兄ちゃんが私に言えないモノを持っていてはいけませんからね、これは妹としての義務です!
バサバサと本棚を漁っていきますが残念ながら、いえ、幸いなことに健全な本しか見つかりませんでした……
さて、年頃の男性というのはそういうモノを持っていると聞き及んでいるのですが、お兄ちゃんにも一つくらい秘密があってもいいと思うのです!
次に床を調べていきます、ちょっとした隙間が非常に怪しく思えてくるのです、隙間には何かを入れたくなるというのが人の性ではないでしょうか?
うーん……本棚の下にはないですね、王道らしいベッド下はどうでしょうか?
ガサガサ、チッ! 外れですね。
後はどこが怪しいでしょうか? 是非お兄ちゃんの弱みをにぎ……もとい、更生を促す必要がありますからね。
残りはどこがあるでしょうか? 机の裏も見てみましょう、秘密が貼り付けらている可能性も否定は出来ません。
ガララッ ガタッ
私は迷うこと無く机のひきだしを開けて中身を眺めます、コンコン、この音は二重底にはなっていないようですね、裏面にも、何も無いです。
私も少々その頃から焦る気持ちが出てきました。
お兄ちゃんに買い物を頼んでいる以上それほど遠くまでは行きません、つまり時間は限られているということです。
ふと、部屋の隅にあるクローゼットに目がいきました、ここには……
ガチャリ
うーん、無いみたいですねえ……あれ? 底の辺りに何か小箱が置いてありました。
箱のサイズ的にそういうモノが入っている可能性は低いですね、まあせっかくなので開けてみましょう。
古びた箱の蓋を開けると古びた一枚の紙が出てきました、なんでしょうかこれ?
パサリと出てきた紙を広げてみます、底に書いてあった言葉は……
『わたしはおにいちゃんのことがだいすきですずっといっしょにいたいですだからおよめさんにしてください』
そのたどたどしい文字には酷く懐かしい思い出を思い起こさせます。
これを書いたのは……もちろん私です、当時のことを思い出しました。
――
「おにーちゃん! とうさまとかあさまはいつになったらかえってくるの?』
幼い私のその問いにお兄ちゃんはただ無言で私の肩を抱いてくれたのでした。
当時の私に『死』の概念が不確かで、それが何であるのかもちゃんと理解はしていませんでした。
それから数日後、私はお兄ちゃんにまた訊きました、その時お兄ちゃんは『俺が側にいるから』といって私の手を取ってくれました。
あれから随分と関係性は変わってきましたが、私がお兄ちゃんのことを好きであり、それが愛と呼ばれていることも理解はするようになりました。
しかし、それに気づいた後も、同じ問いかけをお兄ちゃんにしました。それは両親を求めたのではなく、お兄ちゃんに優しくされることが目的としてのことでした。
余り褒められた行動ではないのでしょうが、それでもお兄ちゃんに優しくされるのがたまらなく好きなのでした。
ああ……お兄ちゃんは私を愛してくれていたんです、この手紙もお兄ちゃんの気を引くためのものでした。
ふとその手紙をとりだした箱を見ると、『妹のことを忘れないために』と書かれていました。
これはお兄ちゃんが私を一人にしないという決意なのでしょう。
私は慎重に紙を折りたたんで箱にそっと戻し、箱をクローゼットの底の元々置いてあった場所に寸分違わず戻しておきました。
「お兄ちゃんは私が好き」
言葉にしてみると何のことはない言葉ですが、それが家族愛であれ、一般的な愛情であれ、お兄ちゃんは私のことを守ってくれているのです。
ガチャリ
私は元通りクローゼットを閉じてそっと部屋を後にしました。さすがにあれを見た後俗っぽい家捜しをする気にはなりませんでした……
――そうしてお兄ちゃんが少し後に帰ってきました
バタバタ! ギューッ!
私はお兄ちゃんに飛びつきます、私は確かにここに居て、お兄ちゃんが私の側にいてくれる、それ以上を求める必要はないでしょう。
「お兄ちゃん! 大好きですよ!」
そう言ってお兄ちゃんを掴む手に力を込めます。
「おっと、最近ベタベタしてないと思ったらまた戻ったのか? いい加減成長しろよ……」
そう言うお兄ちゃんですが、私は確かにお兄ちゃんが一緒にいてくれるのに心の底から感謝をするのでした。
私はお兄ちゃんとずっとともにいたいと思います。生まれた年は違いますが死ぬまで一緒にいることを確かに決意を新たにするのでした。