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妹の心理フェイズ

「お兄ちゃん、ふと思ったのですが……」


 またミントがろくでもないことを思いついたようだ。


 その内容、というか思いつきに対して語り出す。


「念話疎通ってスキルあるじゃないですか? アレってお兄ちゃん以外にも送れるんですかね?」


「さあ?」


 ――

 可能です、送ることは可能ですが相手からのイメージを受け取ることは出来ません

 ――


 ご丁寧な解説ありがとう、と天の声にお礼を言いながら答える。


「一応出来るな、送るのみで受け取れないけど」


「ふむ……面白そうですね……」


 ミントは少し考え込んでから、意地悪そうな笑みを浮かべた、ろくでもないことをまた考えついたようだ。


「お兄ちゃん! 明日はギルドで討伐依頼を受けましょう!」


「まあ、最近薬草採集ばっか受けてたからいいけど何を思いついたんだ?」


 俺の質問にミントは答えない。


「それはないしょって事で……あ、スキル付与だけでやってみようと思います」


「大丈夫なのかねえ……」


 俺は大きな不安を覚えながら眠りについた。


 ――翌日


 ギルドにて依頼ボードを眺めながら考える、バフ無しでいきたいそうなので大物相手はやめた方がいいな、一角ウサギあたりならそれほど危険もないだろう。


 俺が一枚の依頼書をとろうとしたところでミントは一枚の紙をもぎ取った。


「これにしましょう!」


 そう言って突き出された紙には『コボルトメイジ討伐』と書いてあった。


 無理ではなさそうな依頼だ。コボルトの上位種だがロードクラス出なければDランクくらいでもなんとかなる。


 ミントにも何か考えがあるのだろうし、いざとなればバフを使えば討伐可能だろう。


「わかった、たまにはお前の意見を聞こうじゃないか」


「話が分かりますね!」


 気もそぞろに依頼書を受付に持っていくのを眺めながら一体何を思いついたのか気になるのだった。


「お兄ちゃん、無事受け付けられたので早速討伐へいきましょう!」


「おお……」


 コイツが調子に乗っているときはロクなタイミングではないのを知っているので気が乗らないが、約束した手前これを受けるしかないのだろう。


「危なくなったらバフを思い切り盛るからな?」


「いいですよ、実際今回のは実験ですし」


「『実験』ねぇ……」


 俺はミントの実験の犠牲になるであろうコボルト達に哀れみを持つのだった。


 ――コボルト営巣地


「じゃあお兄ちゃん、念話疎通付与お願いします」


「はいよ」


 ――

 妹に念話疎通のスキルを付与しました

 ――


「これでいいのか?」


「問題無いです、コボルトの数は十匹かそこらですね? 潰すには十分楽な数です」


 自信満々に答えるので俺の不安は少し増すのだった。


「お兄ちゃん、それじゃ試してみますね」


「何をやるのか知らないが見つからないようにな」


 コボルト達の群れからはそれなりの距離をとっている、気づかれて襲われてもバフの間に合う距離だ、何も問題は無い……はずだ……


「じゃあいきます!」


 轟々とミントがそう言うとともに強力なイメージが放出された。


 ――

 思念波が身体に有害なため遮断しました

 ――


 わずかに入ってきただけでも恐ろしいほどの強力なイメージを送ってきて一体何がしたいのかと思うとコボルト達がバタバタと倒れていった。


「やっぱりいけますね」


「何をやったんだ?」


「イメージを送れるそうなので強力なやつを一気に送ってみました、案の定倒せましたね?」


「みたいだな……」


 一体コイツに何のイメージを与えたのかは不明だが考えるのも怖いものなのだろう、コボルト達が泡をふいて倒れている光景を見るとそれを想像するのははばかられた。


 営巣地に入っていくとコボルトの群れは全て絶命していた、犬の限界とはいえイメージだけで殺傷力を持つ妹が少し怖くなった。


「ああ、あれがコボルトメイジみたいですね?」


 巣の奥にぼろきれをまとったボスだったのであろう個体が死んでいた。


 やはり知能が高いせいなのか、他のコボルトよりもおどろおどろしい顔をして死んでいる。


「じゃあこれストレージに入れときましょうか」


 ポイと収納するミントだが、コイツには倫理観というものが無いのだろうか?


「じゃあ帰りますか」


「そうだな」


 さすがにこいつらも相手が悪かったのを気の毒に思いながら町へ帰っていくのだった。


 ――ギルドにて


「やっぱり大丈夫でしたね」


 セシリーさんも当然と言った風に受け入れている、普通ギルドのランクで受けられるギリギリの依頼を受けると心配されたりするものだが向こうも慣れたものだった。


「ええ、サクッと片付けましたよ! これが証拠です」


「あ、ちょっと待ってください! 解体場で検分はお願いします! ここで出されると大変なので……」


「分かりました!」


 元気よく言って検分場に向かうのだった。


「おう! 嬢ちゃん、また大物を倒したのか?」


 気さくに話しかけてくるおっさん、こちらもすっかり日常と化していた。


「これがコボルトメイジの死体です」


 ドサドサとストレージから取り出すミント、ついでにしまっておいた通常種の死体も素材として売るために持ってきている。


「おお……相変わらずすごいな……ん……?」


 おっさんの顔が険しくなっていく、何か不味かっただろうか?


「ざっとこんなものですね、楽勝でしたよ」


 これはいつものことなのだが、おっさんは顔を険しくしながら素材となる部位をとろうとして考え込んでいる。


「何かいけませんでしたか?」


 ミントもその空気に気が付いて質問をした。


「なあ、疑うわけじゃないんだが、これは嬢ちゃん達が倒したのか?」


 ポカンとしながらミントは答えた。


「それは当たり前じゃないですか? ちゃんと私が全て倒しましたよ?」


「ううむ……」


 考え込んでいるがどうかしたのだろうか?


「あの……完璧に素材として使えると思うんですけど何か問題が?」


 ミントがそう訊くとおっさんは渋い顔をしながら答えた。


「ああ、きっと二人で倒したんだろうとは思うんだがな……そこは疑わんよ、だがな……これは少し『完璧すぎる』」


「「え!?」」


 俺たちの驚きに重い口を開く。


「討伐依頼っていうのはちゃんと受けたやつが倒さないと貢献度にならないんだよ、素材としての買い取りには問題無いんだがな……これ全部見たところ自然死と区別ができん」


 ああ……どうやらコボルト達に外傷がないことが疑問らしい、確かにどんな魔法であれ、物理攻撃であれ何らかの死体の損傷はあるものだ。


「ちょっと調べるから明日また来てくれ……なにしろ数が数だからな」


「はい」


「しょうがないですね……」


 俺たちはその場を後にした。


 ――


解体場にて……

 

 ギルマスが質問をする。


「これを全部倒したのか? 自然死と全く区別がつかないんだが?」


「このメイジ一体だけなら自然死した個体を持ってきたといっても信じますがね、この数が同時に自然死するとは考えづらいからな、どんな方法を使ったのかは知らないが倒したのは事実だろうよ」


 おっさんの言葉に険しい顔でギルマスが考え込んだ。


 ――翌日


「あの……昨日の討伐依頼なんですけど……報酬ははずむので貢献ポイントは無しということで納得していただけませんか?」


「ええ!? せっかく苦労して討伐したのに!? 酷くないですか!?」


「私たちも疑うわけではありませんが、何しろ討伐したのか何かの原因で群れが全滅したのか区別がつかないので……」


 結局コボルトは高値で買い取られたが貢献ポイントが加算されることはないのだった。


 ミントは不満だったようだが、俺が報酬からアクセサリを買ってやるといったら渋々引き下がった。


 そうして俺たちの討伐依頼は存在そのものが消えて無くなってしまったのだった。


 ――


「ギルマス、さすがにちょっと酷くないですか? あれは確実に討伐してますよ!」


 セシリーさんが今回の処置について苦情を上げている。


「いいか、俺たちは冒険者達の安全を守らなければならない、あんな殺し方ができるやつを国が放っておくと思うか? 暗殺だってし放題なんだぞ? 証拠の一つも残らない、そんな危険な連中を野放しにするか?」


「じゃあ二人の身を守るために……?」


「そんな上等なもんじゃねえよ、ただ不味い依頼を率先して受けてくれる物好きを手放したくねえだけだよ」


 そうぶっきらぼうに言うとセシリーさんを下がらせた。


「ギルマスも案外甘いですねえ!」


 セシリーさんは少し嬉しそうに受付に戻っていくのだった。

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