妹と情報管理
「バカヤロウ! このギルドで情報流出だと!」
ギルマスが怒鳴っている、このギルドを揺るがす大事件は外から見えないよう、静かに進行していった。
「いえ、深刻なものではなくスキル情報が少し漏れた程度で……」
言い訳をする職員だがギルマスは顔を真っ赤にして怒っている。
「バカかお前は! ギルドは信用商売なんだぞ! ポンポン情報を漏らすようなギルドが信用されるわけねえだろ!」
一通り怒鳴ると、ひとまず落ち着いてミルクをすする。
「で、何の情報が抜かれたんだ? 上位冒険者の情報が抜かれたら致命的だぞ」
数人いるSランク冒険者にギルドを抜けられるのはとんでもない損失だ、ギルドの存在を揺るがすと言ってもいい。
しかし返答はなんとも言えないものだった。
「それが……このギルドで一番強いパーティの情報を漏らしたそうで、流した本人はクビにしましたが……」
「当たり前だ! そんなやつをこのギルドにおいておけるわけねえだろ! で、どのパーティの情報が抜かれたんだ? Sランクだろう?」
しかし返ってきた答えはギルマスには意外なものだった。
「実は、例の兄妹の情報でして……」
ギルマスもものすごく微妙な顔をする、確かに二人はFランクである、しかし……
「そうか、あの二人が抜けるとは思えないが、万が一ギルドから抜けられたら損害は大きいぞ」
「分かっています、ただ……流出相手はウチと競合しているギルドらしいのですが……」
「フン、ご丁寧なことだな、あの町か……」
このギルドの隣町にもギルドがある、冒険者の引抜は日常だ。
「しかし、この流出がバレた経緯が少し特殊でして……」
「なんだ、情報を受け取るクズが口を緩めたのか?」
「いえ、『この町一番の実力者』の情報を出せといったのに出てきたのがFランクの二人だったので、思わずキレたところを目撃されたらしく……」
ギルマスも少し落ち着いて苦々しげに考えをめぐらせる。
「ではあの二人の実力を信じられていないと?」
「そうですね、Fランクがオークキングを狩っているなど信じられることではなかったらしく……」
カタリとマグカップを置いてため息をつく。
「信じられていないならまあいいだろう、念のためしばらくはあの二人にはFランクの依頼を中心に受けさせろ、情報を嘘だと信じ込ませろ」
「はい、受付にそう伝えておきます」
「この情報は絶対に漏らすなよ、いけ」
ギルド職員は頭を下げて出て行った。
そしてギルマスは独りごちた。
「Fランク最強……か」
――
俺たちはいつも通りギルドに来ていたのだが、今日は薬草採集の依頼が何故か豊富に張り出されており、報酬もよかったためミントも渋々その依頼を受け付けに持っていった。
「なんか今日は薬草採集多いですね? 戦争の準備でも始める気ですか?」
「何故でしょうねえ……報酬はちゃんと出ますからいいじゃないですか?」
セシリーさんに愚痴るミントだったが、正規の依頼なので受けざるを得ない、何故か中間のランクがなく、薬草採集以外は俺たちの受けられないCランクの依頼から始まっていた。
「はぁ……なんでこんなにお兄ちゃんがお望みの依頼が多いんですかね?」
「さあな、景気がいいことじゃないか? 薬草採集で銀貨数枚って破格だぞ?」
「それはそうなんですけど……何か作為的なものを感じるんですよねえ……」
ミントは何か陰謀じみたものを感じているようだが俺は久しぶりの平和な依頼に安心していた。
「ほら、薬草の生えているところに行くぞ」
「はーい……」
そう言ってミントも渋々俺についてギルドを出ていった。
――
ギルドにいた顔の見えないローブ姿の二人が話す。
「あれが最強? ガセ情報だろう……」
「薬草採集とか初心者もいいところじゃないか、情報屋に一杯食わされたな」
そうして俺たちの後をつけるのだった。
――
「これだけ生えてる薬草採集を私たちに依頼するなんて無駄遣いもいいところだと思いますがね」
美味しい依頼を逃す手もないし、割のいい依頼だと思うんだがなあ……
「これならバフも必要なさそうだな」
「ですね、一応力と体力だけ強化しておいて貰えますか?」
――
妹バフを使用します
力「A」
体力「A」
――
この程度でもその辺の魔物は蹴散らせる程度の力を付与しておいた。
ざっくざっく……ざくざく……
無心で薬草を採っていく、採った薬草は片っ端からストレージに放り込んでいく。
――
「おい、あの二人収納魔法持ちだぞ?」
「Fランクにしては珍しいな、しかし最強ってわけじゃないだろう?」
「それはそうだが……」
釈然としない二人のスパイだった。
――
「大体金貨一枚分くらいは刈りましたね、十分ですしギルドへ帰りますか?」
「そうだな、あんまり刈りすぎると生えてこなくなるからな」
「ぎゃああああああああ!!!!!!!!」
その時悲鳴が響いた、近いな……
「行くぞミント!」
「はい!」
悲鳴の方向へ向かうと二人の男がビッグボアに襲われていた、この辺には珍しい魔物だがたまにこういうことがある、あの二人も薬草採集を受けたクチだろうか?
「どりゃああああああああああ!!!!」
ミントが着いてそうそうビッグボアの頭を思い切りぶん殴る。
一撃で衝撃に耐えられず倒れた魔物を尻目に俺たちは二人に駆け寄る。
「大丈夫でしたか? 災難ですね」
「私がいないと不味かったのをお忘れなく」
そう俺たちが言うと二人は落ち着いて礼を言った。
「すまない、助かったよ。まさかこの辺にビッグボアが出るとは思わなかったよ」
「楽な依頼だと思っていたんだが……」
二人とも薬草採集を受けたのだろう、厄介な相手に見つかったものだ、災難だな。
「お兄ちゃん、これ一応討伐したのでストレージに入れておきますよ?」
「ああ、素材報酬にはなるだろうな」
二人が恐ろしいものでも見ているようにこちらに視線を向ける。
「君たちは……その……いつもこんな魔物を相手にしているのか?」
「あんまり強い魔物とは戦いませんがね、上位ランクはもっとすごいんじゃないでしょうか」
俺がそう答えると男達は唖然としながら礼を述べた。
「ありがとう、助かったよ。では私たちは町に帰ることにするよ、あんなものを見た後じゃな……」
そう言って二人とも町へ帰っていった。
俺たちも大量の薬草と一体のビッグボアをギルドに持って帰っていった。
――
「あなたたちは……いつもこんな事をしますねえ……」
セシリーさんも呆れ顔で俺たちを見る。ビッグボアの死体を素材として納品したのを苦笑いで見ながらそう言った。
俺たちのいつもの光景を繰り広げながらのんきに帰るのだった。
――
「あの町のギルドはどうかしてます! 最底辺があの実力ってどうかしてますよ!」
「私もあのギルドは敵に回さないようにしたいですね、リスクが高すぎます」
その町のギルマスに報告に来ていたスパイ二人はその日見た光景を報告していた。
「信じがたい話だがな……」
ひげ面のギルマスが報告を聞いて答える。
「まあいい、最低ラインが分かったことだけでも立派な情報だ、なんにせよあの町と争うのはやめておくぞ」
信じがたい話をする部下二人だったが、真剣に話すので嘘ではないのだろうと考えギルドは戦うのを避けるのだった。