妹と錬金術
「お兄ちゃん! 錬金術って知ってますか?」
「錬金術? ああ、あのインチキの……」
ミントのいつもの思いつきに俺も適当に返す。他の金属から金を作るのは不可能と言われているが探求する人間は後を絶たない。
「お兄ちゃん錬金術スキルとか付与できないんですか? 微妙に使えない神様ですねえ……」
無理なものは無理だ、その辺は分かって欲しい。
「無理だよ、そんな都合よくポンポンスキルは身につかない」
ミントははぁとため息をつく。
どうやら本気でそんなスキルがあると思ったらしい。
「じゃあ今まであるスキルを組み合わせて同じようなことが出来るとか……」
――
可能です
――
「はっ!?」
ミントは目を輝かせてきいてくる。
「出来るんですね!」
――
スキル「原子核制御」を使い組成を組み替えることによりエネルギーが発生し、元素が別のものに変わります
――
ええっと……そのエネルギーってどのくらい?
――
この街が軽く吹き飛ぶほどです
――
ダメー! 絶対ダメ! 死んじゃう!
「ミント、無理だから! 諦めてくれ!」
「ええー……出来るんならやりましょうよ?」
「この街が吹き飛んでもわずかばかりの金しか出来ないんだぞ?」
「怖っ! なんですかそのスキル!?」
さすがのミントもドン引きだった、無理もないわな……
しかし……そんな強力なスキルをもらってもなあ……持て余すんだよな。
そこへミントがさも名案を思いついたのように言ってくる。
「じゃあそれで魔王討伐すればいいのでは?」
「お前なあ……」
――
現在「原子核制御」はロックされています
――
じゃあ何故提案したという疑問はさておき……
「今はそのスキル使えないみたいだな」
「むー……」
文句を言いたげなミントだがこればかりはどうしようもない。気まぐれな神様の適当なスキル付与に文句を言ったってしょうがない。
「じゃあじゃあ! 他に何かお金になりそうなスキルはないんですか?」
そんな都合のいいスキルはないのだが……
「お前は人をなんだと思っているんだ……便利なスキル屋じゃねーんだぞ?」
「それはまあそうなのですが……お兄ちゃんの名をあまねくとどろかせたいなあと……」
俺のことについて分かってないようだな。
「俺は平凡な一町民で生きていきたいんだよ、勇者とか賢者とかそういうのは選ばれた人間がやればいいだろ?」
しかしミントはこれに異を唱える。
「私としては成り上がり要素が欲しいと思うのですが?」
「何故?」
「神の意志でしょうかね?」
なんとも言えない発言をするミントに呆れながらも何か面白そうなことが出来ないかと考える。
そういやエーテル操作なんてものもあったな……
――
妹に「エーテル操作」を付与しました
――
「ちょ! お兄ちゃん? これでどうしろと?」
「いや、姿を消せるんじゃないかと思って」
エーテル、魔力の媒体であり光の伝達物質である、つまりエーテルを自由に操作できるということは自分の姿を隠せるのではないだろうか?
しかしそう簡単にいくだろうか? 光学魔法は結構な数の魔道士が挑戦しては失敗している分野だ、ミントが天才でもそう簡単には……
少し考えてから顔を上げるとそこには「誰もいなかった」
「おー……もしかしてお兄ちゃん、見えてないですか?」
「え!? ああ、いるのか?」
見えないミントに話しかけてみる。
「いますよ! ここでこうしてお兄ちゃんに接近しているのが分かりませんか?」
「いや……目に見えない相手に近寄られるって普通に怖いんだけど……」
ミントが見えなくなると何をやるか分かったもんじゃない、というわけで……
――
妹から「エーテル操作」を取り消しました
――
ぱっと目の前に現れたのでビックリした。
「おま……なんでこんな近づいてんだよ!? ビビるだろ!」
「いやあ……なんか見えてないって分かるとつい危ないことがしたくなるじゃないですか?」
うん、どうやら妹には倫理観が欠けているらしい、もうちょっと人の心を理解して欲しいな。
「で、どうだった? 姿を消せて満足したか?」
俺がそう問うと、ミントは楽しげに答えた。
「そりゃあもうお兄ちゃんにあれやこれや出来ちゃいますからね! これはいいスキルです!」
「言っとくが俺が自由にそのスキルの付与も取り消しも出来るんだからな?」
ミントも心外と言った風に言う。
「もうちょっと妹を信頼することも大事だと思いますがね? 家族なんですよ?」
「都合のいいときだけ身分を持ち出すのはやめてくれないかなあ!」
ああちくしょう、コイツには勝てないなあ……
しかし、妹への牽制も出来たことだし、無茶なことには使わないだろう。
「ところでお兄ちゃん、数日でいいのでエーテル操作を付与して貰えません?」
前言撤回、なんに使うか分かったもんじゃない。
「ダメだな」
「むー……」
「さすがにお前が殺しや盗みに使うとは思っちゃいないが面倒なのでダメです」
「もう……ちょっとお兄ちゃんに大胆に出ようと思っただけじゃないですか……」
コイツは……スキルについてもうちょっと責任とか考えた方がいいんじゃないだろうか?
とにもかくにも、コイツには強すぎるスキルなので暫くは付与しないようにしよう。
「お兄ちゃん……お風呂に入ってもバレない……ふへへ……」
俺は邪悪な笑みを浮かべる妹を見ないように食事を続けるのだった。