妹のゴースト払い
「お兄ちゃん! このクエストを受けましょう!」
ミントがいつものようにそう言って討伐依頼を受けようとする。
俺はチラリと掲示板から剥ぎ取られた依頼書をのぞき込む。
「なになに……ゴーストの討伐依頼?」
「そうですそうです! このクエストを受ければいい感じに……おっとナンデモナイデス……」
「何を考えてるんだ?」
「いえいえいえ! 決してビビるお兄ちゃんに頼られていい感じとか考えてませんよ? あくまでゴーストに困らされている人たちを助けたいんです!」
「えぇ……」
ロクな理由ではないが討伐依頼としては比較的楽な方だ、ゴーストは基本的に物理的な力を持たない、不気味というだけで実害は存在しない魔物だ。
「依頼のランクは……Eか、受けるのに支障は無いな」
「そうでしょう! 私は公明正大に困っている人々を助けたいのです!」
この際裏側の野望については触れないことにしよう、これを断ったらもっと怖い依頼を持ってきそうな感じがする。わざわざ無難な依頼を断って面倒事をもってこられても困るんだよな。
「わかった、その依頼でいこうか」
「そう来なくっちゃね! さっすがお兄ちゃん! 話が分かりますね!」
そう言ってセシリーさんの元へ依頼を受けに紙を持っていく、今回は何事もなく受領することが出来たようだ。しかしなんだかミントの顔は冴えない、希望通りの依頼を受けたのに何故だろう?
「どうした、何か問題か?」
ミントは吐き捨てるように言った。
「ゴーストが出るかどうか怪しいらしいです、目撃者も少ないので調査依頼ということだそうで、討伐すれば報酬マシマシですが出なければ調査費用しか出ないそうで……」
なるほど、出るかどうかも分からないものを相手にするのか、そう都合がよくいくのだろうか? そもそも出た方が都合がいいのか出ない方が都合がいいのかも分からない。
「ちなみに場所はどこなんだ?」
依頼場所はゴーストなら墓場や処刑場あたりが多いが……
「お屋敷だそうです、一晩ゴーストが出るかどうか確認して欲しいとのことで……持ち主が売り払おうとしたらゴーストの噂が立ったのでどっちでもいいから解決して欲しいそうですよ」
ふむ……要するにその屋敷にゴーストが出ないと保証して欲しいということだろう。
――
そうして俺たちは基本的な食料を持って町の外れの大きな屋敷に来ていた。
依頼者は「いやあ助かりますよ! ちょちょいとゴースト問題を解決してくださいね!」そう言ってさっさと去って行った。
しかし厄介な依頼であることに気が付いた。
俺とミントの二人で残されたのだが、致命的な問題が一つある。
「なあミント……一つ疑問があるんだが……ここを守るんだよな?」
ミントは何を言っているんだという顔でこちらを見る。
「それはそうですが何か?」
「もしゴーストが出てきたらどうやって倒すんだ?」
「へ!? そりゃあドカーンと一発……あ!」
そう、この家は後で売りに出す予定の物件だ、もちろん壊したり傷つけたりするわけにはいかない。
つまり爆発や炎を出すなどすると損害賠償を請求されかねない。
「お兄ちゃん? ゴーストって物理で倒せませんかね?」
「すぐそうやって力で解決するのはどうかと思うぞ、そもそもお前が全力を振るったらこの屋敷くらい吹き飛ばせるだろうが……」
ミントは青い顔で俺に近づいてくる。
「ヤバイ依頼でしたね、お兄ちゃん、危ないので私から離れないようにしてください」
そう言って俺の腕にギュッと抱きついてくる。
「怖いのかよ……?」
「いえ、ゴースト事態は怖くないのですが損害賠償は死ぬほど怖いだけです」
どうすんだよ!? 出てきたら倒しようがないじゃねえか!?
そして夕方まで何も出てくることはなく、夕焼けから火が落ちてくると不気味な感じが出てきた。
「なんか不気味ですね……出てくると困るんですが……」
自信満々に依頼を受けたのはどこの誰でしたかねえ……
火が落ちて屋敷にオイルランプをともし、玄関ロビーで待っているのだがゴーストさんは出てくる気配がない。
「なんだ、出てこないじゃないですか! やっぱり楽勝の依頼でしたね!」
そう言って気分が良さそうなミントであるがその発言はどう考えてもフラグだぞ?
『わたしのいえに……はい……るな……」
「ひぃ!?」
ミントがすごくビビりながら俺に飛びついてくる、ゴーストさんはご丁寧にうっすら光ながら出てきた。
おや?
そのゴーストは少女の姿で黒いフリルのワンピースを着て歩いてきた。
「もしかして君……言葉が理解できるのか?」
基本的にゴーストは言葉を解さないがこのゴーストは意味のある言葉を喋っている。
「わたし……はなせる……おまえたち……てき」
「お兄ちゃん! もう吹き飛ばしましょう! コイツからは邪悪な感じがします!」
ものすごくビビっているミントだが、話し合いで解決できるならベストだ。
「君はなんでゴーストになったんだ? 元は人間だろう?」
動物ではなく人間のゴーストだ、普通は生前の姿で出てくるし、何より獣が人の姿をとることはない。
「わたし……ころされた……しょうにんたち……このいえ……のっとる……」
ふむ……どうやら陰謀に巻き込まれたようだ、この少女の言葉を信用するならであるが。
「その商人というのは俺たちに依頼をしてきた男か?」
「そう……あいつ……わたしをころした……」
そうか、俺たちも検証してこなかったな、まさか人間のゴーストとは思ってもいなかった。
「では奴から真相を聞き出せば……」
その時ひゅんと一本の矢が飛んできた。そちらを眺めると依頼人の商人が護衛数人を連れてきていた。
「お二人とも、そのゴーストを倒してください! 依頼ですぞ!」
「お兄ちゃん!」
「はいよ」
――――
力「A]
体力「A]
魔力「A」
精神力「A]
素早さ「A+」
スキル「なし」
――――
こんなものでいいだろう、射撃対策に素早さを多めに振っておいた。
「おい! 早く倒せ……ふごっ!」
ミントの蹴りが商人に炸裂した。
「人間は怖くないんですよねえ……ありがたいことに……」
ぼごっ、めきょ……
護衛の二人も即倒される、ミントに勝てると思ったのが運の尽きだ。
「ありがとう……」
少女のゴーストがそう言うが……
「別にあなたのためじゃないんですよ、倒しやすいのがこっちだったってだけです、嘘をついてたら屋敷ごと吹き飛ばしますからね?」
ミントの脅しにゴーストもビビっている、因縁の付け方がかなり強引だ。
――
そうして翌日、捜査班を呼ぶようにギルドに依頼して調査をした結果、昨日吹き飛ばした商人が殺し屋に依頼して一人暮らしだった少女を殺害したあと、親族を装って相続していたことが発覚した。
当然商人にも極刑が言い渡されたが、ミントの一撃でまともに動けない状態になってしまっていたのでどちらでも変わらなかったのかもしれない。
ゴーストの少女はミントにエーテル操作を付与して、エーテルで構築された霊体を浄化してやった。
そうして無事、ゴースト事件は解決したのだった。
余談だが、依頼人の逮捕により報酬は前金以外出ず、相も変わらず貢献ポイントも変わらないのだった。




