妹と魔王軍幹部(ザコ)登場
俺の持っているギルドカードが赤く光る、緊急招集の印だ。
「うぇぇ……絶対面倒なやつだろうなあ……」
「ほらほら! お兄ちゃん! 行きますよ!」
「しょうがないなあ」
俺も渋々装備を調えて家を出る、厄介事にも慣れたと思っていたがやはり面倒なものは面倒だ。
町では大勢の人が家の中に避難をしていた、ギルドに向かう冒険者もときどき見かける。どちらもみんな焦っているようだ。
俺達はのんきにギルドへの道を歩いて行く、走っている人が多いが俺達は気楽なものだ。
「お兄ちゃん? 緊急招集とかヤバいやつが襲ってきたんですかね?」
「さあな。ずいぶんと勇気のあることだと思うよ」
俺達兄妹に逆らうのは勇気ではなく蛮勇のような気もするが……
「さて、ギルド前についたわけですが……お兄ちゃんなんで立ち止まるんです?」
だってさあ……
「絶対面倒な依頼じゃん! できれば受けたくない系の!」
「ここまで来ておいて男らしくないですよ!」
ミントに押されてギルド内へ入る、途端に歓声が上がった。
「よっしゃあああああ!! 二人が来てくれたら俺らの出番はねえな!」
「助かった……死ぬかと想った……」
俺は安堵の色を浮かべているセシリーさんに訊く。
「一体何の依頼なんですか? 結構めんどくさそうですけど」
「それが……この町への襲撃予告が来まして……」
襲撃予告? 予告ということは言葉を理解できる知能のある人間か魔族だろう。
「一体何が来るんですか?」
「魔王軍の幹部だそうです」
セシリーさんが泣きそうな顔で言う。普通の人なら魔王軍幹部なんて相手にしたら死ぬかもしれないもんな。
「ほうほう……魔王軍幹部ですか、なかなか骨のある奴が居たものですね」
呆れた顔でセシリーさんが言う。
「余裕そうですねえ……さっきまで葬式状態でしたよ?」
「その割には結構皆さん楽そうですね?」
「あなたたちに任せればいいと……」
しかし俺は疑問に思う。
「討伐が目的なら全員でかかった方がいいんじゃないんですか?」
数は力である、魔族相手でも人間相手でも魔物相手でもそれは違いない。
「それが……魔王軍幹部さんがこの町一番の実力者と勝負させろと言ってまして……」
「そんなの無視すればいいじゃないですか?」
「なんでも『魔族と魔物の軍勢を連れていく、私が負けたら全軍引き上げよう、君たちと私の一対一の勝負だ』だそうです、こちらが集団戦をするならこちらも全軍を出すと言っていまして……」
タイマン……か、俺がミントをバフまみれにして叩き潰す方が圧倒的に楽だな。
「ところでその魔族はいつ来るんですか?」
「今日です」
「今日!?!?!?」
なんだってそんな準備も何もない時間に告げるんだ。
「言いたいことは分かりますが、事前通告すると逃げちゃう人もいらっしゃるので……」
この町の冒険者は魔王軍相手に戦う気はないのだろう。
「ではそろそろ近くの平原に来るそうなので討伐しちゃってください!」
そう言って気楽に俺達に強敵との戦いを依頼するのだった……
――
町の外、以前ミントが更地にした平原にて、俺が後ろに立ってミントが魔族と向き合っていた。
おぞましい、タコと蜂とライオンを会わせたような格好の魔族は不敵に笑う。
「よくぞ来た人間! 我が魔王軍を相手になかなかいい勝負をしたそうではないか? 我も全力を出して戦おうぞ!」
なお俺達は正々堂々と戦う気はない。
妹バフを使用します
――――
力「S+]
体力「S+]
魔力「A-」
精神力「S]
素早さ「S」
スキル「」
――――
スキル無し、ステータス全振りのストロングスタイルだ。ミント曰く、『こういうやつは脳筋が多いので力で叩き潰してあげましょう!』だそうである。
「感じる! 貴様からは大きな力を感じるぞ! お前達は手を出すな、いざ勝負!」
魔族の人は後ろに控える魔獣や魔族達にそう言って素早くミントに飛びかかる。
「遅い!」
シュッ
ミントが飛びかかってきた魔族の後ろに回り、タコ状になっている頭の一つを思い切り殴る。
「ぐ……なかなかやるではないか! しかし! 我が体がその程度の攻撃できずが付くものか!」
そうは言っているがもの凄く動揺しているようだ、まさか人間の少女一人がここまでの力を持っているとは思っていなかったのだろう。
「GURYRRRRRRRRRRAAAAAAAAAAA!!!!!!」
魔族が高くジャンプしミントに飛びかかる、俺は動きはまったく見えなかったが、少なくともミントの素早さは自由落下の速度を上回っていた。
落下点から微妙にずれたところで枯死の後ろに持っていたナイフを落ちてきた魔族に突き立てる。
「GYAAAAAAAAA!!!!!!」
悲鳴を立ててぐらりと揺らめく、しかし普通の魔物と違ってそれ一発では死ななかった。
「人間ごときがアアアアアアアア!!!」
首をかみ切ろうとミントに飛びかかる、それがまずかった。
口はライオン、その牙で飛びかかれば傷を負うだろう。
しかし、口で噛みつくと言うことは首筋をさらして攻撃すると言うことだ。
シュン
ミントが飛びかかったのを横に飛んでかわし、無防備になった首にナイフを突き立てる。
そしてひねりを加えて引き抜く、鮮血が飛び散った。
「にん……げん……ごとき……」
バタン
魔族はついに倒れ込んだ、俺は後ろに控えた魔族が襲いかかってくることを危惧し、いつでもミントに爆発系魔法を付与できるように準備をする。
しかし残りの魔族達は蜘蛛の子を散らす様に逃げ去っていった、どうやらこのボスで勝てない相手には集団になっても勝てないと判断したらしい。
「お兄ちゃん、ヒール」
「キュア」
妹は傷一つおっていないがヒールで服についた返り血が浄化されていく、どす黒かった服は真っ白になった。
「よし、帰るか」
「ですね」
――そうして町の中へ帰って行った。
ギルドにて
「さすが魔王討伐軍だけのことはありますね!」
「といっても補欠要員ですけどね」
「お兄ちゃん! そんな謙遜しなくていいんですよ?」
周りは何事もなかったように馬鹿騒ぎをしている、俺達が来なかったらどうなっていたのかは想像するのも恐ろしい。
「はい、これが王国からの報酬金になります!」
ドサリと革袋が置かれる、中には金貨がびっちりと入っていた。
「ま、私なら当然ですね!」
「じゃあ帰ろうカミント!」
俺は帰宅を促す、しかしミントは面倒なところに言及した。
「ところでギルドの貢献ポイントは?」
「あなた方の仕事はギルドメンバーではなくこの町の魔王討伐軍の仕事になるので……」
「えぇ! なんとかならないんですか?」
「魔王討伐軍は国王直属なので……ギルドの成果にはできないんです、申し訳ありません」
「ひどいです!」
俺はミントに「そんなもんだ」と言って手を取ってギルドを出て行った。
「お兄ちゃんはいいんですか?」
「大方予想はついてたからな、報酬が結構な量だったしいいだろ?」
「納得いきませんねえ……」
そうして俺達は自宅へと帰っていった、魔王軍がどの程度強いのかは知らないがあの程度で幹部を名乗れるのならたいしたことないな。
そうして俺達は少し高級なものを買って帰宅したのだった。その日の夕食は少しだけ豪華だった。




