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ジョブ「お兄ちゃん」ってなんですか? 謎のジョブを与えられて困惑していると妹が最強になりました  作者: にとろ


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妹のはじまり

 私とお兄ちゃんは依頼の薬草を採り終えたのでギルドへの道を帰っています。


 私は……初めてお兄ちゃんのことを想うようになった時のことを思い出します。


 ――


「きゃ! 怖い! 気持ち悪いよう!」


 私に飛びかかろうとしている大きなネズミ、私は体をこの魔物に食べ尽くされるのを想像してゾッとしました。


「このっ!」


 魔物の喉笛にナイフが刺さって血を吹き出します。ナイフを刺したお兄ちゃんは少し青い顔をしながらもはを動かして首を切っていきました。


 そうして、ようやく私に襲いかかった最大の恐怖はお兄ちゃんがなんとかしてくれたのです。


 いつだって私はお兄ちゃんを頼っています。


 とっくに動かなくなった魔物の死体を残して、お兄ちゃんはなんとか立っています。


 お兄ちゃんだって怖いはずなのに、私が怖がっているからちゃんと立って堂々として安心させてくれました。


「うぇ……ぐずっ……」


「ほら、ミント、泣くなよ、父さんと母さんが待ってる町まであと少しだぞ」


 私たちが……私のわがままで町の外へ出て薬草を採集した日のこと、当時の私は父さんが傷だらけになって帰ってくるので「お薬を作りたい!」とごねたのでお兄ちゃんがついてきてくれたときの話です。


「うぅ……なんでお外ってこんなに怖いんですか?」


「しょうがないだろ、相手は人間じゃないんだから、動物に子供を襲うなって言うのは無理な話だよ」


 お兄ちゃんは冷静にそう答えて私の手を引きます。しかし私はさっきのヒュージマウスの襲撃に恐れをなして腰を抜かしていました。


 今からすればゴミみたいな魔物ですが、当時にしてはかなりの強敵でした。


 お兄ちゃんはその敵をナイフ一本で切り裂いて倒したのでした。


 その時のお兄ちゃんは伝説上の勇者様よりよほど頼りになりました、世界で一番強いのはお兄ちゃんなんだろうと考えていました。


 そうして幼い私を抱き上げてくれたのです! 現在の私が見たら泣いて悔しがりそうですが、当時はそれどころではなくただ単に落ち着いただけなのでした。今だったら興奮してそれどころじゃないですね。


「お兄ちゃん……ありがとうございます……」


 それが当時の私の語彙力の限界でした、当時お兄ちゃんに特別な感情を抱いていなかったのが不思議でなりません。


 私たちは町への道をとぼとぼと帰っていきました。せっかく集めた薬草は私の傷の治療につぎ込んだので帰ったとしても何も持ち帰ることができません。


「お父さんもお母さんも怒るかな?」


「うーん……きっと心配はしているだろうな」


 二人の怒り顔が目に浮かんでいました、当時の私には親に怒られることほど怖いものはありませんでした、今となってはそれさえも懐かしいことです。


「お兄ちゃん! 私たち捨てられませんよね?」


 当時の私にとってはそれが最大の恐怖でした、今ならお兄ちゃん以外はどれだけ嫌われようが構わないんですがね……


 そうして私たちのとても些細な冒険は終わったのでした。


 そうしてようやく帰り着いたとき、ちょうど太陽は地平線に落ちていっています。


 今になって考えればここから私がお兄ちゃんを想う心は始まったのです。


 ――そうして帰宅後


「こら! お前ら町の外に行ったって聞いたぞ! 危ないって言ってたの忘れたのか」


「ひぃ……」


 私がおびえているとお兄ちゃんが口を開きました。


「俺がミントと一緒に外で遊ぼうって行ったんだ、俺が悪かったんです」


「はぁ……しょうがないな……ミントに免じてげんこつ一発で許してやる」


 ごつん


 そう音がしてお兄ちゃんの頭に拳が落ちました。


 それはとても理不尽な話で……何も言えなかった私がとんでもなく恥ずかしく思うのでした。


「まったく、外には魔物がいるって言って聞かせただろうに……ところでユニの服の血は怪我じゃないんだろう?」


「そうだよ、魔物を倒したときの返り血だけ」


「それがせめてもの救いだな、ミントの方は雑な手当だがまあ手遅れになるようなことがなかったのでいいだろう」


「……」


 お兄ちゃんは無言で全ての言葉を受け止めていました――全て私の代わりとして――その姿はとても愛しいものでした。


 そうして夕食後、お兄ちゃんに訊きました。


「なんで私をかばってくれたんですか? 悪いのは全部私じゃないですか……」


 お兄ちゃんはなんでもないことのように答えました。


「妹のことは兄の責任だよ、気にするな」


 お兄ちゃんは私のことしか考えていませんでした、シスコンもいいところですね、ここは今と変わらないのです。


 なぜお兄ちゃんが私を大事にしてくれたのかはまったく分かりません、ただそれがとても良い事のだけはちゃんと分かりました。


 私は母さんとお風呂に入りながらお話をします。


「おかあさん……その……」


 お母さんは私の唇に指を当てて言葉を塞ぎました。


「あの人も分かってるわよ? でもね、大人って言うのはどこかで責任をとらないといけないものなの。だからあの人も力を抑えて叩いたの、知ってる? あの人全力を出したら岩だって素手で割れるのよ?」


 その言葉を聞いて私は泣きました、延々と泣いて湯船があふれそうなほどの涙をこぼしてようやく泣き止んだのでした。


「だからね……」


 お母さんはそれからとても大事なことを言いました。


「せめてあなたは妹でいられる間くらいしっかり甘えておきなさい、私たちにはあまり甘えさせてあげられないからね?」


 そしてお風呂を出てからお兄ちゃんが返り血で汚れた体を綺麗にして出てきたときに思い切り飛びつきました。


「お兄ちゃん! ありがとうね! 大好きですよ!」


「ああ、お前は大事な妹だからな、そんなに気にすることじゃないさ」


 お兄ちゃんはいつも通りに接してくれます、だから私はこう言いました。


「お兄ちゃん、一つお願いがあります」


「ん? なんだ?」


「聞いてくれますか?」


「なんのお願いかくらい教えてくれよ」


「先にイエスかノーで答えてください」


「ああ、分かったよ、大抵のお願いなら聞くよ」


「じゃあお兄ちゃん! 私をお兄ちゃんのお嫁さんにしてください!」


 お兄ちゃんは冗談だと想っているような顔をしながら私に答えました。


「ま、他に相手がいなかったらな」


「約束です! 絶対ですからね!」


 こうして私の長大な人生プランは完成したのでした。


 ――


 そして私は今にいたるまで相手を見つけませんでしたし、見つけようとも想いませんでした。お兄ちゃんが結婚なんてしてしまったらどうなるかと怖くなりましたが、こうして兄妹二人でしっかりと暮らしていけています。


 パタリと日記を閉じてキッチンに向かいます。


「さて、今日はとびきりのを作りますかね!」


 そう、先だって日記に書いたあの日が日付では今日のことになります。


 だからとっておきの記念日にとっておきのごちそうをお兄ちゃんへの愛情を込めて作るのでした。

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