妹と兄の本音
「はぁ……お兄ちゃんが私をもっと必要として欲しいのですが……思うようにはいかないんですね……」
私のお兄ちゃんが振り向いてくれないのはとてもとても悲しいことです。
だからといって魔法で振り向かせるのは違うという程度の倫理観は持っています、お兄ちゃんには自分の意志で私を好きになって欲しいのです。
私は部屋を出てお兄ちゃんのいる部屋へと向かいます、たまには甘えるくらいは許されるでしょう。
コンコン
部屋のドアをノックして返事を待ちます、私たちはこの間の討伐依頼でしばらくギルドに顔を出すなと言われているのですっかり暇を持て余しています。
「おにーちゃん! 可愛い妹が来ましたよ!」
そう言ってお兄ちゃんの返事を待ちます。
「なんだ? 入っていいぞ」
そう答えが返ってきたのドアを開けてお兄ちゃんのいる部屋へと飛び込みます。
「おーにいちゃん! ちょっとだべりましょうか?」
私のいつもの無茶ぶりですが、お兄ちゃんもいつも通りに答えてくれます。
「しょうがないなあ……しかし話すことがあるのか?」
「以前の魔族討伐の思い出でも語りますか?」
私にとっての話といえば基本的にお兄ちゃんと一緒に受けた依頼の話になります。
「しかしなあ……依頼なら話し尽くしたような気がするんだが?」
「では私がお兄ちゃんをいかに愛しているかを語るのでお兄ちゃんはいい感じに相づちを打ってください」
「何が楽しいんだそれ……」
私の提案をすっぱり切り捨てるお兄ちゃんですが、私は気にせず話します。
「最近魔法を使いすぎな気もしますねえ……いい感じにお兄ちゃんが私にバフをくれた話でもしますかね。爆発系魔法は使ってて気分がいいですけどやはり物理攻撃を忘れるのは不安ですね」
実際のところ私は誰にも負ける気がしないのですが、やはり欠点の一つでも無いとかわいさに欠けますからね。
「お前この前力尽くでドラゴン討伐してたじゃん? しかもほとんど物理のごり押しで」
私の欠点を突くのは勘弁してもらいたいものですね……
しかし、それはそれ、これはこれです。
「お兄ちゃんは私の不完全さを理解していませんね、私はお兄ちゃんがいないと何もできない自信はありますよ?」
「そこは自慢するところではないと思うんだがな……」
私のドヤ顔に不平をこぼすお兄ちゃんですが、私にはお兄ちゃんが必要なのです。そのことくらいはちゃんと分かってもらいたいのですが。
「お兄ちゃん、ドラゴン討伐は私たちにとって所詮は通過点なのです。私たちはこの国、いえ世界で一番偉大な存在になる必要があるのです!」
「俺にはそこまで上は目指せないなあ……」
まったく、分かってないですね……法律を作る側にならないと兄妹で結婚ができるように法律を変えられないじゃないですか。
「いいじゃないですか、健康と権力は多いに越したことはないのですよ?」
「自分に忠実だなあ……」
お兄ちゃんは呆れながら微笑んでくれます、そうです! その笑みを私以外に向けて欲しくはないのです! そこを理解してくれないのが残念です。
「討伐ならゴブリンやコボルト辺りが身の丈に合ってるんじゃないか?」
「オークキングだって軽々狩れるのにそんなの狩ったら格というものが下がるじゃないですか?」
私だってその程度の敵をたたくのは簡単です、しかしその辺りの種族は狩るために力より人数を必要になってしまいます。つまり私たち以外に異分子が混じり込むことになる可能性があるのです!
「なんというか……なんでFランクやってるんだろうな?」
「お兄ちゃんに向上心が無いからでしょう?」
お兄ちゃんはもっと向上心を持って上を目指すべきなのにそれをしようとしません、まったくけしからん事ですね。
「俺は平和に生きていきたいだけだからな……強い魔物は強いパーティが狩ればいいだろう?」
「その理屈だと私たちが十分に強いんだから受けるべきだと思いますがね」
私の物言いにも気にすることはなくベッドに身を投げ出しています、ああ、となりに一緒に寝たいですね……
まあそれはさておき。
「Fランクでいることにメリットってあるんですか? 昇級だってできなくはないと思いますよ?」
「高ランクの依頼しか受けられなくなるじゃないか、Fランクの依頼はDランクパーティまでしか受けられないだろう?」
お兄ちゃんは退屈な薬草刈りになにか意味を見いだしたのかもしれませんが、私はまったくもって知ったことではありません。
「ガンガン攻めていけばいいだけじゃないですか? 負ける気はしませんよ」
お兄ちゃんは少し考えてから答えます。
「だってな……ランクを上げるとこの町じゃ受けられる依頼が足りなくなるぞ? ただでさえ低ランクの依頼ばかりなのにSランクなんてめったに出ない依頼を取り合いたいか?」
「それは……」
お兄ちゃんは、そしてどうしようもない言葉を継げます。
「昇級できたとしてこの町を出たくはないんだよ、父さんと母さんの残してくれたこの家と平和な町でのんびりと暮らしていきたいんだ」
「う……」
ズルいですよ……そんなこと言われたら反論できないじゃないですか……
「俺達はあくまで二人の兄妹なんだよ、魔王を倒す勇者でもなければ、人類を滅ぼす破壊神でもない。ただの人間でありたいんだよ」
はぁ……そう言われちゃうとしょうがないですね……
「分かりました、明日からギルドに顔を出せるので薬草採集でもしますか……」
「そうそう、平和が一番……それに……」
「ん……?」
「お前を亡くしたくはないんでな、世界の平和より兄妹の平和だ」
お兄ちゃんはどこまでも私の兄であろうとするんですね……それからもう一歩を踏み出せるのは一体いつになるのでしょう?
そんなことを考えながら、日の落ちてきている窓の外に気がついて夕食を作りに部屋を出るのでした。




