妹、名前をしろしめす
俺達はいつもの朝食を食べ、いつも通りにギルドへ向かう。
そう、何もないいつもの朝だった、それは「怪しいくらいに」何事もなかったので俺は逆に不安になってしまった。
ここでいつも通りにスキル付与とかがあってミントが無茶を言い出すのがいつものことなんだけど……今日は本当に何もないな……
俺は一枚薬草採集の依頼を掲示板から剥がして申請に向かう。なぜかミントとセシリーさんがこそこそと話しているが……
「あの、この依頼をお願いします」
「お兄ちゃん……ちょっと……」
俺はミントに引っ張られながらめったに向かうことのないギルドの奥へと向かった。
「一体何なんだよ!? こんなとこ普通は入れないぞ?」
セシリーさんが真面目そうに言う。
「ここから先は機密事項なので守秘義務を守ってもらいます、ミントさんからは承諾を得ました」
「守秘義務って……」
なんだかとんでもなく厄介な陰謀か策謀かなにかに巻き込まれようとしているらしい。
「俺達はあんまり無茶な依頼は……」
「お願いします! この町の存続に関わるんです」
そう言うセシリーさんの顔はどこまでも申告で、俺達がやらかしたときに「またですか……」と苦笑いしながら呆れているいつもの調子は全くなかった。
「ギルマス、お連れしました」
「ああ、入れ」
ギルマスの部屋なんて初めて見たのだがなんとも質実剛健な作りになっている。非常時には避難先としても登録されているらしいのでこのくらい頑丈な作りなのだろうか。
「さて、座ってくれ」
俺とミントは椅子に座るよう言われて俺は戸惑いながらも座る、ミントは堂々と座っていた、この辺がメンタルの作りの違いというやつなのだろう。
「二人に依頼したい事がある」
「なんでしょう? ここまで引っ張ったからにはそれなりの依頼なのでしょう?」
「ギルマス直々の依頼なんてFランクが受けるものとは思えないんですが?」
俺達がそれぞれ問いかけると強面が真剣な面持ちで今回の依頼を話した。
「まず、依頼内容だが、ワイバーンの討伐だ」
「え!? だってこのギルドにはもっと適当な人がいるでしょう?」
この町が小さめとは言えFから数少ないSランクもいるらしい事は噂で聞いた、値踏みされないように自分のランクを堂々と言うことは少ないらしいが噂になると言うことは一人くらいはいるはずだ。
「いや、「Fランク」の君たちに受けて欲しいのだよ」
ミントが少しむっとした風に顔をゆがめて訊く。
「私たちはFランクですよ? 高レベルの依頼を振って死者が出たら大問題だと思いますが?」
「君たちが死なないことはウチのセシリーからよく聞いている、実力者だと噂だよ」
「しかし竜族の討伐にはキツくないですか? もっとふさわしい人がいるのでは?」
ギルマスも諦めたように話し始めた。
「「Fランク」であるということが大事なのだよ、この町の最低限の実力を現すのがFランクだからな」
その様子だと結構な面倒事が渦巻いているらしい。
「まず、このギルドに魔族が紛れているんじゃないかと噂になっている」
「魔族が!? いやいや気づくでしょう?」
「いや、正確に言うと魔族に与するものだ、人間ということもあり得るんだがな……この町ではいろいろあったので魔王軍が事情を調べているらしいんだ」
「それと俺達の依頼と関係があるんですか? ならその魔族かそれに従っている奴を退治すれば済むのでは?」
「うむ、それはそうなのだがな……なにぶん君たちがFランクで活躍していると噂になってしまってな、ここで一人倒そうと次が来るのは明白なのだ」
話が見えてこない。
「で、俺達がワイバーンを討伐することとなんの関係が?」
「そこだ。君たちには我が町の実力の最低ラインを示して欲しいのだ」
「最低ライン?」
ミントが驚く。
「そう、君たちはこの町で最底辺のFランクとして活動している、君たちがワイバーンを討伐すればこの町の冒険者は誰もが軽々と竜族を討伐できるほどの実力者だと示すことになる」
なるほど、すごく断りたい。
まあそんな俺の事情など気にすることも無くミントとギルマスで価格交渉が始まってしまった。こうなるともう止められない。
「では報酬はこのくらいで……」
「な……それ……少々高くは……」
「コレで威厳を示せるんですよ?」
「うーむ……分かった、その金額を出そう。すまんが貢献ポイントは無しだ、何しろこのくらい「できて当然」のラインを示すためなのでな」
ミントは少し嫌そうな顔をしたがギルマスが袖の下から小袋を渡すと頷いて納得したようだった。
ちなみに俺の意志はこれぽっちも尊重されていない……俺にも権利って無いのかな?
「ではお兄ちゃん! 早速討伐に向かいますよ!」
「はいはい……」
こうして今日も無理筋の依頼をぶん投げられる俺、ちなみにミントは「できて当然」らしく迷い無く俺の袖を引っ張って連れて行くのだった。
――
町の周辺の森、その中の泉のほとりでワイバーンは眠りについていた。
「ではお兄ちゃん、爆発系魔法で吹き飛ばします。……ところでちょっと場所を変えましょう」
なぜかそう言うミントに連れられて開けた場所に出てきた。
「なんでここに……?」
「いいですか、小声でお願いします」
どうやら秘密の話らしい。
「で……ここを選んだ理由って……?」
「右に一人、左に一人、正面に数人がいます」
「な! 魔族がそんなに?」
ミントは楽しそうに続ける。
「いいじゃないですか……まさに私たち向けの舞台でしょう? ……ここでワイバーンを吹き飛ばして連中が帰ったら上はさぞビビるでしょうね?」
この妹はどうやら一番「見栄えのいい」場所としてここを選んだらしい。
「ではお兄ちゃん、バフを」
「はいよ」
――――
力「A]
体力「S]
魔力「S+」
精神力「A+]
素早さ「A-」
スキル「爆発系魔法」
――――
今回は魔力極振りだ、なるべく派手にという希望に応えよう。
「消し飛べ! エクスプロージョン!」
ワイバーンの正面、こちら側に魔方陣が浮き出て超火力が辺り一帯を消し飛ばす。
「GGYYYYYAAAAAAAAAAAAAA!!!!!」
ワイバーンが果たして俺達に気づかなかったのか、気づいても脅威ではないと判断したのかは定かではないが、その命は一瞬で消し飛ばされた。
そして爆発の煙が収まっていく。
「ふむ……連中、皆すごい勢いで逃げていきますね」
「そりゃあこれを見せられたらな……」
俺は仮にも竜の一角を占めるものが存在していた場所を遠い目で眺めていた。
――
そして町に帰る。
ギルドに顔を出す約束だったので一応前払いの報酬とプラスの少しばかりの報酬を受け取りに行く。
どうやら「この安値でワイバーンを討伐する」ような連中がいると見せびらかしたいらしい、まったくもってワイバーンも迷惑だろう。
「セシリーさん、いつも通り討伐してきましたよ」
「はい「いつもの」報酬になります」
ギルドの空気が凍るかと思ったが、俺達兄妹は「そういうもの」と認識をされているらしく驚く冒険者は皆見覚えのない顔だった。
きっとこのうちいくらかが魔族の上司に「あの町はヤバい」と伝えるのだろう、なお、報酬は「表向き」薬草採集と変わらないものだった。
そして翌日、見知った顔しかいないギルドに顔を出し、ギルマスに報告する。
「ハハハ、よくやってくれた! 見知らぬ顔が数人いると思ったら今日は顔を出さん! つまりはそういうことなのだろう!」
恰幅のよい腹から大声で心底愉快そうに笑うギルマス。
にこやかなミントが少し怖い。
そうして針のむしろ状態だった俺達だが、気前よく追加で報酬として金貨数枚を渡されギルドを後にした。
念のため数日の生活費は与えるので、薬草採集のような「本当に」初心者向けの依頼を受けないで帰ってくれと言うことだった。
――
帰途についた俺達は魔族について少し話した。
「さすがにこの町はヤバい奴の集まりって噂になってるでしょうね! フフフ!」
「こんな形で有名になりたくはないんだが……」
「お兄ちゃんはもっと出世欲を出して! とはいえ、数日間はおうちで待機ですね」
「いいだろ、結構な金額にはなったんだから」
「そうですね」
それはそれとして……
「ちなみに本当の報酬はいくらだったんだ?」
俺の問いかけにミントは明るい笑顔で首を振った。
「ないしょです!」




