妹にドラゴンが攻めてきたぞっ!
「お兄ちゃん、今日は平和すぎると思いませんか? なにか起こって欲しいですね」
そうこぼすのは俺の妹だ、コイツが厄介事を持ち込むときは決まってこんなことを言っている。
さて、今日も薬草でもむしっていくかな……
そんなことを考えながら依頼の掲示板から安全そうなのを探していると……
「皆さん! 魔物の大群が出たそうです! 至急討伐お願いします! 他の方はともかくユニさんとミントさんは必ず参加してください!」
とまあ、こうして俺の日常は破られていくわけだ。ご丁寧に俺達を指名で参加させるとかFランクという冠を無視しすぎじゃないだろうか?
「あの……俺達は参加必須なんですか?」
そうセシリーさんに問いかけると……
「当たり前じゃないですか! というかここの有象無象じゃ勝てる見込みがないからあなたたちに頼んでるんですよ!」
みんな散々な言われようだが不平の一つも出ていない辺り、俺達への依存度がうかがえるというものだろう。
なお、俺達が緊急の依頼を受けたのを見計らってちゃっかりと受付に殺到する冒険者達だった、ちなみにその人達の中にはほぼ丸腰の人や、酔い潰れて足下もおぼつかない人も含まれている。
どうやら皆さんおこぼれには目がないようだな。
「さて、行きますよお兄ちゃん!」
「はいはい……」
どーせ選択肢など無いのだろう、だったら突っ込むしかないか……
「ちなみに敵はいかほどですか?」
ミントがセシリーさんに問うとシンプルな答えが返ってきた。
「ざっとマッドベアが数十匹、イビルハウンドが百匹以上、それらを追い立てているフレイムドラゴンが一匹ですね」
「まさか魔物が出てきた理由って……?」
「そうですね、お察しの通りフレイムドラゴンが余所から来たので魔物を追い払ってそのしわ寄せが来た感じですね」
マジか……ドラゴンは相手にしたくないなあ……命がいくつあっても足りないだろう。
しかしミントは無慈悲に依頼を引き受ける「大船に乗った気でいてください!」とのことだが、その船をこがされる役の俺の意志は完全に無視されていた。
「なあ……本気でドラゴン相手にする気か?」
「当たり前じゃないですか! ドラゴンを倒したら結構かっこいいじゃないですか!」
「ですよねー!」
もうやけくそになって戦う決意をする、どうせ町に襲いかかってんだから逃げる場所なんて無いんだよ!
「ではお二人とも、魔の森に向いて迎撃お願いしますね」
「はい!」
「ああもう! やってやるよ!」
そう言ってドラゴンやら熊やらオオカミやらを叩き潰すために魔の森の方へ町を出ていく。
森の方へ向くと砂煙を上げながら近づいてくる集団がうっすらと見える。
「ミント、バフ行くぞ!」
「はい!」
妹バフを使用します
――――
力「S]
体力「S+]
魔力「S」
精神力「A+]
素早さ「A」
スキル「爆発系魔法」
――――
スキルを削って防御力と魔力に振り分ける、あの数を倒すなら爆発させるのが一番早い。
本当なら原子核反応制御のスキルが欲しいところだが、あの化け物じみたスキルはロックされているので使用できない。
多少は成長しているようだがこのバフにも限度はある、フレイムドラゴンなら冷気耐性は必要ないだろう。他の魔物を相手にするのに体力を強化した方がいい。
「お兄ちゃん! FAEぶっ放して片付けますか?」
「だな、それが一番効率がいい、ただドラゴン用の一発は撃てるようにとっておけよ?」
「りょーかい!」
ミントの前方に魔力の塊ができる、それは赤い炎から白い炎へと変わっていき目がくらむような光を出し始めた。
「魔力チャージ開始!」
炎だったものが光の塊になっていき、それは辺り一帯を焼き尽くすほどの球になった。
魔物は続々と近づいてくる、射程範囲まで5,4,3,2,1……
「撃て!」
「F・A・E!」
火球は光の尾を引きながら魔物達の中心部に飛んでいき……
ギュン……ちゅどーん!!!!!!
大きな炎の嵐が吹き荒れ、草原だった場所には草一本残っていない。
ミントは迷い無く敵のところへ飛び込んでいって生き残りの熊とオオカミ十数体の首を搔き切る。
蹴一本たりとも残さず消えた同胞たちのところへ死体を残した残りの連中が旅立っていった、いくらなんでも相手が悪かったな……
俺も後を追いかけて死体の山の中へ飛び込んでいく。
「お兄ちゃん! 汚れたのでヒールを」
「はいよ、キュア!」
ミントの服から血のシミがどんどんと消えていく、辺り一帯は誰が倒したのかも分からない死体と焦げ跡しかなかった。
「以外とチョロいですね?」
「まだドラゴンが……」
「グルアアアアアアアアアア!!!!!」
「来たか!」
「よし! 潰しますよ!」
どでかいフレイムドラゴンに突貫していくミント、ドラゴンは知性を持たない種なのか俺達への憎悪をむき出しにしていることは分かるが、話し合いのできそうな相手ではなかった。
「えい!」
ざくりとドラゴンの皮膚にナイフが刺さる、切れ味は普通だがバフでえげつないことになった力で無理矢理突き刺して引き裂く。
「ギャアアアアアアア!!!」
「チッ!」
仕留め損ねたミントが悔しそうにドラゴンの首筋から飛び退く。
「いけるか? 意外としぶといぞ?」
「まったく問題ないですね! もうちょいで動脈を切れたのですが……次はうまくやります!」
「ミント!」
俺はミントに魔法を付与する。
――
妹に「冷却魔法」を付与しました
――
「首に刺してから使え!」
「分かりました!」
そしてミントは再びドラゴンに飛び乗り、思い切りナイフを首筋に突き刺す。
「フリージング!」
冷却魔法でナイフから冷気が伝わり、フレイムドラゴンの灼熱の肌をみるみる冷やしてもろくしていく。
「でりゃあああああ!!!!」
ザシュ……ドン
大人数人を超えるサイズのドラゴンが倒れ伏した、血が出ていないことを考えるに首筋が凍ったので血液が止まったのだろう。
「よし……こんなものですかね」
「ああ、怪我はないか?」
「ああ、そこのトカゲの血がついたのでヒールしておいてもらえますか?」
「キュア!」
あっという間にミントの着ている服についていたドラゴンのどす黒い血が消えていく、回復魔法って便利だなあ……いや普通の効き方じゃないらしいけどさ……
「うおおおおおおお!!!!!」
とまあ、ドラゴンが倒れたのを見て全力で化生してくださる皆さん、弱い敵には強いを地で行く人たちだった。
「よし、帰るか」
「ですね」
冒険者の皆さんはドラゴンの死体から素材剥ぎ取りに必死になっているので俺達を気にかけることはなかった。
ドラゴンの素材は貴重ではあるのだが、どうにもミントが使うには向いていない……というか効率が悪い、コイツは普通の武器を力業で使って、あっという間に使い潰してしまう。大抵の武器は消耗品という考えなので豪華な武器は無駄な威力でしかない。
そうしてギルドに帰り着く、「お疲れ様でした」と出迎えられる。
「ドラゴンはサクッと倒しておきましたよ! さあランクアップを!」
そう言うミントに対し、申し訳なさそうに中くらいの革袋がドサリと置かれる。
「今日のところはそれで許してください! ギルマスがFランクをかり出したなんて知られたら責任問題になると必死にお願いしていますので……コレはギルマスのポケットマネーなので受け取っていただけませんか?」
はぁ……どうせこうなると思ったんだ、俺達にまともな依頼なんて来るわけがない、結局リスクの塊のような依頼しか来ないのだ、数字にならないならせめてお金だけでも貰っておこう。
「わかりました」
「しょうがないですねえ……ギルマスには釘を刺しておいてくださいよ!」
そう言って俺達はギルドを後にするのだった。
なお、当面の間この町は実力者の集まりと評判になったらしいが、それについては知ったことではないのだった。




