妹とゴーレムと教授
「ゴーレム討伐依頼?」
俺は突拍子もない依頼を見て首をかしげる。なぜかEランクの依頼となっていたからだ。普通のゴーレムならCランク以上になるはずだ。
「ほう……私たちでもゴーレムの討伐ができるんですか」
ミントは嬉しそうに依頼書を眺める。
「あ、それ討伐依頼じゃないんです」
俺達がその依頼書を熱心に見ているのに気がついてセシリーさんが説明をしてくれた。
曰く、近場の山の洞窟にゴーレムが住み着いているらしい、しかも誰にも危害を加えていないので、危険生ものなのか調査をして欲しいということだ。
「誰にも危害を加えないゴーレムですか……珍しいですね、魔族が作ったのではないものなのでしょうか?」
「現時点で一切不明ですが襲われたという報告がないのでEランクで出してるんです。危険はないと思いますが受けますか?」
ふむ……安全な依頼だろうか? そもそもゴーレムの目撃例があるということは出会っても生還できているということだ。魔族が人を襲わせる目的ならもっと暴れているだろう。
「お兄ちゃん、気になるのでこの依頼受けていいですか?」
俺は少し考えた後に答える。
「そうだな、安全そうな依頼だし受けるか」
「はい、確かにお二人が調査依頼を受領したことを確認しました」
一ランク上の依頼だが戦闘宇する必要すら無いのは悪くない、うまくいけば野良ゴーレムが一匹いるだけと言うこともあり得る、美味しい依頼だな。
そうして俺達はゴーレムの目撃例のある山のふもとの洞窟へ向かった。
――
洞窟を前にして、俺達はあっけにとられていた。洞窟に魔法で灯りがともされていたのだ。
「入って来いって事でしょうか?」
「罠……だと思うか?」
「うーん、怪しいことは怪しいですけど、罠ならもっと自然な感じにするんじゃないですか? これは目立ちすぎでしょう」
「それもそうだな、罠にしては不自然すぎる、念のためバフはかけとくぞ」
――――
力「A」
体力「S]
魔力「A」
精神力「S]
素早さ「A」
スキル「火属性魔法、爆発系魔法、冷気耐性、物理無効」
――――
奇襲に備え、念のため防御力を上げておく、ミントの耐性を考えたら心配はないだろう。
そうして準備を整えていざ洞窟の中へと入っていく。中は……
人工物にあふれていて明らか人間が手を加えたことは明らかだ。魔法による照明、表に比べて暖かいことから空調魔法も使われている可能性が高い、敵意がないことを祈るばかりだった。
少し進むとドアが目の前にあった、入るべきだろうか?
しかし目の前のドアには取っ手がなく、横に数字の書かれたボタンが並んでいた。
「これで開けるみたいですね」
「しかしさっぱり分からんぞ」
俺達がドアの前で悩んでいると内側から声が響いた。
「あの……お客様でしょうか?」
俺は思わず答える。
「はい、この洞窟とその中にいるゴーレムの調査依頼できました、何かご存じでしたら教えてもらえませんか?」
「はい! 教授に訊いてみますね」
元気のいい声が聞こえてきた、「教授」? だれだろう。
俺達がその場で待っているとドアがスライドして開いていった。
なかから女性が一人出てきた。
「やあ、初めてのお客様だね? あまり歓迎もできないが質問には答えるよ」
そう気さくに言うのだった。
内部に招かれるとテーブルと椅子があり、そこで暮らしているのは人であることに疑いはなかった、ではゴーレム騒ぎは?
「座ってくれたまえ、ゴーレムのことだろう?」
「はい、そうです! あなたは一体何者なんですか? 魔族って感じでもないですけど」
ミントの直球の問いに教授は平然と答える。
「私は人間のようなゴーレムを作り出そうと考えていてね、なにぶん町の中だと気味悪がられるのでね、こうして少し離れて生活しているわけだよ」
「教授、お客様、どうぞ」
ドアが開いたときに案内してくれた女性が紅茶を俺達の前に置いてくれる。
「ところで君たちに聞きたいことがある」
「なんでしょう?」
何を訊くのだろうか? 怪しいところはないし、変わり者が一人住んでいたということで済んでしまう話ではないだろうか。
「君たちはここで「ゴーレム」を見たかね?」
「いいえ、あなた方「二人」しかお会いしていないですけど……」
「そうかそうか」
クックックと教授は笑う、そしてゴーレム事件の真相を語った。
「ちまたで噂のゴーレムとは彼女だよ」
そう言ってとなりの女性を指さす。え? この人ゴーレムなの!?
「ちょっと待ってください! この人がゴーレム? 噓でしょう!?」
「いやいや、彼女はれっきとしたゴーレムだよ。おい、手を取って見せてあげなさい」
そう教授が言うと彼女は自分の片腕をもう一方の腕で引っ張る。スポンとその腕は体から引っこ抜けた。
俺達が驚いていると教授は愉快そうにいう。
「分かってもらえたかな? もういい、その手をはめておきなさい」
そう言うとゴーレムさんは腕をカポンと体にはめた。まったく生きているのと変わらないように見えるが、あきらかに人間にはできないことだった。
「しかしなぜこんな事を?」
教授は遠い目をして答える。
「娘を亡くしてね……ゴーレムでもいいからそれを取り戻そうとしたんだよ」
「済みません、無神経でしたね」
「いや、気にすることは無いよ。もうその当初の目的もすっかり忘れてしまったようなものだ。今はただ人間に近づけることだけを考えているんだ」
なんでもないことのようにいうが、その目にわずかな狂気が宿っているのだった。
「まあ、なんだね。私の作ったゴーレムが人を傷つけることはないから安心してくれ。多分目撃されたのは調整中に体を大きくしたときの話だろう、あの時は見た目もゴーレムだったからね」
この教授を放っておいていいのだろうか? 俺がさっぱり算段をつけられず困っているとミントが言った。
「教授さん、死んだ人は生き返りませんよ? 素直に町で暮らしませんか?」
その不躾な質問に博士はシンプルに答えた。
「やめておくよ、もう私は娘の顔すら覚えていないんだ。ただ人間のようなものを作りたい一心でね、すっかりそっちが目的になっているんだ」
「本末転倒ですねえ……」
「我ながらそう思うよ、なにぶん研究者のサガでね。作ることができるなら作ってみたいのだよ」
そう言って紅茶を一口すすり、俺達に言った。
「ここでは変わり者が済んでいるとだけ伝えてはくれないだろうか? 謝礼金は多少だが支払うよ」
「危険はないんですね?」
「ああ、私がこうして平気で生きているのが何よりの証拠だろう?」
俺達はそうして洞窟を後にした。一応教授には「実験は目につかないところでやってください」と念を押してギルドには異常なしと報告しておいた。
おそらくあの場所で再び目撃されたとしてもそれがゴーレムか人間かの区別はつかないだろう。だから問題なしと報告を上げておいたのだった。
しかしミントがそれに同意したのは意外だった、コイツは何か成果を上げるためにそのまま報告したがるかと思っていたのだが……
「お前にしては珍しいな、事なかれ主義に目覚めたか?」
「まさか! でも……」
「?」
「きっとお兄ちゃんがいなくなれば私も同じ事をするでしょうからね、多分あの人はまだ娘さんのことを忘れていませんよ、私はその思いを尊重しただけです」
そう言うミントの横顔は優しさを湛えているのだった。




