妹、渋々入隊する
その日、俺とミントは部屋でゆっくりとした朝食をとっていた。
とまあ何事もないように言っているが当然のように例外は入ってくるものだ、その日は一人の軍人がそれだった。
朝食を食べている採集に玄関のドアが強くノックされた。
「はーい」
ミントは口元を拭いて玄関に向かう、そこには一人の屈強な男が立っていた。いかめしい面構えをしながらミントに突然頭を下げた。
「!?」
さすがのミントも初対面の相手に頭を下げられて困惑していた。ちなみに俺は面倒なことになる前に部屋へと逃げ帰ろうとしている。
「お兄ちゃん!」
呼ばれてしまっては逃げるわけにも行かなくなり、しょうがなく玄関へと出て行った。
「なんでしょうか? というか取りあえず頭を上げてくれませんか?」
いきなり腰を六十度折り曲げられても困る、というかその体勢では話ができない。
その男は今気づいたという風に体を伸ばして俺とミントをじっと見ている。
なんだろうな……厄介事であることは確かなんだけど、こういう断りづらい系の厄介事はできれば勘弁して欲しい。相手がわがままなだけなら、要求をはねつければそれで話が終わるんだけど……
「いや、申し訳ない。私は魔王討伐軍騎士団分隊長をしているものだが……君たちが高ランクの魔物を平気で討伐している兄妹だろうか?」
否定すれば話しが済むな、ここは知らぬ存ぜぬで通そう。
「はい、私たちが噂の兄妹パーティですけど」
おいいいいいいいい!!!!! 何勝手に情報提供してんの!? 面倒事に自分から首を突っ込んでいくのやめてくれよ……
とはいえもう言っちゃったものはどうしようもないのテーブルについてもらうために中に招き入れる、玄関でこの人が頭を下げているともの凄く目立ってしまう。
「で、用件は予想がつきますけど一応聞いておきます」
「お兄ちゃん! 失礼ですよ! なんか重要な事実かも知れないじゃないですか!」
その重要な事実だったら困るから要件を始めに聞いて出すカードを選んでるんだよなあ……
その男はためらいなく俺達にもう一度頭を下げた。
「どうか、どうか討伐軍に入隊して欲しい! 戦線が停滞して皆疲弊しきっているんだ。正規入隊とは言わないまでも予備隊としてでもいいので名前だけでも登録してもらえないだろうか」
やっぱりね、用件は予想通りなのだが、静かに暮らしたいのでお断りしよう。
「申し訳ないですが俺達は普通の兄妹なんですよ? 魔王軍と戦えるわけないでしょう」
ギルドのスコアには非正規の討伐はカウントされない、俺達がいくら狩っていようが調べても証拠はまったく出てこない。
「ギルドの受付嬢から大量の非正規の討伐をしていると情報を得たのだが……」
「根も葉もない噂ですね」
俺がすっぱり切り捨てると男もカードを一枚切った。
「あのセシリーとかいう受付嬢も、我々の隊から一番の器量よしと縁談を進める権利をやると言ったら目の色を変えて君たち二人のことを事細かに話してくれた、彼女の熱心さから嘘をついているようには思えないのだが?」
何やってやがるあの行き遅れ! 台無しじゃねえか!
「お兄ちゃん、観念した方がいいんじゃないですか?」
ミントの言葉に俺も諦めた。
「はぁ……そうですよ。ブラッドベアやらスノーウルフとか、最近だとゴブリンメイジを狩りましたね」
「我々にはそれだけの戦力となれば十分なのだが、考えてもらえないだろうか?」
これくらい誰でも倒せるんじゃないの? というかこのレベルで魔王軍と戦ってんの?
俺は魔王軍がいつまでたっても討伐されない理由の一端を見た気がした。
「まあ、お兄ちゃんはやりたくないようですけど、私は一つ条件を飲んでくれれば常時待機の正規隊員じゃなく、非常時のみの予備隊なら協力もやぶさかではないですよ? まあ条件はありますが……」
男も顔を上げて希望を見つけたような目をしている。だが俺は知っている、コイツがただで厄介事に首を突っ込むことがないということだ。自分から突っ込むときも何らかのメリットは計算しているはずだ。
と考えていると、ミントが男に耳打ちして部屋の隅でこそこそ話をしている。
「……で……できるように……」
「……さすがに……こんは……」
「……断りますよ?」
「む……わかった」
何やらひそひそ話をしばらくした後の待つ机に二人でやってきた。
「お兄ちゃん! この任務受けましたから!」
「ご協力感謝する!」
なにやら義務感にかられた風なことを言っているが、絶対にろくでもない裏工作をしているのが見え見えだった、済んだ湖でもここまであからさまには透けてないんじゃないかというスケスケの裏工作だ。
「ではギルドカードを出してくれ、非常時に招集できるように改変しておく」
俺達が二枚のギルドカードを男に渡すと、男は魔法のスタンプを押し、カードには機能が拡張されたことを示す文字が追加されていた。
『魔王討伐予備隊』
その文字が片隅に表示されていた。
「使い方は分かると思うがギルドの招集時と一緒だと考えてくれればいい、では貴殿らの勇敢な申し出感謝する!」
言うが早いか家の前に止めてあった馬に乗って駆けていった、結局あの人の名前すらも聞いていない。
「なあミント、何を約束したんだ?」
俺が条件について聞いてみると『秘密』の一言で何も教えてくれなかった
――王宮にて
玉座で偉い人が先ほどの男からの報告を受けている。
「なるほど、強き者が協力してくれるのは心強い……じゃがこれは……」
「王よ、彼らはきっと戦力になります! この条件で引き受けていただいたのでどうかそれを預かってください」
「確かに例外を認めるのは初めてではないがの……こんな例外は初めてじゃよ、まあよい、戦力になってくれるならこの程度はお目こぼしをしてやろう」
「感謝します!」
そうして王様に魔王討伐のあかつきには一枚の書類が受理される運びとなった。
「強い者というのはどこかおかしい者なのかのぉ……?」
そう言って『婚姻届』をお付きの者に渡して部屋へと帰っていくのだった。




