妹と奇妙な依頼
俺は日記を書いている、妹についての日記だ。
毎日書いているわけではないが、アイツと一緒にいるとなんだかんだと書くことができてしまう、望む望まざるとに関わらずだ。
昨日の討伐依頼では珍しく加減をして普通の討伐ができたかと思っていたら、突然出てきたおおなめくじに気持ちが悪いという理由で魔法をぶっ放して討伐対象のゴブリンごと消し飛ばした。
「お兄ちゃん……ごめんなさい」
素直に謝られたら許すしかないじゃないか……妹に甘いということに自覚はあるのだが、どうにも両親を亡くした妹のたった一人の家族ということでついつい甘やかしてしまう。
たまには叱るべきなのだろうがどうにもその一歩を踏み出せない。命の危険があることをすればもちろん叱るつもりなのだが、俺のバフと付与のせいで、ほぼ命の危険はないと言っていい。
「お兄ちゃん、晩ご飯ですよ?」
「ああ、今行く」
俺は食事がまだだったことを思い出しキッチンへ向かう。
夕食はシチューだった、いつものように文句の付けようがないほどのおいしさだった。
「なあミント、あんまり無茶はするなよ? 明日は依頼を受けにいくけど、危険のないものにしような?」
「お兄ちゃんのチキン……」
小声で言ったことは聞こえなかったことにしよう、そして明日こそ、地道で安全で堅実な依頼を受けようと決意したのだった……
――
とまあ、そんなことを考えていたのだがいつも通りにミントはトロルやギガリザードといった大物の討伐依頼ばかり持ってくる。
「頼むから安全なのにしてくれ……」
俺もこうしているとキリがなさそうなので依頼掲示板を眺めに行く。
「こっちは……薬草採集、でも目的地にベビーケルベロスが現れることがあると……」
注釈を見ていないと死亡の危険がある依頼が平然と低ランクの依頼に混じっている、注釈があるだけマシとも言えるがそういった危険を冒す気はない。
「お、魔力試験用の素材採集か、珍しいな」
俺はその依頼書を眺める、特殊な毒草の採取、群生地には毒草ばかりなので魔物も近寄らないと書いてある。
「ミント、これどうだ?」
俺はその依頼を差し出して様子をうかがう。
「ふむ……」
そうして少し考えてから重い口を開いた。
「良いんじゃないでしょうか、毒草の採取とは薬草採集とはまた違った趣がありますね、新しいことに挑戦するのは良いことです」
こうして俺たちはその依頼を受けて出発したのだった。
目的地は山の麓の森、大量に生えている場所の地図付だ。しばらく歩くと開けた場所に出た、依頼書に書いてあったとおりの毒草が大量に生えていた。
「さて、さっさと刈り取って帰るか」
「そうですね」
ざっくざっくとナイフで刈っていると突然山賊の集団がやってきた。
――
妹バフを私用します
力「A」
体力「AA」
――
見た感じ統率も取れていないようだしこれだけでも十分だろう、魔法耐性は必要ない、魔法が使えるなら山賊なんて割の良くないことをする理由が無いからな。
「おう! お前ら誰に断ってここのパフィン草を刈ってるんだ! 俺様を取り締まりにでも来やがったのか!」
「え、ただ普通に生えている草を刈っているだけですけど……」
「はぁ……またか……良いかお前ら、この草は麻薬成分を含んでいる。その事に気づいた連中が最近適当な理由でここから盗んで行ってるんだ、どうせお前らもそいつらに雇われた口だろう? 金払いが悪いわトラブルになったときに依頼を受けたやつの責任にするわでろくな依頼じゃないぞ?」
麻薬……なるほど、群生していたのではなく育てていたのか、それならここに雑草が少ない理由も分かる。
「その話はどこまで本当だ?」
「全部本当だよ、最近は直接取りに来ずお前らみたいなのに依頼しているから正直な事情を話して帰ってもらってるんだ、殺しても次が来るのはわかりきってるからな」
「ミント、葉っぱを一枚もってみてくれ」
ミントのもっている葉を妹鑑定で判別する。
――
名前「パフィン草」
依存性のある毒を持ち危険物にしていされている
使用、所持しているだけで重罪となる
――
「どうやら本当みたいだな」
「俺は無駄な殺しはしない主義でね、たまに俺の言葉を信じず刃向かってくるやつもいるが、お前さんはいくらかは話が通じるようだな。
「おかしいと思ったんですよ! 依頼金が毒草とはいえ採集依頼なのに金貨で払われるとか不自然に高かったですし、引き渡しも夜中に行うってなってましたし」
「だったら始めにそう言えよ……」
「とにかくだ、ここにあるモノは兄ちゃん達が持つべきじゃないものだ、諦めてさっさと帰りな」
どうやらこの山賊も戦闘と略奪を好んでしているわけではないらしい、しかしよくまあこれだけ育てたモノだ……
「なんに使う気なんだ? 場合によっちゃギルドへの報告が必要だぞ」
一応違法な品なので報告する理由にはなる。
山賊はいいにくそうに答えた。
「…………だよ」
「え?」
「女房と子供がこの草にできる花が好きだったんだよ! 当然良い暮らしなんかさせてやれなかったが、毎年この草の花の束を持って帰ると喜んで家に飾ってたんだ……」
「しかし二人ともこれが違法なモノだとは知らないのでは」
「はん! どっちももうこの世にいないんだよ! 俺は墓に供えて家に飾るために育ててるんだ、毎年二人の命日頃にちょうど花が咲くんだ」
重い話だった、結局この人もこの世にもう居ない人を思って育てているらしい。
「一応聞いておきますがご自分で使用は?」
「使わんよ、コイツのやばさはよく分かっている」
俺は少し悩んでから答えを出した。
「ここにあると困るのでちょっと移動させて良いですか?」
「え? どうやってこの量を……」
「ミント、ストレージを解放する」
「はーい」
ドサリと地面ごと亜空間に吸いこまれていった、跡地にはくぼんだ跡だけが残っていた。
「おい! 何をするんだ!」
「まあまあ、家まで案内してくれますか?」
「調子が狂うなあ……」
そうして少し奥に行ったところに山賊の家はあった、森の中の日だまりに木製の家がこぢんまりと建っていた。
「じゃあここに出しますね?」
「出し入れ自由かよ……ギルドの連中もおっかないなあ」
ドスンと日だまりの中に地面ごと削り取ったパフィン草が置かれる。
「とりあえずここなら大丈夫でしょう、ただ……」
「ああ、俺は略奪はやってないよ、基本的にはあそこに入らなきゃ人と関わらないように時給自炊で暮らしてんだ」
「そうですか、ギルドには目的地には生えていなかったと報告しておきます」
「ああ、世話かけたな」
そういって俺たちは帰ることにした。家の横に小ぶりな岩が二つ置いてあったがそれが何を意味しているかは明白だったし、それについて言及することはなかった。
――
そうしてギルドに帰った後、自生はしていなかったという報告で依頼は終わった。
なお、その報告から怪しんだ警ら隊が依頼主の家を捜索して禁制の薬物が結構な量見つかったらしい。
俺たちはせめてあの人が静かに思い出に浸って生きていけることを祈るのだった。
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