妹はカレーを作る
「お兄ちゃん! 今日は新しい料理を作ろうと思います!」
ドヤと胸を張る妹に対して、どういった顔をすればいいのか分からない。
「ええっと……新しい料理って?」
ミントは自信満々に語る。
「なんでも東方で伝わる「カレエ」という料理があるそうです、今日はその材料のスパイスが手に入ったので作ろうと思います!」
なるほど、新しい料理か、珍しさはあるな。美味しいかどうかは知らないけど。
「俺も何か手伝おうか?」
「いいいえええええ!? 結構です!!! 料理がチェレンコフ光を発するような光景は見たくないので!」
さらりと失礼なことを妹に言われてしまった。俺って料理が下手なんだろうか?
ミントが肉を焼いて野菜を炒めている、いい匂いが漂ってくる。
「うまそうだな」
自慢げな答えが返ってきた。
「そうですよ! 何せ愛情がスパイスですから!」
そのスパイス、クッソ甘そうだなあ……
そんなことを考えているとタマネギが薄茶色になってきた。へえ、そうやって作るのか、こがしてるのかと思った。
「どうですお兄ちゃん! 今日は期待できるでしょう?」
「ああ、今日「も」期待できそうだな」
「え!? 今日もって……」
「いつだってお前の料理は美味しいからな」
ミントが顔を真っ赤にして俺の方を向く。
「つつつつまり!? お兄ちゃんは私の手料理を一生食べ続けたいと!? それは大胆ですね!? でも嫌いじゃないですよ!?」
「落ち着けって、いつも料理してくれてんのには感謝してるんだよ」
誰かが作ってくれた温かな料理というのは良いものだ、それがいつでも食べられるなんて嬉しいことは無いだろう。
「つまりこの先も末永く私の料理が食べたいと言うことですね?」
「なんか論理の飛躍が……まあいいや」
俺は思考を断ってできあがる料理について考えていた。
黄色いスパイスや赤いスパイスを入れているが果たしてどんな料理ができるのやら……?
「おにーちゃんはーわたしのものー……らんらん」
なんだかとても嬉しそうに料理をしているのでそっとしておこうか。
あれ? パンを焼き始めたな?
「今日の夕食はパンもつくのか?」
「ああ、コレにカレーをつけて食べるのがしきたりらしいですよ? 今日はそれにならおうかと思って」
なるほど、朝食をパンだけで済ませることのある俺達にはもう一品つくと言うだけで豪勢に感じるな。
しばしコトコトと沸き立ったお湯で炒めたタマネギと肉と各種野菜を放り込んで煮込んでいる。
よく煮たところでスパイスを入れるとふぁーっと香りが部屋中に広がった。
「食欲をそそる匂いだな」
「そうでしょうそうでしょう! 私が先に屋台で味のチェックはしていますからね、美味しいですよ!」
なるほど、味が実際に分かっているならマズくはならないな。
「ちなみにどんな屋台だったんだ?」
「なんか香辛料の匂いを漂わせる屋台でしたね。あ、店員さんはモブです」
なんか余計な情報が入っている気がするが、ネームドを増やさないというミントの方針なのだろう。
俺が名前を知らない人間はあまりに多い、ギルマスだって顔とギルマスだっていうことは知っているが名前を知らなかったりする。
「はいはい、お兄ちゃん! 余計なこと考えてないで食べましょうか!」
俺の目の前には平たいパンと黄色っぽいねっとりしたスープ状のものが並んでいた。
「へえ、変わった料理なんだな」
「まあ、この辺じゃ見ませんからね、大陸の東側だと割とポピュラーらしいですよ?」
「へえ、東洋の料理なのか」
まだ見ぬ世界はあまりにも広い、俺の知らないものがまだまだたくさんあるのだろう。
でも現在の俺の限界はこの町の依頼程度で手一杯だった。
それにできればミントには普通の生活をさせてやりたい。
俺のヒールで直るからといって無駄に怪我をさせたくはない、そんなわけで遠出は基本的にしないことにしている。
「お兄ちゃんといずれは冒険に……おっと魔王軍討伐が先ですかね? ちょろそうですけれど」
魔王軍をチョロいと豪語するミント、こんなことを言うとお前は本当の恐ろしさを知らないんだと訳知り顔で言う奴がいるが、この町にはミントのバーサーカーぶりが噂で広まっていて、「実は魔王より怖いんじゃないか」というあらぬ噂が立っていることを俺は知っている。
もっとも当人はまったく気にする様子もなさそうだが……
「ほらほら、食べましょう! いただきます」
「いただきます」
パンをちぎってスープにつけて食べる、辛みとうまみが口いっぱいに広がる。
「うまいな」
有り体な言葉しか出てこない、表現力があればもっとうまい言い回しを考えるのだろうが、俺には単純なその一言しか出てこなかった。
「そうでしょう? 手間をかけた甲斐がありますね!」
俺は黙って食べ続けていた、塩が比較的貴重なのでこのように辛みのある料理は貴重だった、久しぶりに存分に味わいながらパンとスープがつきるまで食べ続けた。
「お兄ちゃん? 私と一緒に居る限りはおなかいっぱいに食べさせてあげますからね!」
「ありがとう、ハハ、できれば一生一緒に居たいくらいだな」
俺が軽口を叩くとミントが食い気味に俺の発言にのってきた。
「おおおお兄ちゃんがデレた! 私と一生一緒に居たいって言った! くっ! 記録魔法を使えないのが悔やまれますね……ですが私の心にはしっかりと石版に刻むよりも遙かに確かに記憶しておきますからね!」
「ああ……」
言葉もない、一言でここまで喜べるものだろうか?
「お兄ちゃんと私のバラ色の人生設計が! ここに完成しましたね!」
「おーい……」
「は! 私の妄想でお兄ちゃんが見えているのでしょうか?」
「いや、俺は確かにいるよ! おまえなんかトリップしてたぞ?」
ヤバいお薬を決めたごとくトリップしていたミントを正気に引っ張ってくる。
「はあはあ……お兄ちゃんのプロポーズについ意識が持って行かれてしまいました、大丈夫です! 私は正気ですから」
正気なら正気でどうなんだと思わなくもないがひとまず元に戻ってくれたのでいいだろう。
「ではお兄ちゃん! 約束ですからね!」
「何日覚えてるだろうな?」
「私が毎日再演してあげましょうか?」
「恥ずかしくなるからやめてくれ」
「では私とお兄ちゃんはずっと一緒ですからね!」
こうして食事が終わったのに俺達はテーブルから離れられないのだった。
ピコーン
――
妹との絆レベルが上がりました
――
ああまた面倒なことになるんだろうなあ……と俺はその謎の声を聞きながら諦めのため息をついたのだった。




