妹と即死魔法
今日もいつものようにスキルを覚えた、最近イベント多かったからな。
ピコーン
――
スキル「キル」を妹に付与することができるようになりました
対象の運のレベルによって確率が変動する即死魔法です
当スキルはテスト仕様であり、スキル効果が変更されることもあります
――
「やっばいのが来たなあ……」
いつもいつもアレなスキルを手に入れるとは思っていたが、それにしても今回は強烈だ。
ていうか即死魔法って……怖っ!
テストしようって声が響いたし一時的なものだろう、ヤバいものは踏まないのが基本の俺からすればコレを無視するのは当然と言える。
「お兄ちゃん! また何かスキルが手に入ったでしょう?」
「え!? なんのことかなー?」
俺は知らんぷりを決め込む、さすがにこのスキルはマズい、後先考えないミントに付与したらどうなるか分かったもんじゃない。
「ほんとかなー? あやしいなー?」
めっちゃ怪しまれているが妹には分かりっこないので俺がだんまりをすれば分かりっこない。
「ちなみにお兄ちゃん、私がピンチになったらどうします?」
「それは……」
即断はできない、もちろんあらゆる魔法を付与するだろうが、それを宣言してしまうのはよくない。
「お兄ちゃん? 正直に言ってくれたら危ないことはしませんよ?」
「ぐぬぬ……」
「さあお兄ちゃん! 正直になりましょう!」
「はぁ……しょうがないな」
俺は付与されたスキルが相手の運に依存して即死させるスキルであることを伝える。
コイツに渡すとドラゴンでもアークデーモンでも相手にしそうでとても怖いんだが……
そうして妹の出した結論は……
「じゃあお兄ちゃん! そのスキルを付与してその辺の運の悪そうな魔物を刈りましょう!」
「だから言いたくなかったんだよ! お前絶対無謀な戦いをするだろうが! っていうか死ぬわ! 俺はただの人間だぞ!」
コイツが負けなくても俺は自信にバフをかけられないので死ぬ、マジで。
「お兄ちゃん……リスクを買わない人間にろくなリターンは無いんですよ?」
「それはリスクなりのリターンがあるのが前提だろう? お前リスクしか見てないじゃん!」
コイツはリターンを完全に無視して平気でランクアップだけを狙って行動する。
脳筋至上主義者に付き合うのは命がいくつあっても足りない。
「じゃあお兄ちゃん、薬草採集の依頼でも受けましょうか?」
「それはいいけど、何か考えてない?」
「いいえなにも?」
――
そうしてギルドに着いた、俺を座らせておいて依頼票の貼ってあるボードの前で依頼を吟味している、薬草採集に吟味が必要なのだろうか?
ようやく決めたらしく、一枚を手に取って受付に提出していた。
「お兄ちゃん! 決まりましたよ!」
そう言って依頼書を一枚俺の前にドンと出す。
「なになに……マンドラゴラの採集依頼……お前話聞いてた? なんでこんな依頼受けてんの?」
俺が問い詰めるとシンプルな答えが返ってきた。
「確かに「薬草採集」でしょう? ただお兄ちゃんは薬草の種類は指定していなかったじゃないですか」
くっ……確かにマンドラゴラも一種の薬草には違いない、引っこ抜くと襲いかかってくる少し凶暴な薬草だ。
「普通ヤバいって思わないか?」
「大丈夫ですよ! たかが植物に生まれるようなものが高い運を持っているわけないじゃないですか! 即死魔法でワンパンですよ?」
コイツはろくな事を考えないなあ……へりくつの考え方はすごいものがある。
「わかったよ……ちゃちゃっと引っこ抜いてくるか……」
俺は重い腰を上げたのだった。
――
ピコーン
――
妹に即死魔法「キル」の使用権を付与しました
――
「うっし、お兄ちゃん。今回のは強そうですね」
俺達は墓場に来ていた、処刑された囚人の墓の元にマンドラゴラは生えている、不気味だし囚人の墓は基本的に誰も来ないのでマンドラゴラが害になることはまず無い。
そう、「あえてそれを引っこ抜こうとする奴がいない」限りは……
「じゃあ抜く前に死なせておきますね、植物風情が人間様にたてつこうなんてできるわけがないんですよ!」
「キル!」
…………
何も起きない、いや、起きているのかもしれないが相手が地面に埋まっているので効いているのかどうかも不明だ。
「お兄ちゃん、効いてると思いますか?」
「うーん……十回くらいかけてから引っこ抜こうか……?」
「ですね」
「キル!」「キル!」「キル!」「キル!」「キル!」「キル!」「キル!」「キル!」「キル!」「キル!」
「植物風情ならこれだけ使えば死んでるでしょう。よし、引っこ抜いてください!」
やっぱりそうなるわけな……
「一応効いておくが俺が抜くんだよな?」
妹は当たり前だという。
「当然でしょう? 私なんかその植物気持ち悪くて駄目なんですよね……」
俺は手袋をして耳栓をはめマンドラゴラを引っこ抜く、幸い悲鳴を上げるようなことは無かった。
「効いてるみたいだな?」
「やりましたね! コレは完璧ですね!」
とても嬉しそうだが俺もこの植物を長く持っておく気にはならなかった。
「ストレージに入れといてくれるか?」
「あ、はい」
ポイと閉鎖空間に放り込まれるマンドラゴラ、あの植物が少し気の毒になる。
――
そうしてギルドに着いてからマンドラゴラを提出して数日後、依頼筋をもらいにギルドを再び訪れていた。
「ちょっと! なんですかコレ! 少ないにもほどがあるでしょう! 依頼票の半分くらいじゃないですか!」
セシリーさんも困ったように答える。
「それが……マンドラゴラが死んでいたそうで……基本的に魔術に使うものは生きていないと駄目なそうですよ。傷一つ無いのに死んでる個体なんて初めて見たと向こうも言っていまして……」
「ああ、今日も苦労が不毛な努力に終わってしまったのか……」
俺が天を仰いでいると声が響いた。
ピコーン
――
即死魔法「キル」の付与権限が取り消されました
――
どうやら今回の依頼限りで使えなくなるようだ、まるで誰かが俺に試しに使わせたようなタイミングで付与が取り消された。
日も高くなっていく中で、ミントとセシリーさんの不毛な言い争いを傍から定食のステーキを食べながら眺めるのだった。
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