妹は料理が得意?
「お兄ちゃん、私たちって付き合ってますよね?」
また妹が妄言を言い出したのか……
「兄妹という意味では付き合ってるな、それ以上に何かあるか?」
やれやれと妹は呆れたように言う。
「お兄ちゃん、いいですか? 一緒に暮らしていてお互いを大事に思う、コレはもう夫婦と言っても過言ではないでしょう?」
「過言にもほどがあるよ! 兄妹と夫婦は全然違うだろう!?」
妹は俺にはっきり言い切る。
「いいですか、夫婦は家族、これはいいですね?」
「それはまあそうだな」
「ちなみに兄妹も家族です」
「せやな」
「つまり夫婦=家族=兄妹、完璧な証明でしょう!」
「そういうのは論理の飛躍と言うんだよなあ……」
とんでも理論を当たり前のように披露するのだが自信を持っていいきられるとそうなのかな? と思ってしまうほどの断言だった。
「いや、そのりくつはおかしい」
「おかしくないです! 私とお兄ちゃんは家族なんですから少しくらい進展があるでしょう!?」
「えぇ……」
「さあデートをしましょう! 今日はちょっぴりお金があるんですよ?」
この前の依頼のお金だろう、コイツに金銭管理を任せたのは大丈夫だったかな?
「なあ、無計画にお金を使うのはどうかと……」
「経済は回すためにあるんですよ? ガンガンお金を使えば経済がよくなるんです!」
いやまあ確かにお金を使うのが悪いとは言わないけどさあ……
「わかったわかった、兄妹として今日は付き合うよ」
「そうこなくっちゃ!」
思い切りいい笑顔で俺達の一日の予定が決まってしまった。
――
「いやあ、おいしいですねえ! お兄ちゃんの方の味はどうですか?」
俺達は寒い中でアイスクリームを食べていた。寒いのになぜって? そりゃあ妹様が望まれたからだよ!
俺はバニラアイスを食べながら、妹はストロベリーアイスを食べながら、俺の方の味をきいてきた。
「ん、うまいぞ。さすがに寒いけど」
「そうですか、ちょっとください」
スプーンで俺のアイスをカップからすくい取って妹は自分の口に運ぶ。
「うーん、美味しいですね、お兄ちゃんの食べているものだと思うと余計美味しいです!」
そう言ってから自分のアイスをすくって俺の方に向けてくる。
「え?」
「ほら、お兄ちゃんも食べてくださいよ。私が食べた分をお兄ちゃんにわけないと不公平でしょう?」
それもそうか。パクリと俺も妹に差し出されたスプーンを口にする。
「ちょっと酸っぱくていいな、コレはコレでいけるな」
「そうでしょうとも! ぐへへ……お兄ちゃんが私のスプーンを……」
「何か言った?」
「いいえなにも」
そうして寒空の中アイスを食べてから、ふと疑問に思ったことを聞く。
「そういえばどうやってアイスを凍ったまま維持してるんだろうな? さすがに溶けそうなもんだが」
「ああ、それは魔法を使ってるからですよ。あの店員さん、ああ見えて魔導師ですよ」
「人は見かけによらないなあ……」
「大したことじゃないでしょう? 私だって冷却魔法付与してもらえたらあのくらいはできますよ」
「そういうものか……」
俺は自分で魔法を使うことができないので難易度がさっぱり分からない、しかし俺が付与した魔法でできるんだからそれほど難しくないのかもしれない。
「寒くなってきたな、食べ終わったし帰ろうぜ?」
妹はすこしもったいなさそうにうつむいてから俺に答える。
「そうですね、『いつでもできる』ことですからね」
いつでもできるか……そうだな、兄妹である限り一緒に居られるんだもんな。
「よし、今日は俺が料理を作ろうか?」
なぜか妹は冷や汗でびっしょりになって俺に言う。
「そそそそそれはやめましょう!!!! 私がいくらでもつくってあげますから! ね! お兄ちゃんが作る必要なんて無いんですよ!! あ! 私今急に手料理が作りたくなりました! これは私が作るしかないですねー!!!」
そうして妹が料理を作ることに決まった。
よほど料理が作りたかったのだろう。俺の手料理は父さんも母さんも『エキセントリックな味』と褒めてくれていたのだが……
「そうか、『いつでもできる』だしな! 今日は任せるよ」
妹は引きつった顔で答える。
「いいいいいいつでも!?!? いえいえ! お兄ちゃんの手を煩わせるつもりはないですから! お兄ちゃんはどーんと食べる事だけしておいてくださいね?」
「お、おう」
俺の手料理が披露されるのは残念だがまだまだ先のことになりそうだな。
「お兄ちゃん? スキルに「料理+」とか無いんですか? あると便利なんですけど?」
「さすがにそこまでご都合主義じゃないなあ……」
都合がいいときに手に入るスキルだが、ジョブがついてから今まで料理を見ているときに一度も与えられなかったので存在しないのだろう。
「欲しいところで無いんですねえ……」
「じゃあ俺がつく……」
「それはいいです! 私が作りますから!」
どうしても自分で作りたいようだった。
「じゃあお兄ちゃん! 私の手料理に感動してくださいね!」
「分かったよ、お前の手料理ってうまいもんな」
「そうでしょう! 私はいつだって完璧ですからね!」
そうして俺達は家に帰り着いたのだった。
――
妹が手料理を作ってくれた。美味しいことは確かなので疑いは無い。
「はい、お兄ちゃん! 手料理ですよ! アイスは冷たかったので夕食は暖かいものにしました!」
そこには煮物やスープなど温かいメニューが並んでいた。
スープを口にすると寒かった体が温まってきた。
「美味しいな……」
妹はドヤ顔で自慢する。
「そうでしょうとも! 私の手料理ですからね!」
そう言って断言する妹がなんだかとても可愛かった。
そうして俺達は暖まってから団らんを楽しんで久しぶりの平和な日に感動するのだった。