妹はスローライフがしたい(するとは言ってない)
「ああ……ゆっくりしたい……」
「ゆっくりしてい……」
「そういうのいいから」
妹の(´・ω・`)とした顔を見ながら考える、ここ最近依頼を受けすぎなんじゃないか? 実はもっとのんびり暮らせるんじゃないだろうか?
「俺は安穏な血なまぐさくない日常を望んでいるんだよ」
ミントは何やらメモっている様子なので横からのぞき込んでみる。
「お兄ちゃんは敵を何一つ残さず消し去る方が好み……」
「なんでそうなるんだよ! 血なまぐさくないってのは比喩だろ! 物理的に血のにおいがしなけりゃいいんじゃないだろ!」
ミントは不服そうにこちらを見る。
「だって文字通りに受け取ったらそうなるじゃないですか……」
普通は文字通りに受け取らないと思うんですが、コイツに常識を教えていない俺の方に問題があるのだろうか?
それはさておき……
「農業とか平和なことがしたい、魔物の討伐に精を出すの疲れる……」
「お兄ちゃんはわがままですねー」
クソ、コイツ分かっててやってるな。
「ほらほらお兄ちゃん、隠居するには早すぎますよ?」
「ヴエエエ……依頼やだー……」
――
妹バフの限定発動をお知らせします
力「A」
――
そう言うところで空気読む必要は無いと思うんですが? このジョブは文字通り俺に働かせたいのかな?
愚痴る俺を余所にミントは気にせず力任せに俺をギルドに運んでいったのだった。
ギルドに来てしまった……薬草採集とかの楽な依頼をこなすことにしようそうしよう。
「お兄ちゃん! 見てください! イビルドラゴン討伐ですよ! 残念ながら私たちのランクじゃ受けられないですが……」
よかったー、マジでよかったー……そんな依頼ポンポン受けてたらいくら強力なスキルがあっても命が足りない。
むー、と膨れるミントをよそに、俺は楽そうな任務がないか探していた。
「あ! お兄ちゃんの望み通りの農家さんの手伝いがありますね! 受けてきます!」
「おい! ちょっとまて!」
その声は聞こえていて無視されたのか聞こえなかったのかは不明だがとにかく依頼は受理された。
「農業、なんだよな?」
「そうですそうです! さあ早いところ現場に行きましょう!」
なぜか依頼書を鞄に突っ込み決して見せようとしないミントが果てしなく怪しいのだが、とにもかくにも依頼を受けた以上こなさないとならないのが冒険者稼業なのだった。
――
畑……だな?
見渡す限りの大きな農場に俺達は来ていた。
「なあ……畑を耕す事の手伝いか何かだよな?」
「お兄ちゃん、現実を見ましょう。これが耕す余地のある畑に見えますか?」
そう、そこは畑だった。脳がこれを意図的に見なかったことにしようとしたのにミントにバッサリ現実を突きつけられた。
ここには少しばかりの野菜だったものと、人一人が軽く入れる程度の大穴がたくさん開いていた。
「ジャイアントワームの討伐ですね。所詮虫けらですし楽勝でしょう?」
「そうして今度はワームの体液まみれになるのか? これが血まみれとどう違うんだ?」
「さあて……何のことでしょうね? お兄ちゃんのお望みの農業じゃないですか! なにを心配することがあるんですか! あ、バフください」
「ああもう! 持ってけ!」
――――
力「A+]
体力「AA]
魔力「C」
精神力「B]
素早さ「A」
スキル「なし」
――――
ご丁寧に農場への被害はできるだけ少なくとのことなのでスキル付与は無しだ、軒並みこの畑が消えて無くなるようなスキルしか無いからな!
「よっし! 力があふれてきますね! これで負ける気がしません!」
今回はレンタルのブロードソードを持ってぶんぶんと振り回している、そもそもあんなでかい剣を借りた時点でまともな依頼じゃないなとは思ってたんだよチクショウ!
ミントはお構いなしに剣を思いっきり地面に突き刺していっている、力のバフのおかげで力一杯刺すと地面が軽く揺れている、いつもの力で敵をあぶり出す脳筋戦法だった。
ぬちゃああ……
その時地面の穴の一つからできればあまり聞きたくない類いの音が聞こえたのだった。
そうして出てきたジャイアントワームを見てミントは……逃げた。
「うわああああああ! お前なに逃げてんだよ!? バフかけたろ? あのくらいなんとかなるだろ!?」
「だってアレすごく気持ち悪いじゃないですか!? アレに剣刺したら絶対ヤバい体液とか出てきますって!!」
ズシンズシンと這い回るワームから俺達は必死に逃げた、やたらとぬめりのある黄土色の表面にギザギザの口の代わりになるものが先端についた一言で言うと非常にキモい生き物だった。
「やばい! ちょ!? マジで死にそう!」
俺が体力の限界で倒れ込むとそれを狙いすましたように気持ちの悪い口が襲いかかってくる。あ、死んだわコレ。
俺が覚悟を決めそうになったとき……
――
火属性スキルが妹に強制付与されました
爆発系スキルが妹に強制付与されました
冷却系スキルが妹に強制付与されました
――
「プロミネンス!」
ミントの剣から炎がほとばしってジャイアントワームを焼いていく、非常にくさい匂いがするがそれはこの際俺が死ななかったからよしとしよう。
そうして巨体を焼き尽くした後に俺達は立っていた、そこにワームの姿はもう無く、炭の塊だけがそこに生物が居たと示していた。
「今回ばかりは死ぬかと思ったぞ……」
「あそこまでキモい生物とは思ってませんでした……」
そうして辺りを見回すと、確かに敵は倒したのだが、火のついたままのジャイアントワームがのたうち回った跡はそれはもう悲惨なことになっていた。
「ああ、今回は依頼失敗だろうなあ……」
「大丈夫ですって! 最低限目的は果たしたんですから!」
そうして重い足取りでギルドへ帰って行くのだった。
――
「え! 報酬が出るんですか?」
「はい……その、少しやり過ぎた分は減額させてもらいますが、ジャイアントワームの死体は肥料としては上質なので、多少の礼金は支払いたいとおっしゃっていました」
「やりましたよお兄ちゃん! 依頼達成です!」
はしゃぐミントだったがその後言いにくそうにセシリーさんが続けた。
「依頼は無かったことにしたいそうです……達成という形にしても構わないがその場合は焼けてしまった野菜の弁償をしてくれと言うことで……」
「ひぐううううううう!!! ひどい! あのキモい虫相手に必死に頑張ったのに!」
こうして今日も俺達は「いつもの」残念会をギルドの仲間にされたのだった……




