妹とデート――妹Side
.ミントの日記
「今日はお兄ちゃんと楽しみました! これは是非とも記録につけておくべきでしょう! そうすべきです!」
そうして私は秘密の日記帳を取り出す。
書き出しはどうしましょうか?
『お兄ちゃんは……』
いけませんね、ありきたりが過ぎます。
もっとお兄ちゃんの素晴らしさをあまねく伝えるような文章が必要です。
「暖かなお兄ちゃんの腕が私を……」
いまいち尊さが出てこない文章ですね。チェンジです。
「敬愛する私のお兄ちゃんは……」
少々ありきたりですがまあこの辺にしておきましょう。文章の枝葉末節にこだわったらきりがありません。お兄ちゃんと私の日々は明日もあるのですから書き出しでいちいち止まっていてはきりがないです。
「お兄ちゃんは私の手を引き……」
ありきたりですね、要調整でしょうか。
大体文章なんてものは翌日思い出して悶絶するような内容の方がいいのです! 過激に書いておきましょう!
「お兄ちゃんは情熱的に私の手を握りしめ……」
よしよし、後から読み返してもお兄ちゃんの私への愛が伝わる文章ですね。
さて、これは日記ですが虚偽を交えるべきでしょうか?
私とお兄ちゃんの記録として後世に残るならやはり多少の虚偽はスパイスでしょう。しかしやはり写実的に兄妹の関係性を書き記すというのもそれはそれでアリですね。
「お兄ちゃんは情熱的に私を抱きしめ……」
少々ねつ造が過ぎるでしょうか? しかしこのくらいの演出を許さないほど後世の史料を読む人たちの心が狭いとは思いたくないのでこれで行きましょう!
「そしてお兄ちゃんは私を連れて颯爽と活躍を……」
活躍を……しましたっけ? 私たちが活躍……? してたでしょうか? してたってことにしましょうか!
そうして私の歴史的史料になるであろう日記は少しずつ完成していくのです。
兄妹の愛情の物語としてこれは貴重な資料になるでしょうね!
おっと、筆がのりすぎて一線を越えそうになりました、いけませんね、そういうことはラストに持ってくるのが作品としてのセオリーってやつです。
作品……もとい事実をこうして書き記すことに多少の恥じらいは持っていますが、私のお兄ちゃんへの愛情をとどめないことでできるというのでしょうか?
――
「おーい、ミント! 出かけるぞ?」
はっ! いけません、ついつい書きたいことを全部盛り込んだせいで書き切れずにねてしまいました。
どうにもお兄ちゃんのこととなると私は熱心になるようです、多少は抑えていった方がいいかもしれませんね。
おっと、今日はお兄ちゃんとのデートの日じゃないですか!? これは早く着替えて一緒に出かけないといけません。
お兄ちゃんに恥をかかせない格好に着替えてっと……よし! 行きましょう!
「お兄ちゃん! お待たせ!」
「ああ……時間はあるんだが……その、床でねてたのか?」
「へっ?」
私は部屋へ戻って鏡をのぞきます、そこには顔にくっきりとテーブルの跡のついた美少女が写っているのでした。
私は木目が顔に残っていても可愛いですが、少しだけ目立ちますね……
「お兄ちゃん! ちょっと待っててもらえますか?」
部屋の前にいるお兄ちゃんに声をかけます。
「別に構わないが、眠いんなら寝ててもいいんだぞ?」
「いえ! お兄ちゃんとのデートなので寝るわけにはいきません!」
私の失態を見てもお兄ちゃんは私を責めません、それは優しさではあるのでしょうが、ときどきは率直な意見が聞きたいですね。
それはそういうもっと親密な関係になってからにしましょうか。今のところこの顔で出てきても笑わないだけのデリカシーはあるということですし。
私は冷たい水で顔を洗って跡が消えるまで少しの間待ちます。
徐々に赤く浮かび上がっていた木目も消えてくれました。
よしっ! これでお兄ちゃんと一緒でも恥ずかしくないです!
「お兄ちゃん! お待たせ!」
「別に構わないぞ、今日はお前の予定に合わせるって言ったからな」
お兄ちゃんは私と一緒なのが嬉しいのでしょう、きっとそうに違いないですね!
「じゃあお兄ちゃん! 行きましょうか!」
――その夜
「はあああああ!? なんなんですかあのクズども! 私とお兄ちゃんのデートを邪魔するとか万死に値しますよ! 到底許されません!」
私はその日の日記に怨嗟の言葉を延々と書き綴りました。私とお兄ちゃんの間を邪魔するものはすべて敵です! 絶対に許しませんよ!
「ある男が私とお兄ちゃんのデートを邪魔して……」
違いますね! 悪役は徹底的に醜く書くべきです!
「その醜悪で見るに堪えない男が私お兄ちゃんの邪魔を……」
あまりその悪辣さが伝わりませんね。
「その男は見るものすべてを不快にさせ、二目と見られない醜悪な顔をして、邪悪なニタニタとした笑みを浮かべ、その吐息は居合わせたものすべてが反吐を吐くようであり……」
よし、このくらい書いておけばあの許されざる男がいかに汚いかが記録として残りますね!
「私はお兄ちゃんに守られながら強力な魔法を持ってその集団を駆逐して、清浄な空気と平和と、なによりお兄ちゃんの愛を手に入れたのでした」
いいですね、やはり話というのはハッピーエンドにした方が受けがいいのです。悪は滅びたと書いた方が私たちの遙か後にこの書を見る人たちを愉快にさせるでしょう。
そうして私は真実と「多少の」嘘……もとい脚色を乗せた日記を書き記したのでした




